第18話

「──ちょっと待って! それじゃまるで僕が、『最強の存在の召喚』にかこつけて、裸の美幼女を所望したみたいじゃないか⁉」




「……我は、ショゴス、我を求める者の欲望を映す、鏡なり」




「いやああああ、やめてええええ! 瞳からハイライトを消し去って、それっぽい台詞を言うのは、おやめになってええええ!」




 ……つまりこれから僕は、本当はショゴスである美少女に取り憑かれて、だんだんと世界に対する認識を狂わされていくといった、題して『キヨのうた』という、クトゥルフ神話的エ○ゲーの主人公になってしまうわけなんだな?


「それっぽいも何も、数限りない大勢の『提督アドミラル』が、軍艦が少女であることを望んでいるのは、確かなことなのです」


「旧日本海軍には、ロリコンしかいなかったのかよ⁉」


「? 戦時中の話ではなく、現代日本における、『提督アドミラル』たちのことですが?」


「え? ゲンダイニッポンの提督アドミラルって?」




「はい、美少女艦隊ゲームに現を抜かしている、『プレイヤー』としての提督さんたちです」





「──だから、何でこの作者ときたら、隙あらば『メタ』をぶっ込んでこようとするんだよ⁉」




「いいえ、別にメタというわけではございませんよ?」


「……む、どこが違うと言うのだ?」




「召喚術士ともあろうお方が、まさかお忘れなのですか? 集合的無意識には、ありとあらゆる世界のありとあらゆる時代のありとあらゆる存在の、『記憶と知識』が集まってくるのですよ? ありとあらゆる世界と言うからには当然、ゲーム等の創作物の世界さえも含まれなければならないのです。──そう、普通の我々の世界と、ゲームの世界とは、世界としては等価値なのであり、たとえそれが本物の戦時中の帝国海軍の提督であろうが、美少女軍艦ゲームのプレイヤーとしての提督であろうが、提督としては等価値なのです」




 ──な、何だってえ⁉


 あの歴史上の、偉大なる帝国海軍の提督の方々と、単なるヒキオタニートの萌えゲームジャンキーに過ぎない、自称提督(w)たちが、提督として等価値だと⁉


 ……い、いや確かに、あくまでも論理的には、集合的無意識論や量子論に鑑みれば、けして間違っているとは言えないけれど。


 そのように、僕が半ば、彼女の強弁に対して、納得しかけた、その刹那、




「まあ、そういった、本当の理由のほうを申し上げましょう」




 ──うおおおおおおおおおおおおおおおおおおいっ!


「何だよ、冗談て⁉ お前、僕のことを『提督アドミラル』とか呼んでいるけど、心では少しも尊敬していないだろう? いいから、本当の理由とやらを、さっさと白状しろ!」


「……あきれた。そんなもの、ご自分の胸に聞けば、いいではありませんか?」


「な、何?」




「私を求めたのは、あなたご自身ではないですか? ──『最強の存在が欲しい』と。だったら当然、本来駆逐艦である私が、こうして少女の姿をしているのは、それが私にとっては、最強の状態であるからなのですよ」




 ……………………………………は?


「少女の姿であることが、むしろ最強の状態、だと?」


「想像してみてください、例えば、現代日本のWeb小説で有名な作品における、ぎんで大暴れをする自衛隊と異世界の軍隊とを、私で置き換えてみればいいのです。たとえこのような幼い女の子が銀座を歩いていても、誰も不審に思わないでしょうから、まんまと最も人口の密集している地点にたどり着けるし、そこで駆逐艦としての本性を発揮して、主砲を四方八方にばらまいたら、自衛隊の戦車どころの被害じゃありませんよね?」


 ──うわっ、よりによって、何つう例えを出しやがるんだ⁉


「そんなの、すぐに警察やそれこそ自衛隊が、鎮圧に出動してくるだろうが?」


「ほう、現代日本の警察や自衛隊の装備で、第二次世界大戦中の駆逐艦に敵うとでも?」


 ………………………………あ。


「そ、そうか、駆逐艦と言えば、最弱最小の軍艦だと思いがちだけど、本来は味方の戦艦や空母の護衛として、敵の戦艦等とやり合うのが任務だから、戦闘能力は馬鹿みたいにあるんだっけ? ──だったら、航空兵力を投入すればいいじゃんないのか? 軍艦にとっては、最大の天敵だろうし」


「私が物理的に、軍艦そのものだったらね。でもこの通り、現在の私は小柄な女の子の姿をしているのだから、物陰にでも隠れてしまえば簡単には見つからないし、かといって、大量破壊兵器を使って建物ごと破壊しようとすれば、銀座そのものの被害自体が甚大なものとなってしまって、本末転倒でしょうしねえ」


 た、確かに!


「ず、ずるい! そもそも大規模海戦用の軍艦を、陸戦に使うなんて、反則だろうが⁉」




「そうです、紛う方なく『反則』なのですよ。──そして同様に、まさしく現代日本の転生系Web小説における定番の舞台である、剣と魔法のファンタジーワールドである異世界においてもなお、この上なき反則技チートである、大規模海戦用の現代兵器であるからこそ、『最強』になれるのだと、申し上げているのです」




 ──‼




「わざわざ軍艦を女の子にしておいて、『萌え』効果だけで満足しているなんて、一体何を考えているのやら。せっかく銀座でもどこでも歩き回れるようにして、単独でも鬼みたいに強い力を与えておいて、馬鹿の一つ覚えみたいに、海上での集団戦ばかりやらせるなっつうの! むしろその小柄な女の子の身体であるメリットを最大限に活かして、対人ゲリラ戦に特化すべきでしょうが? 特に科学的かつ物理的な軍事技術が、第二次世界大戦当時よりも格段に劣っている、このファンタジーワールドにおいては、たとえ相手が大魔導士であろうがドラゴンであろうが魔王であろうが、一対一の闘いにおいては、とても負ける気なんてしないんですけどねえ」




 ……うん。


 例えば、魔王城における、最終決戦の場において、


 魔王の目の前に、小柄な女の子が、武器を何一つ持っていないのはもちろん、魔法力の類いをこれっぽっちを感じさせずに、現れた場合、


「油断するな」と言うほうが、おかしいだろうし、


 しかも突然、駆逐艦レベルの攻撃なんかを繰り出してきたら、


 百戦錬磨の魔王であろうと、防ぎきることはできないであろう。




「そ、そうだな、君が負ける姿なんて、一つも想像できないや」




「ようやく、おわかりになられたようですね? ──そうなのです、私は単に駆逐艦であるだけではなく、少女でもあるからこそ、真に最強で在り得るわけなのです」

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