さようならと言わないで

あすか

さようならと言わないで

「さようならと言わないで」



さようなら。

それは別れの挨拶のひとつ。

ある者は今生の別れをするときに用い、ある者は何気ない挨拶として用いる。

もう会うことはないと願いながら発することも、

また会いたいと願いながら発することもあるそんな言葉。

それがさようなら。




私は、“さようなら”という言葉が嫌いだ。

その人と別れることが嫌だから、嫌いというそんな単純な理由ではない。

私が“さようなら”といった人は、私の目の前から消えてしまう。

家に帰ったとか、どこか遠くへ引っ越したとか、そういう比喩的な意味ではない。

文字通り、消えてしまう。

この世から・・・。


始まりはいつからだっただろう。

思い出すのは、悲しい記憶ばかり。


物心が付いた時には、もう既にそうなっていた。

「みかちゃん、さようなら、また明日ね」

みかちゃんは保育園の時、一番仲良しになった女の子だった。


その日、私は始めたさようならという言葉を先生から教えてもらった。

いつもはバイバイだったのに、教えてもらった言葉を早く使いたかったのだろう。


何気ない気持ちで放ったその“さようなら”

明日もきっとみかちゃんと会える。

そう思い描きながら、言ったはずだった。


だけど、その日を境にみかちゃんは私の前からいなくなってしまった。

交通事故だった。


後で聞いた話だけど、トラックに突っ込まれたみかちゃんの車の中には、美香ちゃんの他にもみかちゃんのお父さんとお母さんがいた。

お父さんとお母さんは何の怪我もしていなかったらしい。

にもかかわらず、みかちゃんの座っていた座席にトラックが狙ったかのように突っ込んでいったせいで死んでしまった。

不自然さが残るその事件のため、トラックの運転手は故意に少女だけを狙ったのではないのかという報道も為されたし、警察もその方向で捜査が行われた。

だけど、そんな証拠はどこにも見当たらなかったことから、トラックが誤作動を起こして衝突事故を起こしてしまったという結論に収束した。


私は泣いた。

けれども、それが私が原因だったとは露にも思ってなどいなかった。


しかし、2度3度と自分の周りで同じようなことが起これば、どうだろうか。

みかちゃんが死んでしまった翌日、落ち込んでいた私を慰めてくれたゆうりくんに

「ゆうりくん、ありがとう。さようなら。またね」といった翌日、彼はお風呂で溺れて死んでしまった。

そして担任の桜間先生にも「先生、さようなら」と言って数日間、お休みを取っていたから軽い病気だと思っていたら、後任の先生から天国へ行かれたという話をされた。


その後も私がさようならといった人はことごとく死んでいった。

だから、私は“さようなら”という言葉を使わなくなった。


使わなければ、死んでしまう人もいない。


だけど、世間はそれを許してはくれなかった。

学校の帰りの挨拶の時にさようならを言わない私のことを皆は異常なものを見るような目で見てきた。

ばいばい。とか、じゃあねと言うと、軽いと言われた。

ごきげんようとか失礼しますというと、調子に乗るなと言われた。


さようなら。という言葉が言えないだけで虐められることだってあった。

だけど、どんなに腹が立っても、さようならという言葉を使うことだけは我慢してきた。

自ら手を下して殺したわけではない。けれども私の言葉一つで他の人が死んでしまう運命を背負ってしまうのは、相手がどんな人間であれど、許されることではない。


自分が死ねば、この運命から逃れることができるかもしれないとも思った。

だから「さようなら、私」と幾度となく言い続けた。

けれども、死ぬことはできなかった。


むしろ普通に自殺しようものなら、何か抗いようのない力によって止められてしまう。

青酸カリを飲んだというのに、死ぬことができずに腹痛で苦しんだ。

