第19話

 世界宗教『聖レーン転生教団』総本山、聖都『ユニセクス』、教皇庁地下最深部に極秘に設置されている、『アハトアハト最終計画研究所』。




 ──その中央にて、あたかも巨大な樹木であるかのようにそびえ立っている、教団が極秘に開発に成功した、生体型バイオ量子コンピュータの根元にて、あたかもゲンダイニッポンの18禁Web小説あたりにありそうな、『触手に絡み取られた聖女様♡』そのままに、妙齢の僧服姿のシスターが一人、無数の小枝型のコードによってコンピュータ本体と接続されていた。




 このような異常極まる状況だというのに、少しも臆することなく、彼女──否、『彼』へと向かって言葉をかける、私こと、転生教団異端審問第二部、『異端転生者』取り締まり専任司教、ルイス=ラトウィッジ。


「……まったく、ジャヴァ司祭、あなたらしくもありませんな? 確かに今回の目標ターゲットは、召喚術と錬金術に関しては超一流ですが、戦闘に関しては大した能力チカラを持っていなかったはずです。腕利きの帝国兵まで付けて差し上げたというのに、あなたほどの戦闘魔術のエキスパートが、どうして返り討ちなんかに遭ってしまわれたのですか?」


 そのように、部下に対して問いかければ、目の前の初対面のシスターが、目をつむったままで口を開いた。




『……申し訳ございません、ラトウィッジ司教。相手の力量を、完全に見誤っておりました』




 ──それは、いまだ年若い女性のものとは到底思えない、しわがれた男口調の声音であった。


「ほう、目標ターゲットが、思いも寄らぬ『戦闘手段スキル』でも、隠し持っていたのですか?」


『いえ、本人の戦闘手段スキル自体は未確認のままですが、召喚能力のほうが、予想以上だったのです』


「転生教団における『召喚術士判定試験』においても、『A+』をたたき出したというのに、実際はそれ以上だったと言うのですか? ふむ、小賢しき鼠めが、わざと実力を隠していましたね」


『はい、あやつが召喚したのは、「キヨシモ」という名称の少女型の兵器で、己の右腕を変化メタモルフォーゼさせた、大砲を武器といたしておりました』


「大砲を武器にする、キヨシモ、ですか?」


『ええ、そのようなことを申していた、人工的な音声が聞こえたのとほぼ同時に、目標ターゲットの召喚物が攻撃行動に移りましたので、それ以上の情報は記憶しておりませんが』


「──いえ、今のところは、それで十分です、ご苦労様でした、もうください」




『はっ、教団のお役に立てて、光栄でございます』




 文字通りにその言葉を最後に、ガクリと力無くこうべを垂れる、『司祭』殿。


 ……おやおや、のシスターのほうも、身罷ってしまいましたか。


 やはり最近の訓練不足の『巫女』では、一定時間以上の集合的無意識とのアクセスは、耐えきれないようですねえ。


 ──まあ、お陰で必要なデータを、『死者の記憶』から得ることができたので、良しということにいたしましょう。




「……それにしても、『あちらの世界』のかつての大日本帝国海軍の、一等駆逐艦ゆうぐも型の19番艦、『きよしも』を召喚してしまうとはねえ。ふふふ、案外目標ターゲットには、『提督』の素質がお有りなのかも知れませんな。確かにこの剣と魔法のファンタジーワールドにおいても、『軍艦擬人化少女』は恐るべき脅威ですが、まあ、対抗手段が無いこともありません。しばらくの間は泳がせておくことにしますか。──我ら聖レーン転生教団にとっても、さぞかし有用なデータが取得できそうですからね」




   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑




「──もう、いい加減に、してくださいいいいいい!!!」




 そのように、「──いいいいいい」という残響を置き去りにして、ゴロゴロとした大きな岩石ばかりが転がっている広大な石切場の、遙か遠くへと吹っ飛んでいく、漆黒のシスター服をまとった、二十歳はたち絡みの女性。


