ラマのかぶり物した状態で異世界行ったら、悪ノリするしかないよね! (短編)

F

ラマじゃなくてアルパカだったけどラマでいいや

ラマの頭のお面ならぬかぶりものがある。マスクっていうのかな。白いもふもふでさわり心地良さげに見えて、その実、安物だからあんまりさわり心地良くないやつである。


今日は友達の誕生日だから、学校でこれかぶって驚かせつつプレゼントをあげよう、という無意味な企画を友達とたてて、裏切り者の友達は買うことをせずに私だけかぶりもの役である。

裏切り者め!

これだから女子は!


いいもんね! 1人だけだろうと乙女の恥じらいより面白さを私は選ぶもん!

はやくから登校していたクラスメイトたちも、私のラマを見て笑ったり話しかけてきたりと忙しい。


「来たよ来たよ! 準備して!」


かぶりものは拒否ったくせに楽しんでいる友達が廊下をのぞいて指示をする。

わだかまりは横に置いといて、ゴム臭いマスクを装備!

手には誕生日プレゼント。

周囲にはによによ見守るクラスメイト!

準備オッケー! と私は裏切り者にグーっと親指を立てた。

小さい穴の中で、裏切り者の彼女がうなづいたのが見える。


「おはよー」


「おはよーやっちゃん! ね、あそこ見て見て」


「え? ……え!?」


やっちゃんのタレ目がこちらを見たタイミングで、私は高らかに叫んだ。


「誕生日おめでとう!」


心なしか、周囲もぱあああって輝いてる気がする。


「あり、あ、えええ!? なにそれ!?」


はっはっはー! 驚いたか! 存分に驚きたまえよ! 五千円もしたんだからな! ラマ! プレゼントより高かったんだからな! ラマ!

お年玉使ったんだからな! ラマ……。


「さなちゃ──」


やっちゃんが私を呼ぶ声は最後まで聞こえなかった。

彼女が「ん」と言い終わる前に目の前から彼女は消えた。そして代わりに、白い石の床と、そこに敷かれた赤い絨毯、そのまわりに立つ騎士っぽい格好の男性たちと、ちょっと階段を登ったさきにある椅子に座っている王冠をかぶったおじさんがいた。


ん?

んんんんん??


「おお、成功した……せ、成功……か?」


王冠かぶった王様っぽいおっさんが首をかしげている。私も首をかしげた。

おっちゃんが横を見たのでそちらを見ると、なんか顔色の悪い、ファンタジーな白ローブを着たおじいさんがしきりに水晶玉と私を見比べていた。


「魔術師長よ、あれが聖女なのか?」


「お、恐れながら陛下、聖女さまで間違いないようでございます……」


「そうか」


私知ってるあの顔。ポーカーフェイスって言うんだよね。ポーカーやったことないけど。

陛下って言われたおじさんはポーカーフェイスで私に笑顔を向けた。


「聖女さま、突然のお呼び出しをどうかお許しください。ここはカイゼン王国、そして私はその国王をしております。この世界に危機がおとずれ、解決には異世界より聖女さまをお呼びするほかなく、こうしてお呼びしたのでございます。

役目を終えてのちは、来たその瞬間に戻れる帰還の術がございます。ですのでいつでもお帰りいただけますが、今少しどうかお時間をいただき、この世界を救っていただけませぬか。お願いいたします」


どうやら私、異世界に来たようである。

まじか。まじかまじかまじかまじか! まじか!

ちょっと地に足つかない、浮ついた気分。ファンタジーな夢の国にやってきたみたいな高揚感があったのがいけないんだと思う。

王様はいい人だ。この国はたぶん、まともに私を日本に返してくれるいい異世界だろう。たぶん。

そんな安心感もいけなかったのだ。


今これは真面目な場面。

分かってる、分かってるんだけど、私は今ラマのマスクをかぶっているわけで。だから、がまんできなかったんだ。

私は思いっきり息を吸った。



「メェー」



荘厳な異世界の玉座の間の空気が、停止した気がする。

……ところでラマの鳴き声ってなんだっけ。苦肉の策でメェにしちゃった。くやしい!


「…………おい魔術師長」


「はっ!」


「聖女さまと意思の疎通そつうはできているのかこれは」


「そ、そのはずでございますが」


「そうか……」


王様は真面目な顔のまま、私をまた見た。


「……聖女さま、今のお言葉は、承知いただいたということでよろしゅうございますか」


「メェ」


「い、今の言葉は、はい、という意味でしょうか」


「メェ」


くっ、腹筋が。

声が震えそう。マスクしててよかった、顔がにやけてたらバレバレだもんね。


「いいえ、という意味ですとどういう言葉になりますか」


「メェエエエエー!」


「なるほど」


王様ポーカーフェイスだが、周囲を守る騎士たちはどうなのだろうか。ラマの目の穴、小さくてはしの方は見えないけど、王様の近くにいる騎士は、眉間にしわ寄せていた。

くっ、腹筋がピクピクしてる。だめ、もう、もうだめ。

く、くくく、くくくくく。


「では了承いただいたということで──」


「はははは! ひー、ひぃー、あは、も、もう無理。あはははは!」


腹を抱えて、赤い絨毯の上に尻もちついて笑う私を、王様たちはあっけにとられたように見ている。

ひとしきり笑って、はぁーはぁーと息を整え、立ち上がる。


「あー面白かった。ごめんなさい、悪ノリが過ぎました。悪気はないです。とりあえず自分の命に関わらないならご協力します。あと痛いのも嫌です」


「お、おお……こちらの言葉も話せるのですね」


王様、遊ばれてて怒るどころかホッとしてらっしゃる。まじいい王様だね。なのに玉座からこっち見下ろした配置なのは、王家の威信を守るだとか、聖女といえどへりくだりすぎないほうがいいとか、聖女の気が強すぎたときに威圧するためとか、そういう理由なのかな?

