ようこそ鉄道研究会へ

日和

プロローグ『新生活と鉄道オタク』

『3月末、多くの学生や社会人が新生活の準備をする時期である。俺もその一人だ』


 とある一人の学生らしき少年が東海道新幹線「上り広島始発 のぞみ124号 東京行き」1号車の自由席に乗車している。

 全体の半分以上の席が埋まっており、窓側席は1席も空いていない。

 新大阪を発車しておよそ10分、車内チャイムが流れ停車駅の案内放送が始まる。

「まもなく、京都です。東海道線、山陰線、湖西線、奈良線と近鉄線、地下鉄線はお乗り換えです。今日も新幹線をご利用くださいましてありがとうございました。京都を出ますと次は名古屋に停まります。」

 自動放送が終わると同じ内容を英語で繰り返し、車掌が到着するホームの番線、開くドアの位置、在来線の乗り換え案内が始まる。

 すると車内にいる数人の乗客がテーブルや座席のリクライニングを戻したり網棚から荷物を降ろしはじめたりする。

 少年も荷物を持って座席を離れ、デッキの方へと向かう。

 どうやら京都で下車するようだ。


『俺の名前は佐藤 怜。この春から生まれ故郷を離れ、大学生になる。』


 列車は駅のホームに入り、停車するとドアチャイムが鳴るとともにドアが開く。

「京都、京都です。ご乗車ありがとうございました。東海道線、山陰線、湖西線、奈良線と 近鉄線、地下鉄線はお乗り換えです。11番線に到着の電車は11時35分発、『のぞみ124号』東京行きです。次の停車駅は名古屋です。」

 自動放送が終わると駅員による肉声による放送が行われる。

「ご乗車ありいがとうございました。京都、京都です。在来線と近鉄、地下鉄線はお乗り換えです、11番線ご注意ください。のぞみ124号東京行きが発車します。次は名古屋に停まります。」

 怜は新幹線を降り、ホーム中央部にある階段を目指す。

 しかし、その途中に妙なことをしている人を見た。

 駅のホームで列車にカメラを向けている人がいる。

 服装はジャージで荷物は大きなリュックが1つ、見たところ、出張のビジネスマンでも旅行者でもなさそう。

 持っているカメラは一眼レフに大型のレンズが付けられており、旅行に持ち歩くようなカメラではなさそう。

 そういえば、子どもの頃、電車に乗せてもらった時に線路近くの道路からカメラを向けて電車の撮影をしていた人がいたことを怜は思い出した。

 一体電車の写真を撮ることに何の価値があるのか、当時の怜には知る由もなかった。

 そんなことを考えながら、新幹線の改札を出て地下鉄に乗り換える。


 目的地の駅のホームで地下鉄を降りるとすぐに客の乗降が終わりドアが閉まる。

 すると電車はモーターを回転させて特徴的な音を出しながら発車していく。

 その時、大型のマイクを電車に近づけて音を拾っているように見える人の姿もあった。

 怜から見ればこの人は本当に何をしているのかわからない。

 ただ一つわかったことは都会にはいろんな人がいるということだろう。


『地元の最寄駅から列車を乗り継ぐことおよそ6時間、こんなに長時間電車乗ったのは初めてだが思ったよりはしんどくなかった』


 下宿は地下鉄の駅を降りて徒歩5分ほど、大学までは下宿から徒歩7分ぐらい。

 場所的には悪くなく、家賃もまあまあといったところ、部屋の広さもそこそこある。コンビニやスーパーは少し遠いが総合的には特に問題ない。

 そう思いながら怜は大家さんに挨拶して部屋の鍵をもらい、中に入る。

 ドアを開けるとすぐに左には手前からキッチン、洗面台、トイレのドアがあり、右には手前から浴室につながるドアと洗濯機を置くスペースがある。

 一番奥にはもう一つドアがあり、そこを開けるとようやく部屋に着く。

 部屋は綺麗に掃除されており、奥の方にはダンボールが積み上げられている。

 怜は一人暮らしの好奇心と全く新しい暮らしが始まる新鮮さのあまり思わずにやけてつぶやいた。

 『今日から俺の新生活が始まる』

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