半エルフ女魔術師シルヴェーヌの暴走
「何――?シルヴェーヌ?」グランサール皇国代皇にして皇女のアレクサンドラは彼女の友人にして
「アレクサンドラ様――」シルヴェーヌは組み敷いた皇女に強引に口付けした。
「止め――て」アレクサンドラは抵抗したがシルヴェーヌの力は
シルヴェーヌに
感覚共有の魔法を使ってアレクサンドラの感じる部分を探りながら嬲る。
シルヴェーヌは力尽くで彼女をものにしようとしている事に罪悪感を感じたが、その思いが
“貴女は私がどれ程の思いで貴女を見ていたか知らなかったでしょうね”
口付けしながら
アレクサンドラは何とか抵抗しようと身をよじるが完全に身体を抑え込まれて
アレクサンドラはアトゥームに操を立てる為にもシルヴェーヌの思いを拒絶しなければと思うのだが、力が入らないのではどうしようもなかった。
そんなアレクサンドラの思いを感覚共有で読み取ったシルヴェーヌは更に嫉妬を膨らませる。
嫌でも自分を意識させる――そんな征服欲がシルヴェーヌを包む。
それでも――彼女を思う気持ち迄が歪んでいるとは思えない。
アレクサンドラへの思いに突き動かされてシルヴェーヌは力を込めて――しかし男性の様に荒々しくはなく――皇女の服を剝ぎ取っていく。
“あんな男より私の方が――”心情を吐露する。
不思議とアレクサンドラは怯えは感じなかった。
突然起こった事に当惑し混乱したが、身体を許せばアトゥームを裏切ることになると思い抵抗していた。
シルヴェーヌを嫌っている訳では無い。
何とか落ち着いて貰って――
感覚共有で彼女の今までの思いは十分に伝わってきた。
ここまで自分が慕われているとは思いもよらなかった。
今まで時折暗い目で自分を見ていたのはこんな理由が有ったのか――彼女の苦しさや寂しさも理解した今は攻める気持ちにはなれない。
彼女の思いに応えるのは罪だろうか――そんな疑問が頭をよぎる――一度思うままにさせてやれば納得するかもしれない。
その時アレクサンドラは“視た”。
シルヴェーヌが近衛魔術師として自分に仕えながら自分を慕う事をアトゥームが許している未来を。
そこからはアトゥームがアレクサンドラの事をどうでも良いと思っている訳では無い事が伝わってきた。
アトゥームが自分を思いやってそうしたのか、そういう人柄なのかはアレクサンドラには分からなかったが、シルヴェーヌのアレクサンドラへの想いを止める事はしていない。
アレクサンドラ自身はシルヴェーヌに対して思慕に近い感情は持っていたが恋愛に発展するとは思っていなかった。
シルヴェーヌの想いを受け止める自信は無かったが、この場で拒む事も出来なさそうだと覚悟を固めた。
「シルヴェーヌ」アレクサンドラは優しく声を掛けた。
シルヴェーヌはその声に弾かれた様に体を起こした。
「アレクサンドラ様――」
「辛い思いをさせてごめんなさい」
シルヴェーヌは自分が涙を流している事に気付いた。
それでも――アレクサンドラへの想いを止めることは出来なかった。
結局シルヴェーヌは皇女を半ば力尽くでものにしたのだった。
* * *
シルヴェーヌとアレクサンドラが結ばれる少し前、ガルム帝国第三軍――ラウルの軍はかなりの損害を出しながらも撤退に成功した。
第一軍も大部分は戦場を離れることが出来た。
龍化した
敵騎兵の突撃を真正面からこちらの騎兵の突撃で止め、シェイラが咆哮する事で敵の士気を削ぎ、
ヴェンタドール王国の勇者ショウは深追いしてこなかった。
マリアと静香は決着を付ける事より偵察を優先した――本当はショウを
ショウには次の死が許されない事を悟られない方が良かった。
知られれば警戒して表に出てこなくなる可能性が高い。
アトゥームが弱体化してると知っても面と向かって勝負を挑んでくるかは疑問だ。
どんな手段を用いてでも味方を犠牲にしても自らが死ぬ事を避けようとするだろう。
白龍ヴェルサスを失った今、ショウがこの先どうするかは一目瞭然だった。
エレオナアルについては言うまでも無い事だった。
これまで軍勢の後ろに付いてきた事さえない。
