第33話 なんでもするって言われれば、やっぱり考えちゃいますよね。
タマ子は空気を変えるように意識して明るい声を出す。
「じゃあ、ちゃっちゃと探索を進めるにゃ。ルートはもう決めてあるにゃ」
「そうなのか?」
俺がタマ子の方を見るとタマ子は自慢げに笑う。
「にゃ。昼間通った道をそのまま通ろうかと思うにゃ。罠の位置も大体わかってるから、さっさといけるにゃ」
あぁ。なるほど。それはいいかもしれない。
今は運良くサオリも一緒にいる。
解放軍のさおりも一緒にいれば何もなかったとちゃんと信じてくれるだろう。
それに、トラップなどの位置もだいたい分かっているから初めていく道を通るよりサクサクと進むことができる。
サオリを早く寝かすという目的も果たせて一石二鳥だ。
「同じルートを通っちゃったらダメなんじゃない?」
サオリは不思議そうな顔をする。
午前中の出来事を知らないから疑問に思って当然か。
「いや、昼間は取引で、報告をスキップしたから、同じ道でも問題ないはずだ」
「さっき確認したけど、午前中ににゃーたちの通った道はまだちづができてなかったにゃ」
どうやら、最初からタマ子はそのつもりだったらしい。
彼女は気遣い上手だから、もしかしたらログインする前からサオリがすぐにログアウトできるようにしようと思っていたのかもしれない。
だから、サオリと九龍院沙織が同一人物であることを確認するタイミングなんてこれからたくさんあるのに、わざわざ今日確かめようとしてたのか。
「そうなのか。あそこの敵は結構強かったからそういうこともあるか」
「大丈夫なの?」
サオリが不安そうに尋ねてくる。
まあ、実際に見ていないさおりとしては気になるところだろう。
このゲームはたまにめちゃくちゃ強い敵が出てくる場合がある。
弱点があって攻略が簡単だったり、避けて通れる場所だったりするんだが、そういうところと勘違いしたのかもしれない。
そういうところにはえてして有用なアイテムが置いてあるからな。
取引をしたと聞けば、そういうところに行ったのかもしれないと思って当然だ。
「大丈夫にゃ。強いと言っても、私たちとゼンジローさんで余裕だったにゃ。さおにゃんがゼンジローさんん代わりをしてくれれば十分にゃ」
「期待には答えられるように頑張るわ。そのこともあるけど、取引をしてまで隠したかったんじゃないの?」
どうやら、サオリはわざわざ隠した情報を開示してもいいのかと聞いてくれていたらしい。
「まあ、そこは大丈夫だ。詳しくは話せないけどな」
「……わかったわ。詳しくは聞かない」
サオリは色々と言いたいことはありそうだったが、納得してくれた。
「じゃあ、出発にゃ!」
そう言ってタマ子を先頭に探索を開始した。
タマ子と一緒に潜る時は大体タマ子が先頭だ。
彼女には鑑定スキルもあるし、罠探知などの斥候系スキルを彼女はかなりあげている。
俺がその後に続くと、サオリがスッと俺の近くに寄ってくる。
「昨日のことはごめんなさい」
サオリは俺の隣まできたらいきなり謝ってくる。
一瞬訳がわからなかったが、昨日使ったバグ技とかが宗太郎さんたちに知られていたことだろうと察しがつく。
サオリの前で使った時点でバレる覚悟はできていたし、俺としては別に気にしていない。
こいつはかなり几帳面だからなー。
「あぁ。戦闘情報の件か? それだったら、結局開示しちゃったからいいよ」
「でも、私が情報を漏らさなかったら開示しなかったんじゃない?」
それはそうだろう。
バグ技については聞かれなければわざわざ開示する奴はいない。
だがそんなことを、今言っても仕方がない。
俺は軽い感じではぐらかすことにした。
「そんなことねーよ。結局、取引はしたんだしな」
俺が流そうとしていることはさおりにはお見通しなようだ。
サオリは俺をじっと見つめた後、深くため息を吐く。
「はー。わかったわ。貸し一つよ。なんでも一つ、いうことを聞いてあげるわ」
おぉ。ラッキー。
沙織に貸しが一つできた。
と言っても、何かやってもらいたいことがあるわけではない。
「なんでも」
俺が顎に手を当てて考えていると、サオリは顔を真っ赤にして両手で自分の体を隠す。
「エ、エッチなことはダメだからね」
「わかってるよ」
そこまでゲスじゃない。
ゲーム内でもそういう行為ができるらしく、そういうプレイをして楽しんでる奴はいるらしいが、俺にそういう嗜好はない。
***
話をしたり、敵と戦ったりしているうちに、今日の午前中の探索の終着点である宝物ガーディアンと戦ったところまでたどり着く。
タマ子とサオリの相性が良かったのか、リアルでも知り合いになって気を許したためか、探索はあっという間だった。
「ガーディアンいたにゃ。名前も一緒にゃ」
「オッケー。午前中と全く一緒だったな」
探索中のトラップも出てくるモンスターもガーディアンも同じだった。
たまにくる度道順やモンスターが変わる場所もあるのだが、その類ではなかったらしい。
「じゃあ、サクッと倒して帰りますか」
「やっちゃうにゃ」
「そうね」
俺たちは宝箱ガーディアンとの戦いを始めた。
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