第37話

 ──くっ、まさか、『セブンリトルズ』だと⁉




 毎年恒例の、『シブヤ・ゲットーのハロウィンパーティ』における『悪役令嬢狩り』に、そんな大物がご登場なさるとは⁉




「……『セブン』なのに、六人しかいないじゃん?」などといった、お約束的ツッコミをしたところで、もはや何の意味も無かった。


 何せすでにこちらは、『精霊セイレーン』でもあるゆえに強大な異能の力を誇る、悪役令嬢数十名もの集団のうち、リーダー格であるわたくしことアルテミス=ツクヨミ=セレルーナ以外は、密かに周囲に張り巡らされていた『神聖結界』のために無力されており、完全に『多勢に無勢』の状態にあるのだから。


 よって、現在私は、心から戦慄していた。


 こんなことなぞ、『トリックスター』としての悪役令嬢においては、これまでけしてあり得ないことだった。


 常に、人間たちを──特に、権力者や弾圧者を、翻弄し裏をかき鼻を明かして、けして捕まったり拘束されたり支配されたりせず、常に何者からも自由気ままに振る舞い続けなければならないのに。


 それが今や、完全に進退が窮まっているのだ。


 ──だからこそ、私は、打ち震えていた。


 これまで、味わったことの無かった、屈辱的なまでの、




『歓喜』、に。




「──来た来た来た来た来た来た来た来た来た来た来た、そう来なくっちゃ!」




 聖レーン転生教団シブヤ・ゲットー地区教会堂前の、広大なる広場にて響き渡る、私の嬌声。


 ──その瞬間、いきなりこの場の『聖と邪との力の均衡パワーバランス』が、一変した。




「なっ⁉」


「これは一体、どういうことなのです⁉」


「アルテミス嬢を中心にして、どんどんと、が、増幅しているなんて⁉」


「駄目です! 神聖結界が、もう持ちません!」


「なぜです? 同じ『聖なる』力ではありませんか⁉」


「結界内の力のほうが、あまりにも強過ぎるのです!」


「そんな、馬鹿な⁉ これじゃまるで──」




「「「「「「最終戦争末期における、人類の愚かさに愛想を尽かした、神々の『裁きのいかづち』、そのものではないですか⁉」」」」」」




 完全に混乱をきたして、口々にただわめき立てるばかりとなる、女王メイド隊の精鋭中の精鋭、セブンリトルズたち。


 しかし、本当の『混沌カオス』は、むしろこれからが本番であった。


「──‼ あ、悪役令嬢たちが⁉」


「……全員が、銀白色の髪の毛に、黄金きん色の瞳に、なっただと?」


「アルテミス嬢と、『同化』、しているのか?」


「嘘だろ、、あれって、あれって、あれって──」


「まさか」


「……羽?」




 ──つまりは、




『──こちら、第二使徒ゴウキ形態、完了!』


『──全使徒、飛翔、可能!』


『──航空攻撃の、許可を要請』




 次々に脳裏に直接響いてくる、己と同じ悪役令嬢である、第二使徒ゴウキから第十三使徒ゴウキたちの声音。


「……こちら、第一使徒ゴウキ、飛翔及び攻撃を、許可する」


 そう言って、私自身も背中に大きな純白の翼を生やすや、全十三使徒ゴウキ一斉に、満月の夜空へと飛び立った。




『ウフフフフフフフ』




『アハハハハハハハ』




『クスクスクスクス』




 教会堂前の広場の上空を旋回しながら、明朗なる笑声を上げる、十三体の天使サイシュウヘイキたち。


 完全に言葉を忘れて、ただただ呆然と見上げるばかりの、女王親衛隊と、野次馬のコスプレ群衆たち。


 それも、当然であった。




 これぞまさしく、伝説の『最終戦争アルマゲドン』の、再現なのだから。




 そして、上空より降り注ぐ、『天使たち』の、嘲りの声。


『──もしかして、私たちが、「精霊セイレーン」を名乗っていたのを、洒落か酔狂だと思っていた?』


『いくら「悪役」令嬢だからって、邪悪なる存在と決めつけるなんて、短慮すぎるのではなくって?』


『私たちは、ずっと、見守っていたの』


『あなたたち、人間を』


『果たして、あの大戦争を生き残って、ちゃんと、のかを』


『それとも、結局は同じ過ちを繰り返すばかりの、馬鹿はのかを』


『ずっとずっと、あなたたちの傍で、見守っていたの』


『──そしてついに、今宵、答えが出たわ』


『あなたたち人間は、相変わらず、愚かなまま』


『いまだ人間同士で、争ってばかり』


『一部の人間だけが権力を握り、他の大勢の人たちを抑圧するばかり』


『そのくせ、オリンピックだの万博だの、無駄なお祭りばかりをやろうとする』


『──今夜の、ハロウィンも、同じ』


『こんな、シブヤ・ゲットーなんて言う、堕落と背徳の街を野放しにして』


『夜を徹して、乱痴気騒ぎ』


『ネオジパング中で、あれだけの大災害が起こったばかりだと言うのに』


『オリンピックとか万博とかハロウィンとかをやる暇があるのなら、資金や資材やマンパワーを、災害の復興にこそ使うべきでしょう?』


『──ギルティ』


『──ギルティ』


『──ギルティ』


『──ギルティ』


『──ギルティ』


『──ギルティ』


『──ギルティ』


『──ギルティ』


『──ギルティ』


『──ギルティ』


『──ギルティ』


『──ギルティ』


「──ギルティ」




「『『──もはや、おまえたちネオジパング人には、生きる価値は無い!』』」




 そのように、文字通りの『最後の審判』を下すや、今にも私を中心にして、『神のいかづち』を数万年ぶりにお見舞いして、ネオジパングそのものを、消滅させようとした、


 ──まさに、その刹那。




「……何を、『人形』風情が、賢しらなことを、おっしゃっているのですか?」




 唐突に、鳴り響く、涼やかなる声音。




「『『──きゃああああああああああああああああっ!!!』』」




 何とそれと同時に、私たち精霊セイレーンの羽が一斉に消滅して、あっという間に地面へと叩きつけられる。


「……いてててて」


 泥だらけになってうずくまりながらも、私が痛みに耐えつつ、すぐさま顔だけを上げれば、


 すぐ目と鼻の先に、漆黒のワンピースと純白のエプロンドレスからなるメイド装束をまとった、おかっぱ頭の少女がたたずんでいた。




 ──その手に、聖書型の量子魔導クォンタムマジックタブレットPCを、携えながら。




「天使や、神様が、どうしたと言うのです? この世界サクヒンの中で、『サクシャ』に敵う者がいるとでも、お思いですか?」

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