ポンコツ女子大生の日常

@m__a

第1話 「で、どうしようか。」

 セーラー服をした水色の服に膝丈ひざたけのフレアスカート。

 短めの白いソックスにほのかに青いスニーカー。

 二股に分かれた短い三つみ。

 桃色のリュックサック。


 そういう出で立ちをした女の子は上の方を向いてしばらく肩で息をしていたが、やがてしゃがんで地面を見た。


 その女の子は座るためになるべく平らなところを選び細かい砂利を手で払うと自分のスカートを後ろから太ももに押えるようにしながら腰を下ろし体育座りをした。

 そして背中から桃色のリュックサックを下ろすと湯飲みと水筒を取り出した。


 湯飲みを地面に置き、水筒からフタを外して湯飲みに傾けるとやや色のついた透明の液体がコポコポと音を立てながら湯飲みを満たして湯気を上げた。

 こぼれる心配がないくらいまで多めに注ぐと水筒を傾けるのをやめ、ふたを締めてから自分のすぐ横に置いた。


 そして湯飲みを手に取ると左手を湯飲みの底面に置き右手で湯飲みを包み込むように添えてから口元に持って行った。

 そして湯飲みに口をつけると顔を少し後ろに傾けて目を閉じ、ずずず、と少量を口に流し込むと顔の向きと湯飲みを傾けるのをやめ、こくん、と飲みながら、


「で、どうしようか。」


 とその女の子は私のほうを見ずに正面を見ながら言った。


 正面には巨大な扉があり、周りは岩で囲まれている。

 扉は王宮でもそうそう見ないような大きさのもので、頑丈さで言っても簡単に壊せるようなものではない。

 ここは部屋、というか空間であり壁面は岩で構成されている。

 岩に光沢はなく湿り気を感じさせるが空間の湿気は高くなく、むしろ乾燥気味と言っていいぐらいだった。

 空間には走り回れるくらいの広さがあり、天井には光が届いていないので少し飛び跳ねただけでは絶対に届かないくらいに高いことは間違いない。


 そしてこの空間に出口は一つしか存在しない。


 その出口とはもちろん目の前にある巨大な扉だが、閉まっている。

 鍵はかかっているのかどうかわからない。

 しかし簡単には出られない。

 単純に扉が重過ぎるからだ。


 王宮にあるような扉でも巨躯の兵士が2人いて初めて開けられるくらい重い。

 しかもそれは解錠かいじょうされた状態での話で、鍵がかかっていたらまず開かない。

 ここにある扉はそういった扉よりも大体2倍ほど大きい。


 つまり、その扉に鍵がかかっていようといまいと女の子一人の力で押し開けることはできない。

 それは見た瞬間にわかったのでここに来て最初にそう言ったのだが、その女の子は「やってみなきゃわかんないじゃん!」とか言い出して扉を開けようと試みた。

 両手を扉の片面に置いて全身を傾けて押す動作をし、なにやら「むーーーん!!」とかうなりながら取りかかった。


 もちろん扉が動く気配は全く感じられなかった。

 10秒ほど頑張ってみたあとで押すのをやめ、少し呼吸を荒くしてから女の子は扉を見上げた。

 その後で冒頭に述べたように座って水筒のお茶をすすり、「どうしようか?」と私に意見を求めたのだ。それに対して私はこう答えた。


「とりあえず言っておくが、こちらから向こうに押しても開くことはないと思うぞ。この扉はこちら側に開くもので向こう側に開くものではないからな。見ろ、蝶番ちょうつがいが見える。」


「えっうそ!」


 女の子はわたしの方に顔を高速で向けるとすぐに扉に顔を向け直し扉のはしの方をめるようにながめ始めた。

 蝶番ちょうつがいとは扉の付け根にある金属部品のことでこれを軸に扉は回転方向に開く。

 蝶番ちょうつがいが見える位置にあるということは扉は構造的にこちらに開くようにできているということになる。

 つまり、いくら押しても扉は向こう側に開くことはない。


「あー、、ほんとだ。」


 蝶番ちょうつがいの存在を確認した女の子はやや悄然しょうぜんとし、再び湯飲みに口をつけてお茶をすすった。



 そういえばここまで特に説明せずに語ってきていたが、私は猫だ。

 それほど変わった猫ではないが、あえて特徴を述べるなら毛並みの綺麗な白猫だ。

 名前はあるのだがあまり気に入っていない。

 だから言わないでおく。だが、


「ゲレゲレが押すのを手伝ってくれても変わんないもんねえ。」


と、女の子は私の名前を呼びながら思案を深めた。ここはとがめておこう。


綿貫わたぬきローズ、お前には何度も言っているが私はその名前が好きではない。極力きょくりょくその名前を呼ぶのはひかえてもらいたい。」


しかし、


「そんなこと言ってもゲレゲレはゲレゲレじゃん。」


と、その女の子の名前を呼びながら異議を申し立てても特に効果はないようだった。しかしその女の子はその女の子で異議を申し立てたいことがあった。残念ながらそれは私の名前のことではない。


「でもさあ、」


綿貫は前を向いたまま言葉を続ける。


「まさか宝箱を開けたらこんなところに飛ばされるなんて思わないじゃん。」

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