第35話 得意分野は人それぞれだよね!!
サオリがログアウトしていき、俺とタマ子だけがその場に残った。
「サオリンはログアウトしちゃったみたいだけど、ケーマはこの後どうするにゃ?」
タマ子は俺のほうに向かって話しかけてくる。
時計を確認してみたが、まだ早い時間だ。
だが、二人でできることは実はあまりない。
レベルキャップが解放前でレベルもお互い上がらないしな。
「うーん。この辺で切り上げるのも一つの手かな」
今日は午前中だけでも十分な稼ぎになっている。
善次郎さんの分も結局受け取っちゃったし。
これから一緒に探索してくれるプレイヤーを探すのはむつかしいと思う。
もし居たとしても、そのプレイヤーはこれからプレイするのだから、一緒に明け方近くまで探索することになるだろう。
そうなれば、明日サオリと一緒の探索ができなくなる。
それは困るのだ。
下手にウロウロしていると、解放軍の連中につかまって、レベル上げに付き合わされるかもしれない。
そんなのはごめんだしな。
それなら、今日の探索はこれで切り上げたほうがいいだろう。
いや、ほんとに優秀なプレイヤーばっかだと探索が進むんだよな。
ストレスも少ないし。
「ログアウトして、香織の宿題でも見てやるかな」
「それが良いにゃ! 私も手伝うにゃ!」
タマ子も乗り気になっている。
早く探索を切り上げたといっても夜の八時はとっくにまわっている。
今からタマ子が自分の家に帰るのは無理だ。
どうせ俺の家に泊まるなら、香織の宿題を手伝おうというのだろう。
香織は家事関係は完ぺきにこなすから、タマ子としてもいつもお世話になっている香織の役に立てるタイミングを探していたのかもしれない。
だが……。
「タマ子にわかるのか? 時々中学の数学が怪しくなってるだろ?」
さっきの数学の課題でも中学レベルの公式が怪しい部分があった。
理系全般は俺たちが今通っている学校の受験前に俺もタマ子の詰め込み教育に付き合わされた。
あれから結構時間もたっているし、もう覚えていないだろう。
「う。そ、それを言ったら、ケーマだって! 中学の国語が怪しいにゃ」
そういえば、古典とか漢字とかかなりやばい部分がある。
香織の通ってる学校って俺たちの行ってたところよりレベル高いんだよなー。
文系科目の宿題だった場合、俺一人だとわからないかもしれない。
「ま、まあ! 二人いればバッチリってことだな!」
「そ、そうにゃ! 二人で教えれば問題ないにゃ!」
これ以上この話をしていても誰も幸せにならない。
そう悟った俺たちはそこで話を切り上げる。
どちらかがすぐにお払い箱になってしまうことは考えないことにしよう。
「じゃあ、ログアウトするか。また後で」
「そうするにゃ。また後でにゃ」
俺たちは別々にログアウトした。
***
俺がログアウトすると、のどが渇いていた。
とりあえず飲み物を取りにリビングに行く。
「あれ? もう終わったの?」
リビングには宿題をしている香りの姿があった。
まあ、リビングのテーブルは香織の部屋の勉強机より大きいから、そこまでおかしいことはないか。
「あぁ。優子のやりたいことはやったらしいから、ログアウトしたんだ」
「やりたいことって?」
「今日会ったさおりんと解放軍のサオリが一緒の人だって確かめたかったの」
俺が香織の質問に答えようとしたとき、リビングに優子が入ってきた。
香織は優子の話を聞いて大きく目を見開く。
「沙織さんは解放軍の方だったんですか? あー、でも、九龍院の方なら不思議はないですか」
「そう。それに、さおりんなら、きっと、今日も無理してログインしてくると思ったから、さっさとノルマを終わらせて帰らせてあげたかったの」
困ったような顔でそういう優子に、香織はうんうんとうなづく。
「そうですね。沙織さんなら無理してログインしそうです。責任感が強そうですから。それでつぶれてしまったら何にもならないんですけどね」
そういって、香織は俺のほうを見る。
……わかってるよ、ちゃんと。
「そう。それで、俺たちが当分は一緒に潜ることにしたんだ。いつも一緒にプレイしている善次郎さんが当分ログインしないだろうし」
「それがいいと思いますよ」
優子は香織の隣に座る。
「それで、私たちは手が空いたから香織ちゃんの宿題を手伝おうかなと思ってログアウトしてきたの。二人だとさすがに迷宮要塞に行くわけにもいかないし」
「ありがとうございます。今日は国語の宿題がたくさん出ていたので、お兄ちゃんは頼りにならなくって」
「任せて! 国語は得意なの!」
香織のセリフが俺の心にぐさりと突き刺さる。
くそ! 数学なら! 数学ならばっちりなのに!!
俺はきゃいきゃいとかしましく宿題を始める二人をしり目に自分の部屋へと引っ込んでいった。
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