第7話

学校というものを私は生まれて初めて体感している。学校は様々な人間がいるが、どれもこれも同じように見える。それはきっと、私が他人と干渉を持てなかったからなのだろう。




 確かに自分も学校が始まってから二週間以上たって初めて現れた人と関わりたいとは思わない。たとえそれが美少女であったとしても最初の一声になる勇気はない。この学校の学力は普通レベルだが、空気を読むことに関しては普通レベルが最高レベルなのではないだろうか。




 だからすべて同じように見える。新しく入ってきた空気は空気でしかなく、空気は空気のままただそこにあり続けるしかなかった。どうやらこれから私はそこにあるだけの空気になるようだ。誰しもが触れているようで、実際そこには何もない。




 しかし学校生活をしていく中で困ったことが一つ。どうやら今朝の不吉な予感は的中してしまったらしい。


「ちなみにこの学校、一年生強制入部だから…何か興味のあることや、やりたい部活動ある?」




 自己紹介の時にも思ったが、先生に強制的に好きなもを言わされるあれがなくてよかった。先生は私に配慮してくれたのだろうか。あの家には趣味に関係するような、というより個に関係するようなものが何一つなかった。私に好きなものなどあったのだろうか。




 しかし昔の私が好きだったものを、記憶がない私が好きになるとも限らないだろう。だから新しく好きなものを探そうと…しかしそれも面倒に感じてしまう。こんなときに思うのはまた言い訳ばかりだ。




「その様子ならそうね…いろいろな部活を見てきたらどうでしょう。体験入部期間は終わってますけど。そこで友達もできるかもしれないし」




 先生が家庭の理由とか何とかで部活を免除にしてくれればいいのにと思ったが、先生は仕事でここにいる。それにこの先生は入院中にお見舞いに来てくれた人でもある。とりあえずそうしてみますとその場を後にして、私は荷物を取りに教室へ戻った。




 放課後ということもあり、教室は私の荷物だけになっていた。荷物を机からとろうとすると、机の中に大量のプリントが入っていることに気づいた。見て見ぬふりをしようかと思ったがあとが面倒だしすべて持って帰ろうと強引に紙束を突っ込んだ時、手紙が入った封筒を見つけた。




 その封筒は保護者への手紙とかではなく、私の名前が定規で、カタカナで引かれた怪しげなものだった。手紙の内容も同じく定規で。




「キョウ、ホウカゴ4ジゴロ、ブシツトウキタガワ3カイイチバンテマエノキョウシツデオマチシテイマス。ワタシハアナタヲシッテイル。」




 なんて読みにくい、と思うその前に私は動き始めていた。これは犯行予告なのか、それとも新手のヤンデレ系ラブレターなのかきっとそうに違いないと思いつつ、その部活棟を目指した。




 私はあなたを知っている。初めて私を知っている知らない人に会える。相手のことを知らないのは申し訳ない気もするが、今は自分のことを知っておきたかった。




 なるほどいつだって興味があるのは自分自身の事なのだろう。やがて足は止まり、その教室の扉の前についた。ノックをしたが返事はない。まだ誰も来ていないのだろうか。


 失礼しますと扉を開けると、なんだか倉庫のような場所だった。掃除されている様子もなくなんだか息苦しい。そしてバタンと扉が閉じた音がして次の瞬間、私の視界は暗転した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る