〜flow〜

おがわずひろと

茜色


 音楽に形がないなんて、ぼくも言われるまで気づかなかった。

 それまでに、ぼくは大人だったのかもしれない。今は思う、もし、世界最後の日があるならば、ぼくはイヤホンもしないで大音量で音楽を聴くだろう。


 茜色に染まる校舎を見てそんなことを考えた。

 青春のかたわら。冴えない西に開けた日の当たらなければ、人気のないそんなロケーションで。ぼくは佇んでいた。

 正確には、ぼくと、彼女は佇んでいた…。

こんな時、セミの声でも聞こえれば、空気に乗じて声を絞り上げることができたかもしれないが、この時ぼくができたことと言えば、大袈裟に咳払いをすることだけだった。

 それがきっかけだったのかもしれない。茜色に染まる、腰にかかるまでの髪の毛は、彼女を抱擁するかのようにたゆんで。砂利か何かに反射して彼女の輪郭はおぼろげに、まるでこの場所に彼女がいないように演出している。


「声を聞かせてくれませんか!」


 右手に感覚が戻ってきた、汗をかいていたこんな時期なのに。それが功をそうしたのか、閉口していた元からようやく声を絞り出すことができた。


 返答もなく、まもなく彼女の背中を目で追い切ってから、自分の場所に影が伸びてきていることに気がついた、この領域が隔離シェルだと言われても信じてしまう。ぼくの声は外に届かなかった。

 ただ彼女がこっちに歩き去っていったことだけは…。

 横目に見れた長く艶やかな黒髪の奥に、頬につたった小さな滴。きっとあれは涙なんだろうか。じとっと佇む今のぼくには、わからない。

 

 こんなことはどうだっていいのに、いつまでお覚えていたのは、きっと世界最後の日に思い出すからだろう…。 茜色な夕焼けが手伝って、脳裏に焼き付いた。啜り声にあの声に、ぼくは将来のプランを壊されたーーーーーーー

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