 そんな哀れなる姿を目の当たりにしながらも、まったく躊躇なく、続け様に遠距離艦砲射撃をお見舞いする、清楚なワンピースをまとった幼い女の子。




 ──彼女の華奢な右腕を変化メタモルフォーゼさせた無骨な砲門が、再び急速に熱をおびだしたかと思えば、耳をつんざく轟音が鳴り響く。




「ひええええええええええええええっ⁉」


 盛大に絶叫しながら、爆風とともに弾き飛ばされて、今度はこちらへと戻ってくる、シスターさん。


 ……普通だったら、死んでいるか、さもなくば重症を負っていてしかるべきだが、彼女の素肌や衣服には、かすり傷一つついていなかった。


 そして、むしろ元気いっぱいで鼻息も荒く、直接の加害者のワンピースの少女である、自称『大日本帝国海軍の誇る一等駆逐艦きよしも』と、彼女を異世界『ニッポン』から召喚した張本人である、一応は自他共に認める凄腕の召喚術士兼錬金術師の、僕ことアミール=アルハルのほうに向かって、必死の形相でまくし立て始める。




「──ギブギブギブギブギブ! 降参! 降参いたします! もう、許してくださああああああああい!!!」




 ……お前はシスターではなく、『搾○病棟』の女ドクターか?


「いや、『泣く子も吊す』で高名な、聖レーン転生教団異端審問第二部の刺客が、そんなにあっさりと降参しないでくれよ。この先『血で血を争う逃避行』を繰り広げていこうと思っていたのに、のっけから『企画倒れ』になってしまうじゃん? あんたって、なんかすごい防御障壁の使い手みたいで、かすり傷どころか、衝撃ショックの一つも感じていないようだし、まだまだやれるだろう? もうちょっと頑張ってみようや、ファイト!」


「──無理無理無理無理無理、絶対に無理! もうその子の攻撃を、真っ正面から食らうのは、御免被るわ!」


「どうしてよ、こいつの攻撃は完全に防ぎきっていたし、ダメージのほうも全然無いみたいじゃない?」


「物理的肉体的な耐久度はともかく、精神的にはすでに限界だわ! 一体何なの、その子の攻撃って? 絶対に『対人戦』レベルでは無く、大規模な軍勢を相手にした、ガチの『戦争』レベルでしょうが⁉ そんなのまともに食らい続けていたら、いくら防御障壁で防ぎ続けていても、生きた心地がまったくしないものだから、先に神経のほうが参ってしまうわよ!」


「……あー、さすがは、戦闘のプロ、やはり見抜かれたか。こいつは『あちらの世界』で駆逐艦と呼ばれる、自分より巨大かつ強大な戦艦や航空母艦の護衛役を担って、多数の軍艦入り乱れての大規模海戦において、敵の戦艦と我が身を省みずに渡り合うといった、攻撃力に全振りした、いわゆる『壊し屋デストロイヤー』と呼ばれている艦種なんだよ」


「戦争は戦争でも、大規模制海戦闘かよ⁉ そんなもの、少々防御魔術が得意なだけの一個人が、太刀打ちできるわけがないだろうが⁉ ──しかも、何その子? そんな小さな身体でありながら、弾薬がまったく尽きずに砲撃し放題なのは、一体どういった仕組みなの⁉」


「──うっ」


 やっぱり、そこを突いてきたか。


 ……そりゃあ、気になるよなあ。


「い、嫌だなあ、シスターさん。軍艦擬人化美少女は、ある意味『魔法的存在』なんだから、そこら辺のところを追及しちゃあ、無粋ってもんでしょうが?」




「──そんな、雑なごまかし方が、あるか⁉ 魔法的存在と言うのなら、魔術師である私も同様ですよ! しかしそれでも、個人が使える魔力には限界があって、防御障壁もいつまでも万全に張り続けられるわけではなく、だからこそ降参したのではないですか⁉」




 くっ、すんなり、言いくるめられなかったか……ッ。


 ……仕方ない、面倒だが、一応説明してみるか。




 しかし、この子が使用している砲門が、無限に砲弾が供給される、いわゆる『マンガ大砲』以外の何物でも無いことを聞いて、果たして納得してくれるであろうか?

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