CLS

私達がいるここは、人間達が開発した植民惑星の一つ、リヴィアターネという惑星ほしだった。豊かな自然と地球に酷似した環境から当初は<第二の地球>ともてはやされて急ピッチで開発が進められたが、そこにはとんでもない落とし穴があった。


偽生症(Counterfeit Life Syndrome)=CLSと呼ばれる、風土病と思しき感染症がここにはあったんだ。


CLSは、ある程度以上の大きさの、具体的にはネズミ以上の大きさの脳を持つ動物になら何にでも感染し、限りなく百パーセントに近い確率で死に至る。予防法も治療法もなく、空気感染、飛沫感染、粘膜感染、血液感染等、ありとあらゆるルートで感染し、早ければ数時間、遅くとも数日で発症。常識では有り得ない速さで生物の肉体を作り変え、<動く死体>に変化させてしまう。


それだけの病気だった。


そう、『それだけ』なのだ。それ以外には何もない。知能もなく学習能力もなくただただ動く生き物を襲い食う。たったそれだけのものを作るだけのウイルス(らしきもの)。


もしこんなものが人為的に作り出されたのだとしたら、それを作った何者かは、いったい、何を目的にして作ったのだろう?


博士は言っていた。


『目的? 私はそんなものはこのウイルスからは感じ取れなかったね。もし目的があるとしたら、ただただ『人間が憎い』ってことかな? 他の生き物には傍迷惑な話だが、これを作った者はよっぽど人間が憎かったんだろう。いやはや、潔いほどの憎みっぷりだ』


と。


その見解が正しいのかどうか、私には確かめようもない。私はただのロボットだから。人間のように調査も研究もしない。命じられれば情報収集はするけれど、そこから何かを見出すことはない。情報を解析して予測される見解を述べることはあってもその裏付けを取ることはしないしできない。しようと考えることがない。


私達は、どこまで行ってもただの道具なのだから。


道具は結論を出さない。本来は。


だけど、結論を出さない筈なら、私はどうして、『博士は死んだ』と結論を出してしまったのだろう。


それはたぶん、私がリリア・ツヴァイとリンクしているから。私のメインフレームの領域の一部を、リリア・ツヴァイとしての思考に充てているから。人間の体を持ち、人間のように身体的な反応があるリリア・ツヴァイとしての思考が、私にも影響を与えているからだと思う。


「あなたはこれからも旅を続けるのですか?」


問い掛けるアレクシオーネPJ9S2に、私は答えてたのだった。


「そのつもりです。私は、博士が亡くなったこの惑星ほしを記録して回りたいのです」


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