飛び降り自殺をしようとしたら、木に引っかかって足を骨折しただけ。

練炭自殺をしようとしても、途中で酸素が入ってきて、死ぬことができなかった。


死ぬことが出来ない。

死ぬ一歩手前の苦しみを味わうだけで死ぬまではできない。

それなのに私は他人を死なせることが出来てしまう。


そんな無慈悲な現実を突きつけられてしまったことを悟ってしまったのは、何回目の自殺に失敗したころだろうか。


だけど、そんな現実から解放されるための道しるべも私には与えられてはいない。

人を死なせてしまうという呪いにも似たものを持ちながらも、私は生き続けなくてはいけない。

なんという拷問なのだろうか。



ただ一つ、救いなのは、この人を死の運命に立たせる呪いが発生するための条件が

「さようなら」という言葉を放つこと。

この言葉さえ使わなければ、誰も死ぬことはない。


本当は今すぐにでも死にたかった。だけど死ぬことはできない。

それならば、生き続けなくてはならないというのは誰でもわかる。


だから、私は生きた。「さようなら」と言わないで




「明日で私ももう20歳か」

あの言葉を使わずに生き続けた私も、明日で大人の仲間入りだ。

思えば、「さようなら」なんて別に使わずに生きていくことはできた。

高校の時まではそんな些細な挨拶だけで虐めにあうことだってあったけど、大学生になった今となってはそんな些細なことで虐めてくるような幼稚な人間はいない。

むしろ、さようなら。なんて最近では生徒が仲のいい教授に挨拶しているときにぐらいしか耳にしない。


私のゼミの先生なんて、堅苦しいから息が詰まるとかいう理由でさようならを禁止しているくらいで、そんな環境になったからこそ、今の私はもう昔のようにさようならと言えないことに対する恐怖だとか、言ってしまったらどうしようという想いさえも薄らいでしまっていた。



その日、私は悪夢を見た。

その悪夢には見覚えがあった。

いつも「さようなら」と口にしてしまった日の夜に必ず見てしまう夢。

自分の後ろから黒い靄が出てきて、その靄が目の前にいる顔の見えない人を飲み込んでしまうそんな恐ろしい夢。

だけど、「さようなら」と言わなくなってから、全く見なくなっていた。


だから、なおさら私はなぜこの夢を今見ているのか不思議で仕方なかった。

だって、今日もいつも通り、さようならは口にしなかった。

それなのに、どうして?


そして今回は最後に見た時と異なることが3つあった。

私の後ろから出ていたあの靄の大きさが倍以上に膨れ上がっていたこと、それとその靄に呑み込まれてしまう人がなぜか3人となってしまっていたこと。

最期の時は一人だけだった、それなのに、どうして増えたの?


それだけではない。

前までは飲み込まれてしまった瞬間、飲み込まれた人は何の音も発さなかった。

そのはずだったのに・・・。


「嫌だ。まだ死にたくない!!助けてくれ!!」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

そんな断末魔の叫び声が耳に届いてしまうようになってしまった。


だから私は夢の中だというのに、目に映ったその人たちに声を張り上げて訴えた。

「逃げて!!」と。


だけど、そんな想いは空しく叶えられることはなかった。



3人目の人が黒い靄に飲み込まれた瞬間、私は目を覚ました。

体中から大量の汗が噴き出したためなのか、パジャマがまるでそのままお風呂に入ってしまったかのようにびしょびしょになっていて、布団も寝汗がしみ込んで寝ていた部分に水たまりのようなものが出来ていた。

「な、なによ。これ!!」


そして立ち上がろうとするも、水分を大量に失ったせいなのか足に力が入らず、しまいには全身が痙攣しだした。


(わ、わ、わ、私、もしかして、し、死ぬの?)

