第6話 謎のハイテク甘ロリ少女の急襲

人通りが少ない闇の中で、無骨な車から降りてきたのは、ピンク色のフワフワの服を身に付けた少女だ。

ピンクのゲーブル・フードのヘッドドレスと、クリノリンでボリュームを出したレースのフープスカート。刺しゅうレース生地の歩くたびに跳ねるようなドレスを纏った年の頃八つ程の子供が、装甲車のようなバンの横っ腹から跳び降りてきた。


彼女が背負っているのは、そのドレスに似合わないパイプがうねる背嚢。

三叉路の道路脇に駐車したバンから配線をエンジニアが背嚢へ繋いでいく。


ゲーブルフードに子供が手を差し込み、小首を傾げながらまるで衣装を整えるように、何かを調整している。

「二階か。バカだなぁ。逃げ場とかないじゃないか。」

そう呟く声は、生意気な少女が子供っぽい同級生を蔑み哀れむような軽々しさと、傲慢さにあふれていた。


装甲車の側面のドアから、丸メガネの白衣を着た神経質そうな男が引きつったような笑い方をしながら顔を出してきた。

「むしろ逃げ場を消した方がいいと思ってるんじゃないかね?」

神経質そうな声が震えている。呼吸が浅く発生が安定しない声だ。


「あ、そういうこと?囮なの?この集会?マーキュリーって、そんなやつ?」

「うん、そうかなぁ…。見える?アリス。」

そう問いかける神経質な声をした彼は、言葉遣いは幼いが、髭に白いものが混じり始めてる。


「うん。丸見え。全部。」

「丸出しやね。」

「リューズ、それやめなさい。嫌な言い方。」

「ふふ、上品ぶるなぁ。いくついる?六本?アリスは全部壊しちゃうのかな。」

頷きながら、アリスと呼ばれた彼女は言った。

「そうだね。一度聞いた話は、どこで漏れるかわかんないからね。みなさん、六本いきますよ。繋げてちょうだい。ねぇ、どうやって壊そうか?リューズ。」

アリスは、技術者に指示を出しながら研究者然とした男に聞いた。


「【仲間割れ】がいいな。全部潰しちゃおう全部。」

リューズと呼ばれてる彼は、ステップに座り込んでいたが、意見を聞かれて全部と言いながら喜んで一度軽く爪先だけでジャンプした。

「マーベリックにチップ破壊されてるやついる?」

「うん、いると思う。」

「何割くらいかなぁ…、もう。めんどくさいなぁ。だったら二段階でやっちゃおう。【仲間割れ】で暴れさせて壊して、【拘束】でこっちの道具でつぶしちゃおう。」


「あ、そう?ご勝手に…。聞くなよ。自分で考えるんならよ。」

少々苛立ちを感じたリューズの声。ストレスに弱く、すぐに不機嫌になる男だ。

「なんだよ、強そうなやつを予測して、蠱毒的な呪いをかけたかったのにさ…」


アリスは、それを楽しむように眺めながら「所詮、だよ…行くよ」と言った。



建物をカバーするように四隅に卵形の増幅器を設置する。

配線は全てアリスの背嚢に接続されている。

建物の上に、小型のドローンを飛ばしながら、監視と探査電波を送り込む。


アリスのゲーブル・フードが、微かに振動しているが、風で靡いているのとさほど視覚的にはわからない。髪の毛一本だけが、変な動き方をしていて、目の前にちらついているのが気に触るのか小さな肉付きのいい指で苛立ちをあらわにむしりとる。むしりとった細い艶やかな髪の毛がふわりと重力に逆らい宙を漂っている。


「かっこわるいなぁ…。こんな蛇が絡まったみたいなコードやパイプがさ…。」

「贅沢言うな。あと少しで、ワイヤレスにできる。今回はテストみたいなもんだからさ我慢してくれ。」

「かしこまりましたご主人様トランク様。」


答えた声は、リューズという技術者ではなく落ち着いた声を持つ重厚な男性の声だった。アリスの返事も、一目置いているという声色だった。


「いくよ!」


そう言うと、アリスは背嚢の安全装置を引き抜いた。

巨大な鋼の心臓が鼓動するような音を立てて機械が動き始めた。


アラゴンの集会が開始されて十分ほどたった頃の出来事。

皆が、建物の中で息を潜め、奴隷解放の儀式とも言える行動制約のレイバーチップの破壊作業の施術を今、まさに行っていた時の出来事だった。

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