お花摘みに行ってきます
和泉秋水
街娘アイリス
私は王都に住む、ただの街娘アイリス。長い金髪を後ろで一つに纏めている。近所の住民から可愛い可愛いと言われているほどの美少女だ。
さてそんな私は現在、田舎の親元を離れて王都で一人暮らしをしている。
王都では友達と一緒にカフェを経営していて、今日は休みの日。しかも友達三人と同じ休みの日は珍しい。だから今日は久々に友達二人と一緒に街を練り歩いていた。
服屋や雑貨屋を一通り見て気に入ったもの――クマのぬいぐるみだったり、カフェで使えそうなティーカップなど――を買っていった。
久しぶりに三人で街に遊びに出たからか、あっという間に夕方近くになった。空は一部綺麗なオレンジ色に染まっており一日の活動の終わりを告げ始める。
私たち三人は大通りに面したとあるカフェで落ち着く。
私たちはテラス席に座り、頼んだコーヒーや焼き菓子を食べながら雑談に花を咲かせていた。遅めのおやつだ。
「――それでねそれでね、そのお客さん恥ずかしくなって帰っちゃたんだよっ」
「えっ、私が休みの日にそんなことがあったの!?」
「面白かったなぁ」
「私も見たかったなぁ」
「やめときなよ。実際にされたらウザいし」
「それもそっかー」
私はリーズとカフェで起こったことを話していた。
どうやら私が休みの日にスカッとするような面白いことがあったらしい。
そんな話をしているなか、もう一人の友達はというと――
「お待たせしました、こちら苺のショートケーキとフルーツタルト、マカロン、フォンダン・オ・ショコラです。ごゆっくりどうぞー」
「わぁ、いっただっきまーす!」
彼女は食べていた。ただ食べていた。その小さな体のどこにスイーツが入っていくのか不思議なくらいに食べていた。
彼女――ノルンは大の甘いモノ好きで、例え昼食や夕食を食べお腹がいっぱいだとしても、『スイーツは別腹』とでも言うようにいくらでも食べれるのだ。
「ノルン、そんなに食べてたら太るよ」
リーズが心配の声をかける。
これで五皿目だ。心配するのも分かる。だって最近ノルンがぽっちゃりしてきたような、肉がついたような……はっ殺気!?
「……大丈夫大丈夫ー、その分動けば問題ないでしょ」
ノルンは軽い感じで答える。
「ん? なに、食べたいの? ほら、あ〜ん」
「え、ちょっ――んむっ」
「どう? 美味しい?」
「美味い」
「でしょでしょ。ここのスウィーツ絶品なんだよ」
「私も頼もうかな……」
「リーズ!? 陥落しちゃダメよっ」
たった一口でリーズが陥落しそうになる。
ミイラ取りがミイラにっ!
「ほら、アイリスちゃんも、あ〜ん」
「――うむっ」
口の中に広がるチョコレートの甘味。しかしチョコの苦味も少しあって、舌が蕩けそうなほど美味しい。
「フォンダン・ショコラってこんなに美味しいんだ」
「だからいってるじゃーん。ほら、いっぱい注文しよ?」
私まで陥落させられた。ミイラ取りは壊滅した。
しかし、あの美味しさを知ればもう戻れない。後悔はない。
頼んだスイーツが運ばれ、いざ口にしようとしたとき、一羽の小鳥が机に降り立つ。
赤と黒のその鳥は、首に小さな鞄を下げており、私は中から一通の手紙を取り出す。
「……はぁ」
「お? 残念だったね」
「はい。あ、でも一口だけ」
一口だけ味わい、席を立つ。
「では、
「いってらっしゃいー」
「また明日ー。あっ、これ美味いっ」
スイーツを食べられなかったことに落胆するも、私はその場を後にする。
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