思わず、自分の死を連想してしまい、酷く怖くなってしまう。

気が付けば、目からは大粒の涙がこぼれ始めていた。



ピロリン


携帯の通知音が部屋の中で鳴り響いた。

私は誰かに助けを求めるために必死の動きで携帯の置いていた机に這いつくばりながら向かった


「うっうっ。だ、誰かタスk、けて」


その瞬間、私の意識は暗闇の中へと沈んでいった。




「うっ、痛い」

片頭痛のようなずきんとした痛みに私は起こされた。

視界には見覚えのない棚に見覚えのない天井が広がっていたが、あるものを見た途端ここがどこなのかはっきりとした。


ここは病院だった。

私の左腕には点滴の管が繋がれていて、病院特有の匂いも感じられた。


ガラガラ

ドアの開いた音が耳に届いて、そちらに視線を向けると、

先生だと思われる初老の男性の後ろに私と同じか少し上くらいの女性の看護師さんが立っていた。


「おや。気が付いたようだね。」

初老の男性は私が目を空けていることが嬉しかったのか、人の優しそうな笑みを浮かべながら近寄ってきた。

それに続くように看護師の女性も笑顔で近寄ってきた。


「目を覚まされて本当に良かったです。この病院に運び込まれたときには、もう危険な状態だったので・・・。」

「え、あ、は、はい。」

私は少し意味が分からなかった。

なぜ今病院にいて、点滴を受けているのだろう。


これまでのことを思い出そうとした。

しかし、その瞬間、言いしれようのない頭痛が襲ってきた。

まるでその記憶を思い出すことを阻むように。



「脱水症状を起こしてしまったようですので、今日は点滴をしながらゆっくりと休んでくださいね。明日くらいには退院できると思いますからね。」

初老の男性は私に起こったことについて軽く説明してくれた。


「あ、は、はい、ありがとうございます。」

「ふふふ、どういたしまして。お大事に」


初老の男性はそれだけ言うと去って行った。



次の日、

私の病室にやってきたのは若い女性のお医者さんと昨日の看護師さんだった。

(あれ?おかしいな・・・。昨日の先生じゃない?)


てっきりあの先生が担当の先生だと思っていた私は、昨日と違う先生が現れたことに戸惑った。

だけど、ここは病院なのだから、もしかしたらあのお医者さんは今日は他の患者さんのところへ行っているのかもしれない。

そう推測して、私は新しく来た女性の医者に連れられて、病室を出る。


なぜだか嫌な気配を後ろに感じたが、振り返ることはなかった。



退院手続きを済ませながら、私はなぜ入院することになってしまったのかを思い出そうと試みていた。

だけど、そのことを思い出そうとする度に頭が痛くなり、心臓が締め付けられるような痛みを感じてしまい、耐えきれなくなって諦めることにした。


「110番の方~。準備ができましたので受付までいらしてください」

館内放送が鳴り響き、私は受付に向かった。

念のためということで薬をもらうために。


しかし、その道中で突然、私の目の前を担架が横切っていった。

(なんだろう・・・。緊急搬送かなぁ。)

普通であれば、すぐに目を離すような光景だったが、なぜか目を離すことができない。

その担架に乗せられている人が誰なのかは結局見えなかったが、言いしれようのない寒気を私が襲い、鳥肌も立っていった。


(いったい、何事なの!?)


痙攣のような震えを感じながらも、私はそのまま受付までたどり着くことが出来た。

一刻も早く、この病院から出たい。

そんな漠然とした感情が私を急かしてくる。


素早く清算を済ませ、ありがとうございました。と受付の女性に伝えて、

私は足早にその病院を後にした。



後で知ったことなのだが、

あの日あの病院では病院関係者が二人、不審な死を遂げていた。


何が不審なのかと言うと、

二人とも前日までは元気に仕事に励んでいたというのに、突然誰かに薬を盛られたのかと言わんばかりに、心臓発作を起こして急死してしまったということだ。

どちらも既往歴などない健康体だったというのに。



ようやく家に戻ることができた。

あまりにも震えが止まらなくなったため、タクシーを使うことにした。

運転手の人が気さくな人で、話をしている間にあの変な震えは止まった。


(本当に良かった。震えが止まって・・・。)

家に入ると、電話がチカチカと光っているのが見えた。

それは留守電があるということを知らせるための色だった。


(誰からだろう・・・。)