後ろで策謀を巡らすのがエレオナアルのやり方だ。
しかし
マリアと静香はラウルから聞いた話を思い出す。
アトゥームはかつてエレオナアルやショウ達と
その時にエレオナアルの指揮に呆れ果てたアトゥームはひと悶着有った後に、お膳立ての出来上がった罠に
ラウルの助けが無かったら既にこの世には居なかったかも知れない。
統合失調症を発症する前の――十代の頃の事だった。
急性期だったら――ラウルはそうでなかった事を全知全能神と彼の奉ずる知恵と戦いの女神ラエレナ、そして運命の三女神に感謝した。
この件はアトゥームは謀略に対抗する貴重な経験を積ませた――以降のアトゥームは似たような罠に
今エレオナアルは双子の姉アレクサンドラが代皇の地位に付きエレオナアルを廃位したというラウル達の主張に裏から手を回して対抗していた。
以前はエルフの女性――時には男性も――奴隷として、味方に付いた有力者に破格の値段で売り飛ばす――或いは賄賂として贈る等で自らへの支持を集めようとしていた。
追い詰められ始めた現在ではそうそうエルフを売り渡すことも出来なくなったのだが、その時に築いた人脈を頼りに――賄賂を受け取ったが非協力的な相手にはその事実をばらすと脅す事も含め、なりふり構わず応援を得ようと足掻いている。
エレオナアルに味方する者も少なくは無かったが、陰謀だけで戦局が決まる可能性は低かった。
戦略眼の欠如と自身の絶対性を信じて疑わない姿勢が事態を悪化させているのだが、それを認める事が出来ないのがエレオナアルという男だった。
* * *
「何だと――」グランサール皇国“前戦皇”エレオナアル=ド=エリトヘイム=イワース=アークヒル=エイリトラー=ユーディシウス=グランサール252世は突然の報告に怒りと同時に怖れを
その報告はグランサール皇国の北西――ガルム帝国から見れば皇国の後ろ側――に有る同盟国“龍の王国”ヴェンタドールにガルム帝国軍が向かい――それも破竹の勢いで進軍しているとの事だった。
ラウルは冬の間に第四軍を組織し裏をかいて皇国への糧道を断つべくヴェンタドールの首都サレムカルドを落とす様に軍を進めていたのだ。
第三軍やエセルナート王国軍やフェングラース君主国軍を再編成し部隊を抽出したのだった。
ラウルはただ負けていた訳では無かった――自分の軍が負けて相手を前方に突出させている間に側面を抜けて第四軍をヴェンタドール深くに進攻させた。
ヴェンタドールは弱兵で、また皇国を落とすより先に自国が攻められると考えていなかったせいでかなりの領土を失った。
亜人種迫害や男尊女卑を快く思わない反エレオナアル派の反乱も有り、皇国と同じ民族の国でありながら――いや、であるからこそか――ヴェンタドールへのラウルの浸透工作は功を奏し始めていた。
次の冬が来る迄には最終決着を付ける――無論絶対勝てると言う保証が有る訳では無いが――ラウルはそう企図していた。
ショウは軍共々ヴェンタドール国王に呼び戻され首都サレムカルド防衛の任に当たる事になった。
転移の魔法陣でエレオナアルとの間を直ぐ行き来できる様になっている。
エレオナアルが信頼する仲間は少なかった。
その数少ない一人がショウだった。
エレオナアルは近衛騎士さえも疑いの目で見ていた。
弱者への情けは無用、目的の為なら手段は選ばない――そんな君主の姿勢に
まともな騎士道を奉ずるものならエレオナアルの下で働くことは出来ない――中にはエルフ迫害などに積極的に関わる者も居たが、エレオナアル自身が選抜した皇室警護騎士でも全員がエレオナアルを支持するとは言えない程だった。
皇国の為にエルフを根絶やしにしなければいけないと信ずる者も居るには居た。
秩序と正義の国家守護唯一神ヴアルスの教えを信じる者は異端者と見做した者を狩り立てていた。
結果として、恐怖と不安で人々を縛り付けた国家は内側からも滅びに向かいつつあった。
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