創作秘話『神々の宴』 ~コメディ初心者な私が四苦八苦してコメディを完成させるまでの道のり~
●そうだ、プロット交換しよう
それはあまりにも突然でした。
「そうだ、あれやってみましょうか。プロット交換」
ある日ふと思い立ち、私(=ハルカ)はそう提案したのでした。
こんな雑な誘い方にもかかわらず快く承諾してくださった白井銀歌さんには感謝が尽きません。
一応説明しておくと、「プロット交換」とは参加者がプロットを持ち寄って互いのプロットで小説を書く、というものです。
また、今回は「同じプロットでも自分の書いた作品と他の人が書いた作品でどのような違いが出るか見比べてみる」という目的もあるので、自分が用意したプロットでも作品を書いています。
つまり、参加者が2人いれば、2つのプロットと4つの作品ができることになります。
じゃあ、具体的にどんなふうに進めていきましょうか、となったとき、
①まずプロットを作り、
②それを同時に見せ合う
ことにしました。
しかし、うっかり二人とも似たような話になってしまってはつまらないので、ジャンルを決めることにしました。
ハルカ
「ジャンルが決まったら教えてください」
銀歌さん
「お互い普段書かないやつとか」
ハルカ
「あー、いや、初回なのでハードル下げていきましょ」
銀歌さん
「私の得意分野だとコメディですね」
白井銀歌さんは、普段コメディ作品を中心に執筆なさっている方で、言うまでもなくコメディは得意中の得意。
一方の私はというと、正直に白状するならコメディとは縁遠い人間です。
どれくらい縁遠いかっていうと、どんなに一生懸命コメディを書こうとしても「コメディ
\(^o^)/
心中では不安が渦巻いていました。
(コ、コメディ!? 大丈夫か!? 無理じゃないか!? こっ、これは断ったほうがいいやつ!?)
しかし、書くなら書かねば、と決心。
ここから険しい道のりが始まりました。
●コメディの研究、はじめました
コメディ作品を書くにあたり、まず私がしたことは2つ。
1.コメディの書き方を調べる
2.コメディ作品を読む
まずは「コメディ 書き方」でネット検索。
今流行りのAIに相談もしてみました。
するとさすがAIくん、ばっちり教えてくれました。
「緊張感が高まっているところで突然笑いを入れる」「親しみやすく、個性的で魅力的なキャラクターを用意する」「読者が予想しないようなオチを用意する」「登場人物の掛け合いを工夫して、リズム感を大切にする」など、実に有用なアドバイスばかりです。
さて、基礎知識は学んだので、次は具体例としてコメディ作品を読むことにしました。
ハルカ
「くーっ! やっぱり『それひば』は面白いなあ~!」
私がコメディの勉強と称して読みに行ったのは、白井銀歌さんの作品
『それは非売品です!~残念イケメン兄弟と不思議な店~』でした。
自分が笑った箇所を抜き出すなどして「笑い」の見せ方をつかんでゆきます。
一通りの学習を終え、さあ書くぞ! と意気込みながらパソコンに向かいました。
●コメディ作家のアドバイスは一味違う!
……だがしかし。
残念ながら都合よくいきなり書けるようにはなりませんでした。理屈はわかっても実践ができない。
そんな私が次にとった方法とは。
ハルカ
「プロット交換会、進捗ダメです」
銀歌さんに泣きつきました。
覚えている限りで少なくとも2回は泣きつきました。
すると銀歌さんは下記のアドバイスをくれました(要約)。
1.基本的にはストーリーを進めつつ、
2.神様と人間の価値観のズレがあることで笑いを作ったり、
3.あるいは料理できない人あるあるな感じで笑いを作る。
な、なるほど……! わかりやすい!
さすがコメディ作家! あまりに的確なアドバイス!
