四天王グレイデン対マリアと静香
マリアと静香はグレイデンの動きに翻弄されていた。
上下左右を自在に飛び回る。
魔法の矢が追い付かない程のスピードだった。
グレイデンは両手持ちの大剣の他に、片手持ちの大剣を左右残りの腕に持った言わば三刀流の剣の使い手だった。
静香はジュラールの指輪の魔力を開放し、左手首の
マリアは
“上からくる――気を付けて!”ホワイトミンクスが伝えてくる。
マリアと静香は黒い雲の陰から更に黒い鎧のグレイデンが殆んど垂直に落ちてくるかの様に突っ込んでくるのを見た。
マリアが雷の魔法を唱える。
雷はグレイデンを直撃した――しかし効いていないのかグレイデンはスピードを全く落とさず襲ってきた。
大剣、大剣、両手剣が殆んど同時に静香に襲い掛かる。
静香は三方から迫る斬撃をジュラールの指輪と神殺しで受け流しつつ三撃目を体を逸らして躱した。
マリアが
大剣を持つ手首に
グレイデンの手首から青い血が流れた。
“やった――?”マリアは油断せず相手の様子を窺う。
しかしグレイデンはニヤリと笑った。
傷口がみるみるうちに塞がっていく。
マリアはグレイデンの機動力を奪おうと翼に
その間にも静香は神殺しで猛攻をかける。
しかし三本の剣を持つグレイデンは静香の攻撃をことごとく受け止めた。
“小太刀を抜く――?”静香の頭を二刀流の訓練が
二刀を使うのは手数を増やしたい時か防御を固める時だ。
後方から飛んだ火球の魔法がグレイデンの翼を掠めた。
“ままよ――”静香は左手で小太刀を抜いた。
「マリア、防御をもっとかためて――」静香は手数で勝負する事にした。
「もっとぶつかってこい――」グレイデンが挑発する。
「言ったわね」言いざまに静香は神殺しで首筋を、小太刀で相手の下右腕を挟む様に攻撃する。
その瞬間、グレイデンの姿が消えた。
“下よ――”ホワイトミンクスが
静香は神殺しの力――刀気を飛ばして遠距離の相手を攻撃する能力を発動させようとした――しかし、グレイデンはあっという間に遠ざかる。
しかも機動力ではそれを上回る。
マリアは固着――
“ミンクス、垂直に全速降下するわ”
静香はグレイデンを追ってホワイトミンクスを下に向かわせる。
静香達はグレイデンがこちらに向かってくるのを見た。
視界に入ったグレイデンに静香が遠距離攻撃の刀気を、マリアが魔法の矢を放つ。
グレイデンは刀気を両手剣で、魔法の矢を大剣で受けながら一気に突っ込んでくる。
ホワイトミンクスを降下させながら二撃目を静香とマリアは放つ――距離は7、80メートルといったところだ――どちらも届くまで1秒と掛からなかったがグレイデンは軽く躱す。
一気に急上昇してきた。
すれ違いざまに静香とマリアはグレイデンに攻撃を掛ける。
神殺し、小太刀、
「ぐっ――」静香は攻撃を受け止め損ねた。
グレイデンの剣は最強クラスの魔剣だった。
剣そのものは鎧で止められたが、剣に宿る魔力は止められなかった。
静香の両腕と肩に激痛が走った――深い裂傷を――左腕は骨にまで達していた――を負う。
マリアはすぐさま完全治癒の魔法を掛ける。
静香は怪我が治癒する前にホワイトミンクスを上に向けた。
上空に上がったグレイデンがみるみるうちに接近してくる。
「敵の足を止めるわ。マリア、
「はい!」
マリアの
グレイデンは火弾の連射から逃れようと大きく弧を書いて軌跡を変えた。
「今度こそ――」静香は神殺しの刀気を狙いすまして放つ。
火弾が数発当たって一瞬動きの止まった所に刀気は見事に命中した。
グレイデンの右翼がすっぱりと切断された。
バランスを失ったグレイデンは雄叫びを上げながら落下する。
皇城の狭い通路にグレイデンは墜落した。
落ちた先で雪が舞った。
反撃を警戒して静香はゆっくりとホワイトミンクスを降下させる。
グレイデンは仰向けに倒れていた。
頭が潰れていた――致命傷だろうと静香は思った。
しかしマリアと静香の脳内にグレイデンの声が響いた。
“流石はアリオーシュ様が恐れるだけの事は有る――”
「まだ死んでないの――」静香は魔族の生命力に恐れを抱いた。
“止めを刺せ。戦士ならば
ホワイトミンクスはグレイデンの脇に降り立った。
止めを刺すべきか静香は迷った。
グレイデンの弱点は心臓だ。
幾ばくかの逡巡の内に、静香は覚悟を決めた。
マリアと共にホワイトミンクスから降りる。
小太刀を収め、神殺しを両逆手に握り直すと呼吸を整え、グレイデンに突き立てる。
しかし神殺しは鎧に当たる寸前で止められていた。
辺りに邪悪な美しい声が響いた。
“お前は思い切りが良すぎる。勝手に死ぬことは私が赦さぬ”
「アリオーシュ!?」マリアが叫ぶ。
静香は腕が動かなくなっている事に気付いた。
“久しいな、七瀬真理愛に澄川静香――”殆んど親しみを感じさせる口調だった。
“今回はお前達の勝ちだ――だが、我が戦士を殺す事は赦さぬ”
「姿を現しなさい――混沌の第一女神アリオーシュ!」静香は叫んだ。
“威勢のいいことだ――そうでなくてはな”邪悪さの中に嬉しさが混じる。
“今やジュラールも我が配下だ。お前達が加わるのも間もなくの事――”
再び雪が舞い始めた。
美しい女性の姿が厚い雲を背景に映し出された。
アリオーシュの人間だった頃の姿――そして気に入りの姿だ。
マリアと静香はその美しさに声も出せずにアリオーシュの姿を見ていた。
どれ程の時間が過ぎたのか、或いは一瞬か、マリアと静香が気付いた時にはグレイデンの姿は影も形も無かった――雪と風に煽られ、ただ青い血の跡が残っているだけだった。
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