王様守ってる騎士の目が怖くてマスク外せないわ。どうしよう。


「はい。すみません、つい。ちなみにこの顔はラマと言います」


「聖女さまはラマ殿とおっしゃるのですね」


「いえ、この顔の動物の名前がラマです。まぁラマでもいいです。やっぱラマで。ふふ」


また悪ノリしていると、王様は呆れたような、でも優しい顔で笑った。


「聖女さまは明るいご気性のご様子。突然のお呼び出しで悲嘆なされることがなくて、ようございました」


めっちゃいい王様だなぁ。そりゃあ王様守る騎士も、バカにされたらマジギレするよなぁ。はははは。王様守る騎士の目がまじ怖いどうしよう。


「えーっと、あの、王様? 一つ約束していただけますか」


「なんなりと。可能な限り応じよう」


「悪ノリしておちょくったことについて、許していただけますか?」


「ははは! いいとも、そんなことか。こちらこそ勝手に呼び出したこと、許していただきたい」


「いえいえ、じゃあ、怒られないってことで」


「うむ。安心なされよ」


「じゃあ、ほんと、怒らないでくださいね」


しつこい私の言葉に王様が、ん? ってなっている間に私はラマの頭の毛を握る。そして蒸してゴム臭いマスクを脱ぎとった。


「はぁー、あー臭かった」


「なんと」


ざわ、と周囲にいる人たちの空気が騒ぎ、私は素の顔で王様に笑いかけた。


「どうも! ラマです!」


悪ノリは続いているけど。

あ、もしかして髪ボサボサじゃん?

自己紹介後になってしまったが、手ぐしで整える。


「ふ、はははははは! そうか! そういうことであったか。いや、驚いたぞ。歴代聖女にも顔が動物のものはおらなんだからな。そうか、かぶりものであったか」


王様さすが懐深い。

守ってる騎士は渋い顔してるけど、王様が許してくれてるから怒られないはず! たぶん!

まわりを見ると、笑いをこらえてるっぽい人のが多かった。よかった、ノリのいい国民のが多いようだ。よかったぁ。魔術師長と言われてたおじいさんは、ほーっとした顔してる。ごめん!


「どうもすみません。ちょっと友達にサプライズプレゼントするところだったんです。あ、そういえばプレゼント。あった!」


てんやわんやで手元がおろそかになってるうちに落としていたらしい、ピンクの包み紙のプレゼントを拾う。バッグがないので、とりあえずラマのマスクに入れといた。


そんなこんなありましたが、王様からこの世界で起きている問題というのを聞いた。どうも私はこの世界では雨女らしく、干ばつで世界の食料が不足し、戦争もありえるな感じの世界を旅して雨を降らせてほしい。と言われた。


雨女は雨女でも、いるときだけ降る雨女じゃなくて、その地域の雨が降る仕組みを潤すとかなんかそういう異世界的な事情らしい。


高気圧とか低気圧じゃなくて、世界中で水の魔力が不足して雨が降りにくくなっているんだそうだ。水の魔力が不足している原因は水の精霊の代替わりにあるとかで、幼い水の精霊だけでは世界中を潤すには足りなくて、それで雨女ならぬ聖女が呼ばれたんだってさ。


世界中を旅しないで一箇所にとどまっていても別にいいらしいんだが、せっかくだから旅しよう。ということで平和な地域限定で護衛つけてもらって観光旅行を満喫してから日本に帰った。


旅の途中で恋とかありそうな感じだったけど、旅先での恋なんて一瞬で消えていくものさーさいならー。護衛騎士たちは、恋にならないように、かつしっかり守れるように経験豊かなおじさんと女性で固めてもらった。

女性騎士ときゃっきゃうふふと楽しい旅を終えて、私は再びラマをかぶり、プレゼントを手に乗せる。


視界がぱあああと輝いて、目の前には驚いた顔のやっちゃん。


「メェー!」


「メェ!? ヤギなの!?」


「はは、ラマだよ。鳴き声は知らない。誕生日おめでとう!」


「え、あ、うん。なんかすごい光ってなかった?」


「光ってた? 私マスクで見えない」


「あはは」


「光ってたよ! だれか懐中電灯でもつけた?」


裏切り者の協力者も来て言うけど、みんな首をひねっている。机の下をのぞいている人もいるが、仕掛けなんかないよ。

こういう時は話を流すが一番だよね。


「それより、プレゼント! はい!」


「ありがとう! ラマの意味はわからないけどありがとう!」


「ラマはあげないよ!?」


「いらないよ!?」


ははは、とみんなで笑い合う。なんということのない登校の時間。

もう、懐かしいとさえ感じるよ。ひとり夏休み楽しかった。

マスクにこもって外には漏れない、小さな声で言った。


「ただいま」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ラマのかぶり物した状態で異世界行ったら、悪ノリするしかないよね! (短編) F @puranaheart

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