人は嘘をつくものなんですよ
小万坂 前志
プロローグ
第1話 先輩におごってもらう
とにかく飯は食わないと死んでしまうので、なるべく自炊はしたいと思っている。
が、面倒なのは自炊をすることで、一日くらいさぼっても死にはしない。二日サボると死にそうになるのでそこらのコンビニやらで済ましたり、買っておいたカロリーメイトを食べたりして飢えを凌いだりする。
そんなこんなで台所の皿が溜まっていた所、同じ営業課の先輩が付き合えというので「へい喜んで」とばかりについていった。
正直十歳上とはいえ年上の人間と飯を食うのは面倒ではあるものの、俺は若いんだと言わんばかりに若いアピールをしてくるたび、ジェネレーションギャップを感じたりする訳だが、そこは愛想よく振る舞っている。なぜかといえば、こういうときのためだ。飯のためだ。タダ飯はやはりありがたい。多少のストレスは我慢しようではないかという気にもなる。
もちろん先輩が奢ってくれるルールも無いわけだけれど、多少多めに払ってくれたり、気前よく全部奢ってくれるときもある。まあ大抵パチンコにでも買ったんだろうとおもっているが、あまりパチンコは好きではないのでやっていないし興味もない。
中途採用だった俺をなにかと面倒見がいい性格なのか、先輩は色々と教えてくれた。色々見習おうとおもいはするが、酒癖が悪いところだけは真似すまいと思っていた。だがこう先輩と飲みによく行っているうちに、酒がはいって気分が良くなって羽目をはずしてしまう悪癖は先輩以上のものになってしまった。
居酒屋とか夜の店なんかも教えてもらったし、古臭い付き合い方だとはおもってもまだまだそういうのが普通であると思う。
串刺しにされた鶏肉がてかてかとしたタレで光っているのをヒョイと口に入れてぐいと一口ビールを飲んでから先輩が言った。
「
毎度言われるセリフだった。酔うと話がループするとはいうが、毎度毎度飽きないものだ。
「電力辞めた話ですか?」
「なかなか入れないぜ? エリートだったろうに」
決まって「嫌だったんですよ」というんだが、なんかそれも面倒であった。○○電力にいたところで、今頃大震災のイザコザで意味不明な減給やらなんやらあったかもしれないのに、まだそこが良いとかいうんだろうか。
「入った先の上司とか、選べないじゃないですか。先輩みたいな人がいたら、たぶん辞めてなかったっすよ」
「おう、嬉しいこといってくれるじゃあねーか。グラスあいてんぞ。何飲む?」
入社すぐにやめてしまう若者というのに自分自身がなってしまうとは夢にもおもってなかったが、あんなとこにいるよりはと、辞めてせいせいしている。だからといって仕事をしないわけにもいかないので、地元にも近い大阪で再就職することにした。優良企業とは言えないと思われるが、普通に生活するだけの賃金も貰えるしそれだけは悪くない。
型にはまって生きてきた。その型にさえいれば外野の声などどうでもよくて、自分のやるべきことだけやってこれた。人生最初の大きなの挫折は会社を辞めたことで、この会社に入ったことなのだろうけれど、それもまあ終わったことか。
他に挫折が無かったわけではない。しかし自分の型を守っていればいいんだという人生で、これからもそうなると信じているわけだ。
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