そして、改めてプロットを見ると、気付いたことがありました。
▼こちらが銀歌さんからお預かりしたプロットです。
――――――――
天界の最高神には悩み事があった。愛する妻の元気が無いのだ。
どうにかできないかと下界を眺めていると人間の会話が聞こえた。
「妻に手料理を作ったら大喜びした」と。
自分も料理を作ってみようと思った神は、他の神に助けを借りて調理を開始する。実は全員料理ができないがなんとか大量の料理を完成させた。
しかし妻は料理を食べない。実は懐妊していて食べられないと告げる。喜んだ神は皆で祝いの宴を開くのだった。
――――――――
この中のとある箇所が目に留まりました。
『実は全員料理ができない』。
そう、よく見ると実はプロットの中に「コメディになりそうなポイント」が用意されていたのです!
これには「さすがだな~」と唸りました。
コメディはプロットの段階から始まっていたのです!
コメディと聞いたときは内心「どうしよう」と思いましたが、コメディ初心者な私にも易しいプロットを用意してくださった銀歌さん、めちゃ親切!
おかげで書けそうな気がしてきました!
●『神々の宴』ができるまで① ネタ編
やることがはっきりした途端、頭の中にいろいろなネタが浮かんできました。
まず、料理といえば「さしすせそ」。
でも神様はきっと人間の暮らしを詳しく知らないだろうから、間違った知識を持っていそう。いっそ「あいうえお」でもいいかもしれない。それぞれ何を入れると面白いか。
そんなことを考えていきました。
それから、料理といえば調味料。
調味料といえば塩。
そして神様といえばとにかくスケールが大きいイメージがあるので、塩といえば……海!
そんな風に浮かんできたアイデアをメモ帳にポチポチと書き連ねてゆきます。
しかし、はたと手が止まりました。
笑いには突っ込み役が必要です。突っ込みの切れ味が笑いの命と言っても過言ではないでしょう。
ところが、プロットには「全員料理ができない」とあります。
ここが悩みどころでした。
誰も「正解」を知らないのです。
最高神がおかしなことをしても、悲しいかな突っ込み役が不在なのです。
ネットでは「読者に突っ込みを入れさせる」という高度なテクニックも紹介されていましたが、それは初心者の私にはあまりにもハードルが高過ぎる。
結局、最高神が何か変なことをしでかして他の神々に突っ込みを入れるというスタイルに妥協してしまいました。
おかげで最高神がとんでもなくポンコツ仕様になってしまいました。
(;´Д`)
このあたりはやや心残りな点です。
レベルを上げていずれリベンジしたいところ。
●『神々の宴』ができるまで② 神々の設定編
ネタの他に悩んだのは「最高神」という設定でした。
最高神というと、どちらかといえば日本ではなく海外の神様のイメージがあります。ただ、私はギリシャ神話とかあまりなじみがなく、正直よくわかりません。
そこで、かなり強引に解釈して「
設定も「この地を治める神の中では一番
このときは「自分が書きやすいようにカスタマイズしよう」くらいの考えでしたが、あとで振り返ると、こういったカスタマイズが「自分らしさ」に繋がるのだろうなと思うので、これはやって良かったなあと。
他の神々も、「学問の神」、「武道の神」、「商売の神」、「弁天」など日本でおなじみの神様をモデルにして設定を作りましたが、悲しいかな、文字数の都合ですべて削ることになりました。
(´Д⊂グスン
また、「どうせなら異類婚姻譚にしよう!」と思いつきました。
ええ。大好物なんです、異類婚姻譚。
てえてえ(*´ω`*)
当初の予定では、最高神と嫁の馴れ初めのエピソードも入れる予定でした。
粗野な人間の娘が、神の祭られている祠を「邪魔」と言って蹴飛ばします。
しかし、あろうことか最高神はそこにグッときちゃって、村長の夢枕に立ち「あの娘を嫁によこせ」と告げたのでした。
だがしかし。こちらも文字数の都合で泣く泣く削りました。
どMな最高神とどSな嫁を書きたかった(´Д⊂グスン
このときは本当に「上限2,000字」という文字数制限を恨みました。こんなケチな上限を設けたのは誰だ!? 私だ!!
