第60話、ナデシコ転生!【沖縄戦終結75周年特別編】(前編)

「50口径150ミリ連装砲、 全門斉射!」


「25ミリ機銃、掃射!」


「ヴァルターロケットエンジン型魚雷、空中発射!」


「──大和さん、邪魔な雑兵どもは、すべて片づきました!」




「了解! 主砲45口径460ミリ砲、発射!」




「「「──うおおおおおおおおおおおおっ!!!」」」




 たった一発の砲撃によって、木っ端微塵に砕け散る、巨大なる魔王城。




 ──当然のごとく、あるじである魔王を始め、無数の魔族たちを道連れにして。




 ……おいおい、これでは勇者である、僕の出番はまったく無いではないか?


 そのようにあまりのやるせなさに、胸中でぶつくさつぶやいていると、たった今大陸最凶の魔王軍をあっけなく殲滅した、全員十代の年端もいかない少女たちが、僕のすぐ目の前でずらりと整列するや、片膝をついてこうべを垂れた。


「──提督、魔族どもの掃討、完了いたしました!」


 まさしく文字通りに『巨艦』すらも彷彿とさせる、力強い意志と闘志に煌めいている、黒絹のごときつややかな長い髪の毛に縁取られた、日本人形そのままの端整な小顔の中の、黒水晶の瞳。


 ……ただし、純白のワンピース型の水兵セーラー服に包み込まれた肢体のほうは、小柄で華奢な、年の頃10歳児のものに過ぎなかったが。


 どうして軽巡洋艦や駆逐艦である、『矢矧』や『磯風』や『浜風』のほうが、十代半ば以上の年齢なのに、彼女たちのリーダーである大戦艦の大和だけが、『幼女体形』なんだろうか?


「?………提督、何か?」


「あ、いや、何でもないよ! 『あちらの世界の大日本帝国』とやらの海軍を代表する、大戦艦の擬人化少女が、何でそんなにちっこいんだろうとか、全然思っていないから! ──そ、それよりもさあ、その『提督』というのを、いい加減やめてくれないかなあ?」


「我々艦隊の司令官であるあなたを、『提督』とお呼びして、何か不都合でも?」


「……いや、僕は『勇者』であって、艦隊なんて指揮したことは無いんですけど?」




「何を申されているのです? 艦隊とはすなわち、私たち軍艦擬人化少女そのものであり、我々があるじと定めたあなたこそが、『提督』となられるのは、当然のことわりではありませんか?」




 ええー、何その『謎理論』?


 もしかして『日本』とか言う世界では、一般常識だったりするわけ?


 ──しかし、そんな『非常識』そのものである彼女たちに助けられているのも、また事実であった。


 それ程、このいわゆる『剣と魔法のファンタジーワールド』においても、彼女たち軍艦擬人化少女の絶大なる『力』は、桁違いだったのである。


 とはいえ、文字通りに『軍艦』を擬人化した彼女たちは、大砲や機関砲等の物理的攻撃力しか有せず、防御力に至っては、基になった軍艦の頑丈さがそのまま反映されているだけであり、『魔法』が基本的な攻撃手段であり、ほぼ不死身に近いモンスターが跋扈している、このファンタジーワールドにおいては、あまりにも脆弱なようにも思われるであろう。




 しかし、まさにその『物理』のレベルが、異常過ぎたのである。




 彼女たちのうちでも最強を誇る、大和の主砲の45口径460ミリ3連装砲の前には、どんなに堅牢なる鱗を誇るドラゴンであろうが、一発で粉みじんにされて、比較的小口径の対空機銃ですら、そもそも『鋼鉄でできた人工の鳥』である軍用機を撃墜するために生み出されているので、ワイバーンをも含むこの世界のいかなる飛行物を、撃ち落とすことなど造作も無かったのだ。


 だったら、物理に強い『障壁魔法』等なら大丈夫かと言うと、そもそもいくら物理に強いと言っても、『別の世界の科学が高度に発達した、軍事大国の主力戦艦の巨大砲門』などは、まったく想定はしておらず、ほとんど耐えきれないものと思われ、より強力な魔法を施そうとしたところで、そんなものがいつまでも持続できるはずが無く、術者が魔力切れを起こした際に狙われればお陀仏であり、更に言えば、大和の主砲は射程距離もかなりのものなので、遠方から気づかれること無く、いっそのこと城ごと破壊するといったことも十分可能で、もはや防御もへったくれも無いだろう。


 だったら、たとえ軍艦並みの攻撃力を誇ろうが、所詮は少人数の『少女』に過ぎないのだから、やられる前に全員倒せばいいだけとも思われるが、むしろ『少人数の小柄な少女』であることこそが、最大の利点なのであり、そこら辺の物陰に隠れてしまえば、空からでも見つかりにくく、一度見失えば容易に捕捉することはできず、気がついたらむしろ自分のほうが攻撃を受けてしまっていたというのが、お定まりであった。


 それならば、探知魔法等を使えばいいように思えるが、彼女たちはその強大なる攻撃力に反して、とにかくサイズが小さく、攻撃側にとって『的』にはなりにくく、唯一有効と思われるのは、広範囲に及ぶ『面爆撃』のみだが、これは余計な犠牲が多過ぎて、容易く実行できるものでは無かろう。


 しかも、もはや破れかぶれで、そのような最終手段に出てみたところで、軍艦の化身である彼女たちはデフォルトで頑丈だから、無駄な被害を生むだけで、何の効果も期待できなかった。


 それに対して、基本的に人の心を持たない『兵器』であり、こことは『別の世界』の日本からやって来た彼女たちは、この世界の人々に被害が及ぼうが、少しも心痛めることなく、『無差別攻撃』をやり放題で、的確に相手を殲滅することが可能であった。




 ……考えてみれば、一回の海戦で国家の運命そのものを左右しかねない、『大規模艦隊戦』を前提に建造されている彼女たちに、ファンタジーワールドの魔法使いやモンスターが、太刀打ちできるはずが無かったのだ。




 そんなこんなで、一応のところ彼女たちから『提督』と見なされている僕をリーダーとする、我がパーティの旅路は順調そのもので、どんな魔族やモンスターを相手取っても、向かうところ敵無しの有り様であって、ついに後に残すは『ラスボス戦』だけと相成っていた。




 ……まさか、このまま最後まで、勇者である僕の出番が、まったく無かったりするんじゃないだろうな?














 ──ていうか、むしろ何だか彼女たちが、ように思えるのは、果たして気のせいであろうか?

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