普段、家に置かれている電話には誰からもかかってこない。

大体は自分の携帯電話に掛かってくるし、そんなにも他人に家の連絡先を伝えていないこともあるが、掛かってきたとしても迷惑電話ばかりだった。

ただ、今回ばかりは事情が少し違っていた。

いつもは繋がるはずの携帯に電話をかけて出ないから、

緊急連絡先のこっちにも電話をかけてきてくれたのかもしれないからだ。


(迷惑電話だったら、消そうっと)

留守電メッセージ再生のボタンを押した。



今で7件目。

今までの経験から考えても、多すぎる。

いくら携帯電話に繋がらないからと言って、こんなにも留守電が入っていったのは初めての事だった。


ただ、その内の4件は迷惑電話だったので、もう削除した。


そしておそらく最後の留守電である9件目のメッセージが流れる。


「9件目 9月4日 13:24分 ピー 

ジージージージー」

最初、そのメッセージは誤作動だと思った。

だけど、次の瞬間私は身の毛もよだつものを聞いてしまう。


タ、ス、ケ、テ」

その声にはまるで感情が感じられなかった。

何かのいたずら電話かもと思った。だけどその声に確かに聞き覚えがあった。


(誰・・・。)

思い出そうとした。

だけど、またしても原因不明の寒気と共に頭痛、そして心臓の痛みが私を襲ってくる。


そうしている間に、電話が突然かかってきた。

私は助けを求めるために、その電話を取ろうとする。


しかし、突然の眩暈がその行動を遮った。

立っていられなくなった私はそのまま為す術も無く、倒れ込んでしまう。


ちょうど、その瞬間、電話の呼び出し音が止まり留守電に入った。

聞こえたのはたった一言。


『さようなら。』

その一言だけだった。

普通の人ならこの言葉を聞いたとしても、何も感じないだろう。

だけど、私にとってこの言葉は死を連想させる恐ろしい言葉なのだ。


「うっうっ。死にたくない死にたくない」

心の底から恐怖が込み上げてきた私の体は小刻みに痙攣した。

それに伴い、零れる声も震え声になる。


この時になって、私は初めて死にたくないと思った。

自殺しようと思ったことも何度もあった。

でも、その時は何かの力によって死ぬことはなかった。

だから、いつしか私は死なないのではないかという幻想を抱いていたのだろう。


しかし、今回はそんな自殺しようとしていた時とは明らかに違う。

私以外の何者かによって、私は殺される。いや死んでしまうのではないか。


せっかく人生を楽しめそうだと思うようになったところだというのに、こんな結末はあまりにもひどすぎる。


何としてでも。何をしてでも生きたい。

私の心はそれで一杯だった。


死ぬまでのリミットはおそらく24時間。

これは幼少期の自分の経験からたどり着いた答えだったが、根拠はなかった。

もしかしたら、この後すぐに死ぬことになるかもしれない。

そんな絶望的な考えが頭を過る。


だけど、もしもこの24時間+1日を乗り切ることが出来たのなら、私は死なないかもしれない。

それに賭けるしか、もう残された道はなさそうだ。



私は生きるために家を飛び出した。

家にいた方が安全かもしれないとは思った。

だけど、先日のように突然脱水症状で倒れてしまった時、周りに人がいないこの家ではどう考えても、そのまま放置されたまま死んでしまう。

幸い、前回は誰かが助けてくれたというだけで、同じ奇跡が二度起きるとも限らない。


家を飛び出した私が向かった先は、大学でできた友人の一人瑞樹ちゃんの家だった。

瑞樹ちゃんの家は家から遠くないこともあったが、それよりも瑞樹ちゃんの人柄の良さが私をそうさせた。


案の定、瑞樹ちゃんは私のうまく言えない事情を聞かないで家に泊めてくれることになった。

「瑞樹ちゃん、本当にありがとう。」


感謝の気持ちは述べなければ、誰にも伝わらない。

だから私は瑞樹ちゃんに感謝を伝えた。


「うん?いいんだよ。友達でしょ。」

瑞樹ちゃんはそう言ってくれたが、私は本当に嬉しかった。

瑞樹ちゃんに会えて、友達になれて本当に良かった。


そう思った瞬間、

(もしもこのまま死んでしまったら、大切な家族や友人に感謝を伝えられないのではないか)


