マキャベリスト・ディストピア
シカノスケ
プロローグ:異常者闘争
現代において、極度の重犯罪者を見分ける簡単な方法がある。
リンゴとミカンを見分ける程度の難易度で、人は心理状態によって歪んだ進化を遂げる疾患に
当然、人が変質した化け物を見紛うはずがない。
ネオンに照らされた、夜の街を黒い影が駆け抜けていく。
交通規制を敷かれて渋滞する車達を尻目に、全身が赤黒く硬化した獣の如き体躯が橋の縁を正確に蹴り曲げ続ける。
触れた車はドアを凹ませ、質量を無視した膂力で隣の車へと衝突させられた。
走るだけで大事故を起こす異形の存在に、浮島として建設されたた東京第二都市の人々は畏怖した。
これは進化という病の果てに人が辿り着いたモノ。
―――病症の名は通称MLS、マキャベリスト・シンドローム。
目的の為に他者を犠牲にすることを良しとする罪の果て。
多くが犯罪者だが、異様な精神状態が定着した者はやがて肉体の変質を起こす。
人間を超えて隆起した肉体と身体能力は悪魔の如き速度を以って、どこへ向かうともなく駆け去った。
橋の縁さえも歪ませる疾駆は、車で満ちた道路を文字通り揺るがした。
疑問に思った目撃者は多くいただろう。
なぜ、逃げるように異形はどこかへと向かっているのか。
気付いた者はいただろうか、それ以上の速度で獣を追い続ける別の影に。
最終疾患者が変化したモノは行動の通り、狩人から逃亡していたのだ。
「そっち行ったわよ、
人間離れした身体能力でブリッジ型にアーチを描く欄干を飛び移りながら、少女は手にした通信機へと声を叩き付ける。
逆らう暴風から発生するノイズを遮断する優れモノは、上空でも通常通りの会話を可能にした。
美しい黄金の長い髪を風に靡かせ、ネオンに溶けるように少女は闇に踊る。
微かにあどけなさを残した顔に憐憫と諦観を乗せ、遥か下を逃げる獣の体躯を見据えて跳躍する。
住宅街への逃亡を絶対に防ぐ為に、遥か先で彼女の声を受けた少年は待ち受けた。
橋の両端にある歩道、その右側に黒いジャケットを羽織った少年が立つ。
「ああ、お前はもう休んでろ」
追い込み役の少女へ声を返し、迫る巨躯を静かな橙色の瞳が見捨えた。
構えるはこの街には似つかわしくない漆黒に黄金の亀裂型の装飾が入った長銃。
奇妙なのは、腕を覆う装甲と一体化した威容だ。
「―――
予め入力された声紋と生体反応を認識し、銃の安全装置が取り外される。
その腕を覆う装甲の意味は腕の保護だけではない。
中では発射の際に使用される膨大な電磁力が充填されている。
そして、
空気を揺るがす音と共に、目にも止まらぬ速度で弾丸は硬化した胴を撃ち抜く。
背後の欄干の一部を巨象でも突進したかと見紛う爪痕を残した。
東京第二都市において正体不明とされた狩人、それが二人の正体だ。
人の本能は己の幸福のみを願うのか、他者の未来を願うのか。
二人の戦いは華々しい英雄の物語として語られるべきではない。
言い換えるなら、現代における歪んだ
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