ダメもとの告白

@山氏

勢いで告白してみたら

 俺は今、放課後の教室にいる。


 目の前には女生徒が一人。クラスのアイドル的な存在、水瀬がいる。


「どうしたの? 話があるって言ってたけど」


 いつもと変わらない眩しい笑顔で、水瀬は俺に話しかけた。


「あー、えっと……そこまで大した用じゃないんだけど……」


 俺は水瀬に告白しようとしている。


 なんでこんなことになってしまったのか。その原因は少し前にさかのぼる。




 




 昼休み、俺はいつもつるんでいるメンバーで昼食をとっていた。


「なあ、お前水瀬のこと好きなんだろ?」


 急に一人が俺の方を見てそんなことを言い出した。


「な、何言ってんだよ。別にそういうわけじゃ……」


「だっておめー、今日体育の時ずっと見てたべ?」


「なっ!?」


 確かにぼーっとしている時に目で追っていた気がする。


「わっかりやすいなーお前」


「え? 何お前水瀬好きなん?」


 ほかのメンバーもこっちの話に入ってくる。俺としてはさっさと話を終わらせたいのだが……


「じゃあ、もうアレだな。告白するしかないな!!」


 メンバーの一人がドヤ顔でそういうことを言うもんだから、他の奴らまで俺を囃し立てる。


「いいじゃん。一回コクっとけって。失敗したら慰めてやるよ」


「ほっといたら他の奴に取られちまうぜー?」 


「なんなら呼んできてやろうか?」


「あー! うるせえ! ほっといてくれよ!!」


 俺はメンバーを押しのけ、教室から逃げるように外に出た。


「わっ」


「うわっと……」


 教室から出てすぐの曲がり角で女生徒とぶつかりそうになる。


「すんません……あ……」


「ううん、大丈夫。でも、危ないから気を付けてね」


 ぶつかりそうになったのは水瀬だった。


「ごめん……」


「いいよいいよ。行かなくていいの? 急いでるんじゃない?」


「あ、そういうわけじゃ……」


 なんとなしに立ち止まってしまっていた。


「そうなんだ、それじゃあね」


 水瀬は俺に軽く手を振ると、そのまますれ違うように教室の方へ歩き出す。


「あ、水瀬さん」


 俺は何を思ったか、水瀬を呼び止めてしまった。


 水瀬は振り返り、不思議そうな顔で俺を見た。


「どうしたの?」


 呼び止めたものの、特に話すこともない。「ええと……」と俺は言葉を探した。


 水瀬も困ったように俺を見ている。


「きょ、今日の放課後、ちょっとだけ時間いいかな」


「え、うん。いいよ。どうしたの?」


「ちょっと話があって……」


「んー、うん。わかった。じゃあ、放課後ね」


 水瀬は何か納得したような雰囲気を出し、歩いていってしまった。


 そんなことより、どうしよう。


 告白するつもりなんて全然なかったのに、呼び出ししてしまった。


 モヤモヤした気持ちのまま、教室に戻る。


 自分の席に戻ったところで、いつものメンバーが俺に絡んできた。


「で、いつ告白するんだよ?」


 さっきの話の続きがしたいらしい。俺が今日呼び出しをしていると知ったら、どんな顔をするだろう。


「まあいいじゃねえか。それより、今日の帰りはどうする?」


 他のメンバーが話を変えようとする。


「悪い。俺は今日ちょっとやることあるから……」


 俺は少しはぐらかすようにつぶやいた。


「え? 告白すんの!?」


「な!? そんなわけないだろ?」


 えらく動揺してしまったせいで、他のメンバーからジト目で見られる。


「え、マジ? 行動早すぎね?」


「すげえな。びっくりだよ俺」


 そんなにわかりやすいんだろうか。少し落ち込んだ。


「結果報告待ってるぜ!」


 みんなからいい笑顔で送り出された俺は、深いため息を吐いた。


 授業なんてロクに集中できなかったのは言うまでもない。






 そして現在に戻ってくる。


 目の前では水瀬がニコニコしながら俺が話し出すのを待っている。


「え、えーっと……。好き、です。俺と、付き合ってください」


 言ってしまった。水瀬はびっくりしたような顔をしたが、すぐに意地の悪い笑顔になった。


「私のこと好きだったんだ~。ふーん?」


 ニコニコと笑顔を崩さない水瀬。俺は返事を待った。


「うん、ありがとう。返事はちょっと待ってもらってもいいかな?」


「え、ああ。大丈夫」


 水瀬はそういうと、俺に手を振って帰っていった。


 放課後の教室で一人残された俺は、深いため息を吐いて、自分の席に座った。


「フラれるよなー……」


 しばらく教室で項垂れた後、家路につく。




 




 次の日、俺は教室の前で立ち止まってしまった。


 水瀬がいたらどうしよう。そんなことを考えながら。


「おはよ!」 


 すると突然、肩を叩かれる。振り返ると、そこには笑顔の水瀬がいた。


「教室、入らないの?」


「ああ、ごめん」


 俺は道をふさいでしまっていたかと少し立ち位置を変えた。


「なんで謝るの? 変なの」


 クスクスと笑いながら水瀬は教室に入っていった。昨日告白したのは夢だったかのように何事もなく。




 




 


「そういやーよ」


 昼休み、いつものメンツで固まっていると、一人が話を遮って話しだした。


「昨日、帰ってる途中に水瀬見かけたんだけど、顔真っ赤にしてニヤニヤしてたぞ。お前何したの」 


「なんもしてないけど……。それに、告白の返事は待ってくれって言われたし。どうせフラれるよ……うん」


 ため息を吐く。そんな俺を他のメンツは困惑した表情で見つめていた。


 その数日後、水瀬と俺は晴れてカップルになるのだが、それはまた別の話。


 

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