死んだことのことを考えると涙が出てしまう。

だけど、このまま感謝を伝えることなく死ぬのも嫌だった。


もう死ぬ運命が決まっているのだったら・・・。


「瑞樹ちゃん、やっぱり今日は泊るのやめとく。ちょっとしたいことができたんだ。いきなり押しかけてきたのにごめんね。」

「え、帰るの?うん、でも私はいつでも泊まりに来てくれていいから、また来てね」

瑞樹ちゃんは驚いてはいたが、すんなり私を送り出してくれた。


「今までありがとう。瑞樹ちゃん」

ぼそっと瑞樹ちゃんに聞こえないように言って、その場を去って行った。



そして・・・。


「教授。たくさんいろんなことを教えてくれてありがとうございます」

「崎田君、本当に色々と助けてくれてありがとうね。これからもよろしくね」

「先輩、あの時は教えてくれてありがとうございました。」


私は思い浮かぶ限り、感謝を伝えたい人たちに感謝を伝えていった。

いきなりの訪問でみんな戸惑っていたり、不思議そうな顔をしていたが、最後には笑ってくれた。

それほどに「ありがとう」という言葉には人を嬉しくさせる魔力のようなものがあるのだ。


「ありがとう」という度に私の心も軽くなった。


言うことのできそうにない人たちにはメールで伝えた。



そして・・・。


ピンポーン

私は呼び鈴を鳴らした。


そのドアが開くまでに時間はかからなかった。


「あら、おかえりなさい。」

「ただいま、お母さん。」


私は大学に入学する少し前に家を出て、一人暮らしをしていた。

その理由は母と喧嘩するたびに気を抜けば「さようなら」と言ってしまいそうだったからだ。

腹立つことは幾度とあったが、殺したいと思うことはなかった。

それは母親という存在だからこそ。


だから私は母を「さようなら」という言葉によって死なせてしまわないようにこの家を去った。

だけど、もうそんな気苦労をすることはなくなった。

私が死ぬのだから。


子供が親よりも先に死んでしまうのは悲しい事だろう。

だけど、もしも未来の死が分かっているなら、私は親に最期を看取ってほしいと思った。



その日、私は今まで生きてきた中で一番多く感謝した。

その半分以上は母に対してのもので、私の素直な気持ちに母はなぜか泣いていた。



ベッドに入った私は涙を流していた。

これが最期かもしれない。もう目を閉じたら二度とこの目は開かないかもしれない。

そう考えると、涙が止まらなかった。



次の日の朝、私はいつも絶対に起きないような時間に目を覚ましてしまった。

生きていたことに対して、嬉しかった。


だけど、それと共に、拭い去ることのできない違和感が心を覆っていた。

(なにかがおかしい・・・)

そう感じながら、私はベッドから起き上がると、そのまま部屋を出た。


まだ人が起きるような時間ではないからなのか、物音ひとつ聞こえない。

その不自然なほどの静けさが妙に不安を駆り立てた。


「お母さん、」

酷く心配になり、声を出してみるが、何の音も帰っては来ない

まだ寝ているだけなのかもしれない。そう思いながら母親の寝室へ向かう。


寝室のドアに手を触れた瞬間、得体のしれない恐怖が駆け巡った。

瞬間、私の体は為す術も無く、膝をついて倒れてしまう。

「寒い。寒い寒い寒い寒い・・・。」

まるで全身に氷を浸けられてしまったような悪寒が走る。


それと共に、身体には耐えられないような激痛を感じた。

全身を引き裂かれそうなそんな痛みが走り、私の口から思わず言葉が漏れ始めた。


「タ・ス・ケ・テ」




ある民家のテレビにニュースの見出しが流れる。

「一体、何が・・・。耶摩忌町で大量の不審死の遺体が発見。テロの疑いあり。」

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