。・゚・(ノд`)・゚・。
●『神々の宴』ができるまで③ 冒頭編
もうひとつ悩んだのが冒頭でした。
この作品の冒頭では少なくとも下記の3点を説明しなくてはなりません。
・最高神の話であること
・妻の元気がないということ
・人間の様子を見ているうちに料理を作ることを思いついたということ
ところが、これらの情報を普通に説明しようとすると、こんな感じになってしまいます。
【最高神は悩んでいた。
近頃、なにやら妻の元気がない。理由を聞いてもはぐらかされるばかり。
どうしたものかと悩んでいるときに、ふと下界の様子が目に留まった。それは人間の夫が手料理をふるまって妻に喜ばれている姿だった。】
途中まで書いて、はたと手が止まりました。
実はこれ、銀歌さんのプロットにそっくりなのです。
▼こちらがそのプロットの文章。
――――――――
【天界の最高神には悩み事があった。愛する妻の元気が無いのだ。
どうにかできないかと下界を眺めていると人間の会話が聞こえた。
「妻に手料理を作ったら大喜びした」と。】
――――――――
ここまで近いと書く意味がありません。
う~んと頭をひねり、下記の2パターンを書いてみました。
パターン1:
【天界に住まう神々は騒然とした。
最高神から緊急招集がかかったのである。こんなことは天地
天変地異でも起こるのか。
星が降る予兆でもあるのか。
あるいは神の代替わりか。
きっとよほどのことに違いないと神々は大急ぎで
パターン2:
【産高彦は苦悩した。必ず、妻の機嫌を取らねばならぬと決意した。産高彦には人間の暮らしがわからぬ。(中略)けれども妻の機嫌に対しては、人一倍、いや神一倍に敏感であった。】
結論から言うと、両方没にしました。
パターン1だと最初は神々の目線になってしまい、誰が主人公だかわからなくなってしまうと思ったからです。
パターン2はおなじみ『走れメロス』のパロディです。
この冒頭はいまやパロディが出過ぎていて、「この書き出しはコメディだな」とわかるほどです。
その一方で「食傷気味だ」という意見もあるようで、これも結局没にしました。
どうせ2,000字しか書けないのなら、その中にオリジナリティを詰め込みたかったのです。
そこで、パターン3として「産高彦が何者であるか」という説明から始めることにしました。
パターン3:
【
最も古くからこの地に
しかし、彼は深刻な悩みを抱えていた。
近頃どうも妻がつれないのだ。
話しかけても返事はそっけなく、冗談を言えば冷たい視線を向けられ、夜の誘いも断られる。】
インパクトは減ってしまいますが、導入としてはわかりやすくなったのではないかと思います。
●『神々の宴』ができるまで④ 文字数との闘い……!
書きたいことを一通り書いたら、あとは文字数を上限である2,000字以内にまとめる作業にとりかかります。
まずは無駄な言葉がないか徹底的に見直します。特に、料理を作ることになった経緯などはできるだけシンプルにしました。
それから、いろいろ考えていた神々の設定。こちらもそれぞれ紹介できるだけの文字数がありませんでしたので、割愛。
産高彦の奥方も、登場させずとも話が成り立つので、残念ながら登場シーンはなくなってしまいました。ちなみに初期では「産高彦様、しつこい」というセリフがあったので、産高彦にとっては妻が登場しないほうが良かったのかもしれません。
そして肝心のコメディのネタ。
こちらもいろいろ考えてあったのですが、削らざるを得ませんでした。
最初の頃は「料理について詳しくない神々は塩と砂糖の区別もつかず、味噌や醤油などは色が地味だと言い出し、唐辛子の赤、辛子の黄、わさびの緑などで料理を鮮やかに飾る」というエピソードがありましたが、妊婦さんにこれを出すのはまずいだろうということで削りました(なお、味見で辛さに絶叫するシーンもありました)。
また、「料理ができないなら奉納された食べ物をそのまま渡せばいいじゃない、と神が思いつく⇒それだと時間が経って食べ物が傷むかもしれない⇒それなら人間が奉納するまで待っていよう⇒いや、神とうっかり遭遇したら人間がびっくりしちゃうから!」というネタも没にしました。このSANチェックが入りそうなネタはちょっと書いてみたかったw
あとは産高彦が商売の神から教わって「モエモエ・キュンキュン・オイシクナーレ」と呪文を唱えるシーンもカット。人間に奉納された馬や牛が今では増えすぎて牧場のようになっているというネタもカット。産高彦の妻がその牛馬の顔を覚えていて「これは〇〇さんちの花子」などと見分けがつくというネタもカット。
とにかく、文字数が増えそうなものや説明が必要なものはカットする方向で心を鬼にして削りました。
ちなみに、私の場合は文字数が超過しそうになるとまず言葉から削っていくのですが、銀歌さんはエピソードを削ってゆくという話をなさっていました。
これは逆を言うと、私は言葉を並べて物語を作っていくイメージで、逆に銀歌さんはエピソードを並べて物語を作っていくイメージなのかもしれません。
ここにも両者の個性が出ているなと思いました。
●そして……完成!
