第2話

これは、私がここまでの変人になる前の物語である。ここまでの変人、こうして宿題の小説に自分のことを物語にしてしまうほどには変人になってしまったのである。




 なってしまったのか、果ては元から変人だったのか、それは私にはわからない。なんせ私には記憶がないからである。正確にはなかったが正しいのだが、ただ一つ覚えていることは、私が目を開けたとき、そこには誰もいなかったということだ。




 誰もいない部屋に、誰かもわからないものが1人、ただ横たわっていた。しばらくすると、白衣を着た人が2,3人やってきて、なるほどどうやらここは病院らしい。




「おはようございます。月山さん、ようやくお目覚めになりましたね」


「月山さん…あぁ私の事ですか?」




「そうですか…やはり…」と、その白衣を着たお医者様らしき人は言った。やはり、とこの人はつぶやいたが一体どういうことなのだろうか。なぜ私が記憶喪失していることをこの人は知っているのか。




 いや冷静に考えてみれば、この人は私の眠っている間に私の脳や、身体の状態を調べたのだろう。そのうえで、私が記憶喪失している可能性を考慮していた…。私は急いで身体を見回す。どうやら腕がなかったり足が180度曲がっていたり、頭が半分なかったりするわけじゃなさそうだ。




 ひとまずは安心?いや安心ではないのか?一体ここは…ってそれはもうやっただろ、というか何があった、なぜここにいる?私は月山?とか言われていたけれど、全然まったくもって記憶がないぞ!?




「はい、落ち着いて、どこも痛いところはありませんか。私はあなたの主治医です。とりあえずまず落ち着いて。何も心配いりませんよ。」




はぁ、どうやらこの人は私が動揺していると思ったらしい。




「あの、ここ病院ですよね、えと、どうして私が記憶喪失しているって、私よりも先に知っていたんですか。」




「ああそれね、まず最初に聞くことがそれね、まあま、そうだね、うん……ではその話から始めようか」




話を要約するとこのようなことを言っていた。私の名前は月山御影という。年齢は15歳。高校入学前の家族旅行に行き、出先で交通事故に遭ったそうだ。




 その後救急搬送された私は、この病院で約一か月眠っていたそうな。そして交通事故に遭った際、どうやら頭部を強打していたらしく、脳に何らかの障害が発生している可能性があったらしい。


 我ながら都合の良いシチュエーションだと思ってしまった。このまま美少女が登場して、記憶を取り戻す旅が始まって…っと、残念ながらここまでお膳立てされているというのに、美少女はいつになっても現れなかった。




 まあ都合がよいシチュエーションのおかげで私は一切の悲しみも生じなかった。一切の悲しみも生じなかった代わりに、自分に対するあらゆる疑問が浮かんできた。私は、僕は何者なのかと。




 どうやら私は私でなくなったらしい。まあ私は変わらず私であるのかもしれないが。少なくとも名前や、性格や、私と私の家族は失ってしまったようだ。




 都合の良いシチュエーションは私を救ったのかもしれないし、元からそういうわけでもなかったのかもしれない。私の新しい名前は月山御影。それを受け入れ、何を思いこの都合の良い世界を生きていけばよいのか。生きていくためには金が必要だ。




 幸い金に関しては大学進学できるほどには手に入るようだ。備えあれば憂いなしとはまさにこのことだろう。私は知りもしない相手にただただ感謝した。感謝するべきではなく、その資格もないと思えるが感謝した。しかし恨みもした。私一人だけをこの世界に残して、一体どうしろというのか。




 ともあれ自分の意思を示さなければ、この冷たい部屋から出ることはできない。こんな美少女のいない空間にいては、せっかくの若さを腐らせてしまうではないか。それにいかなる黒歴史も私には存在しない。




 私は純粋に、若さゆえに、何の後ろめたさもなく美少女を求めていた。決して私が美少女愛好家だったわけではない。もしそうであったといても今の私には何の罪穢れはない。気持ちは晴れやかで、いつだって希望を求めていた。

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