第5話 血塗られた少女の闇は深い


6月13日


俺はベッドから起きたが何も起こることなく次の日になった。

顔を洗い、素早く着替え、朝ごはんを食べ、歯磨きをし、外へと出ると、天音とまどかが待ち伏せしていた。

昨日2人とはラインを交換してグループを作り、夜にやりとりして行くうちに朝にも八乙女を観察することが決まった。早い事行動を起こしてもデメリットはないとの判断だ。そして、八乙女の家の通り道ということで、俺の家の前が待ち合わせ場所になったのだ。時刻は8時。学校は9時から始まるので、八乙女が家から出るまでは時間に余裕がある。


「来たようね。少し遅いんじゃない?」


うちの制服を見に纏い、左手には鞄を持っている。昨日と全く変わらない天音がいる。


「集合時間ぴったりだと思うが」


「神崎くんは5分前行動というものを知らないの?」


「知っているが、あいにく俺は時間ぴったりに行く癖があるから治せない」


「そう。ならこれからは集合時間の30分前から居ることね」


「何でだ?」


「私を待たせないためよ。何故私は神崎くんのために待たないといけないの?そんなの死んでもやだ」


「考えとく」


「えぇ、じっくりと考えて欲しいわね」


「それと寝癖ぐらい直しなさい」


「確かに忘れていた」


「人会う時の身嗜みも出来ないなんて子供ね」


「天音を人と思ったことがないからな」


「言うようになったわね。刺されたいの?」


「いや」


「えーと。もういいですか?お2人の会話にもう5分も経ってます。会話に夢中になるのも良いですが、早く行かないと未来ちゃんが行ってしまいますよ?」


2人のやりとりに耐えられなくなったのかまどかが割って入る。


「そう、そうね。夢中になってなかったけど、早速行きましょう」


「あぁ」


そして、俺たちは八乙女の家に向かった。



俺たちが八乙女の家に向かうとちょうど同じタイミングで八乙女が家から出るところだった。

八乙女を発見すると俺たちはボロアパートの裏手に隠れる。


「美咲、今日は帰れないの。だから、耐えてね...」


八乙女の母親と思われる人物が悲しげにそう伝える。そして、それを聞いた八乙女は顔を曇らせる。


「わかった」


小声で呟く。


「ごめんね」


そう告げると母親は先に何処かへと向かった。取り残された八乙女は、


「うぜぇー」


と独り言を言った。



「思った以上に何かあるわね」


八乙女の様子を伺っている天音が意見を言う。


「ですね。虐待とかされてるんじゃないでしょうか?」


まどかが突拍子もないことを言ってきた。


「どういうこと?」


「未来ちゃんの母親っぽい人が去り際に「耐えてね」と呟きました。ここで可能性が二つ上がります。一つ目は単に一人になるから耐えてと、そして、二つ目は父親かそれ以外の人に虐待をされているから、それに耐えてと言ったんじゃないでしょうか?でもここだと父親の線が高いですね」


まどかの推察力を目の当たりにしてしまう。


「確かにそういう捉え方も出来るわね。私は前者だと思っていたから、可能性の一部に入れとくわ」


「それにしても、思ったより八乙女は闇が深そうだ」


陰口を言うキャラじゃない八乙女が言うのだ、それ程追い詰められているのだろう。


「それでこれからどうするの?八乙女さんを尾行しているだけでは平行線だと思うのだけど、何か案はない?」


「尾行の他に私は未来ちゃんの身体に傷がついていないか気にしてみます。それと色々な生徒たちに探りを入れてみます。何かボロを出すかもしれませんし」


「俺は適当に八乙女を観察してみる」


「わかったわ。各々任せるわ。私も色々やってみる」


「ちょっといいか?」


「何よ」


「なるべくこれからは3人で行動した方が良いと思う」


「神崎くんが意見なんて珍しいわね。でも、各々で動いた方が効率が良いのでは?」


「いや、八乙女を犯人が狙っているなら、もう俺たちが動いていることは知られていると思った方がいい。だから、あまり1人にならないで3人で行動する。ある程度はそれで危険は防げるだろう」


そもそも俺たちはぼっちだった奴らが集まったに過ぎないのだ。各々行動すると言うことは友達も居なく本当に1人行動になってしまうのだ。


「それなら尚更各々で行動したら良いと思うけど。犯人が1人の所を狙うとしたら、好都合じゃない?もしそこで捕まえられれば、見事事件解決よ」


「生徒1人1人に「あなた犯人?」って聞いて回っていた天音に言った俺がバカだった」


「何か間違っていた?」


間違いありすぎだ。さも自分が間違ってなかったかのように言うのやめて欲しい。


「いや、それはもういい。天音には何言っても無駄と感じた。けど、天音はそれで良いかも知れないが、まどかはどうするんだ?」


「ま・ど・か!初めて呼んでくれましたね!嬉しいです!でも...。私はまどかちゃんです!」


微笑を浮かばせ、能天気なまどか。名前を呼ばれたことが凄く嬉しいようだ。


「わかったわ。確かに小学生を1人にするのは危険ね。私が間違っていたわ。神崎くん...。あなたの意見に賛成する」


天音はまどかを改めて見ながら、意見を改める。


「誰が小学生ですか!私は高校生です!何度言えばわかるんですかー。天音ちゃんは本当意地悪ですね」


「何か言った?」


人を殺しそうな目でまどかを睨む。すると、まどかは身体を震わせ、怯えたように言う。


「い、いえ...」


「決まったことだし、尾行続けるか」


「指図しないでって何度言えばわかるの?神崎くんは刺されたいようね?」


「い、いえ...」


まどかみたいな反応になってしまった。だからこいつ怖いんだよ。


「だったら昼奢りなさい」


「はい」


「よろしい」


俺は素直に従うしかない。それにしても、天音はどれだけ金がないんだよ。まぁ天音の食べっぷりを見ているのは飽きなくて良いが。

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