バックヤード

「ふん……バックヤードに閉じ込められていたのか」


ゾンビと言うか動く死体がどこから現れたかといえば単純な話だった。こいつらは、ドアノブを回してドアを開けるということもできないし、ある程度以上の段差も越えられないし、階段も登れない。ノロノロと動きまわって獲物がいればそれに襲い掛かるということをただ繰り返すだけの間抜け共だ。バックヤードの中で<発症>するか誰かに閉じ込められたかしてずっとそこにいたんだろう。それを、リリア・ツヴァイがドアを開けてしまって出してしまったんだ。


リリア・ツヴァイがどうしてそんなことをしたのかも分かってる。バックヤード内にあるはずの、保存の利く食料を運び出そうとしたんだ。商品棚に並んでいた分は既にレジ袋に詰めてカウンターの上に置いてあった。


「やれやれ。車を取ってくる」


<車>と言っても自動車じゃない。充電中に、店舗の裏にリアカーがあったのを私が見つけたからそれに水と食料を積み込んで運び出そうということだ。


私はバックヤードを抜けて店の裏口に向かった。その足元を、全長二十センチくらいの大きなダンゴムシに似た<虫>がもぞもぞと動き回っていた。この惑星の殆どの地域で繁殖している、おそらくもっともポピュラーな虫だった。雑食性で毒はないけど、とにかく繁殖力が強く環境の変化にも強くどこにでも現れて、少しドアや窓を開けていたりするだけで入り込んでくる厄介者として人間には嫌われていた。だがそのおかげで、バックヤード内に閉じ込められていたゾンビはこれを食べて活動を続けられたということだった。


どこかに隙間があったか、元々入り込んでいたものが中で繁殖したんだろうな。動きの鈍いゾンビでも捕まえられるくらいに鈍いから、絶好の餌になる。まったく、皮肉な話だ。


なんてことはさて置いて、裏口を開けて外に出ると、目の前にバイクに繋がれたリアカーがあった。


私とリリア・ツヴァイは、自動車などでの移動は望んでない。ただひたすら歩いてこの世界を見て回ることが目的だった。


とは言え、ロボットの私はともかく、生身の体のリリア・ツヴァイにはさすがにそれは過酷過ぎることが今回思い知らされたから、これからはこのリアカーを使うことにしよう。リアカーに水と食料を積み、リリア・ツヴァイが疲れたらそこに乗せて、ロボットである私が引くんだ。


が、そのリアカーはバイクで牽引する為のものだったから、人や人型のロボットが引くようには作られてなかった。持ち手となる横棒がない。


で、仕方なく私は、店にあった清掃用のモップの柄をステーに紐で縛りつけ、そこを持ち手とした。


それから店の表に回って、リリア・ツヴァイと共に水と食料を積み込み、まだ十分に体力が回復してなかった彼女を乗せて、再び当ての無い旅路へとリアカーを引いて歩き出したのだった。


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