そうこうしているあいだにも、私は思いがけず濃厚接触者になってしまったり、仕事でいろいろやらかして銀歌さんにお悩み相談をしたり、倉庫の中にカタリナ姉さんからもらったグロチョコを発見して恐れおののいたり(※グラブル)していました。
一方の銀歌さんは、優しく相談に乗ってくれたり、創作のアドバイスをくれたり、投稿用の表紙画像を作ってくださったり、ときには古戦場を駆け巡ったり(※グラブル)、アヒルになったりしていました。ガァガァ。
そんな紆余曲折を経て、ようやく作品が完成しました。
あとは公開日時を決め、二人で一斉に公開します。
このとき私はまだ銀歌さんの作品を読んでいなかったので、どきどきでした。
●お楽しみタイム! ~作品の比較~
さあて、いよいよそれぞれの作品を読み比べてみます。
ここが一番のお楽しみですよ!
・タイトルについて
銀歌さんの作品タイトル『神様の手料理』は、温かみがありほっこりする印象で、いかにも銀歌さんらしい言葉選びだと感じました。また、ふたを開けてみれば神様らしい豪快さもあり、そんなギャップもまた良いものでした。
一方、私の作品タイトル『神々の宴』はにぎやかな雰囲気を出したかったのですが、これだけでは弱い気がしてエピソードタイトルに『~豊穣の神、愛妻のために料理を頑張ります~』を持ってきました。
作品の雰囲気がうまく伝わっていれば嬉しいです。
・登場キャラについて
銀歌さんの作品は、個性の強い神様たちが登場し、とても賑やかな作品でした。
二千字という上限の中、よくこれだけ個性的な神々をたくさん登場させられたなあと感心しました。
逆に私は文字数の都合もあり、登場人物をしぼる方向で書きました。
また、日本の神々をイメージして書いた私の作品に対し、銀歌さんは西洋の神をイメージして書かれたそうで、読んでくださる方のことを考えると、うまい具合に作品の方向性が分かれて良かったです。
・情報量について
私は長編書きの癖であれこれ情報を盛りがちなのですが、それに対して銀歌さんは、短い話で起承転結をしっかり見せることに慣れているため、設定がごたごたせずシンプルでわかりやすく、文字数に対するバランスがとても良い感じでした。
このあたりは慣れが必要だなあと痛感。
・コメディのネタについて
コメディのネタについては、銀歌さんの作品は素材の組み合わせが大胆で意外性があり、いつもの銀歌さんらしくまとまっている印象。
私の作品はどうだったか気になり、銀歌さんに聞いてみました。
ハルカ
「私の作品、ちゃんとコメディになってましたでしょうか?」
銀歌さん
「ちゃんとコメディだったと思います!」
やった! お墨付きをいただきました!
これで、最大の目標である『コメディ作品を書く』をクリアできました!
大満足です!
゚*。☆ヾ(´∀`)(´∀`)ノ☆。*゚
わずか2,000字足らずの作品ですが、苦手意識のあった「コメディ」を習得できたので、とても実りのある作品となりました。
作品を読んでくださった方、コメントやスタンプをくださった方、そしてプロット交換企画に参加してくださった白井銀歌様、ありがとうございました!
●完成作品はこちら!
(ノベルアッププラス掲載)
・白井銀歌様
『神様の手料理』
https://novelup.plus/story/776495693
・ハルカ
『神々の宴』
https://novelup.plus/story/315009702
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