33話.終わり。

 夜の公園に先輩は何故か高校の制服みたいな服を着て、一人で立っていた。

 「先輩。」

 不安そうな気持ちを隠すためにあえて明るく呼んでみる。

 「佐々木…。」

 先輩が後ろを向いて私を見る。先輩の目は誰が見てもたくさん泣いたということがわかる。ますます不安は加速する。それに先輩はどうしていきなり私を千花じゃなくて佐々木と呼ぶのだろう。よくわからない。

 「何かあったんですか?」

 私の不安がばれないように気をつけて話す。

 「私は君と別れようと思う。」

 やっぱりそれだったか。そうだとは思っていた。そうだとは先輩が初めて電話をした時からわかっていた。そうでなければいきなり電話をするわけもなく、私を千花と呼ぶ理由もないだろう。こんなことになると知っていた。知っていたし覚悟もしていた。なのにどうしてこんなに涙が出るのだろうか。私はただ千花さんの代わりでもよかったのにそれすらもできなかったのか。

 「君を千花と重ねて見ているのはだめだと思う。それは千花にも君にも失礼だ。だからこう言う関係はもう終わりにしよう。」

 「私はそれでもいいです。それでも先輩のそばにいられるならいいです。」

 「この2ヶ月の間、ずっと思っていたの。これではだめだと。だからね。佐々木、いや、六花。」

 先輩が下を向いている私の顔を上げて目を合わせようとする。

 「私を見て六花。今からとっても大事なことを言うから。」

 そう言ってから先輩は深い深呼吸をする。

 「六花。私と付き合って。千花としてではなく六花として私と付き合って。」

 先輩はためらいのない声でそう言った。

 「私はもう逃げたくない、もう逃げない。だから私と付き合ってくれ。」

 ためらいのない声に反して先輩の目はとても憂愁に満ちた目をしていた。だから私は思った。あの先輩の残った憂鬱さを、悲しさを、虚しさを、私が全力で晴らそうと。

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