第21話 武器強化

第2の街には始まりの街にもあった宿屋、武器屋、道具屋に加えて、加治屋や教会等が存在し、新たに武具の加工や『魔法』についての知識を得る事ができるようになっている。


ステータスには『C』の【精神力】が存在しているものの、チュートリアルでは魔法について触れられず、武器選択でも『杖』のような武器が存在しなかった為、一部のプレイヤーは混乱と不安を抱えていたが、第2の街へ到着すると共に彼らのそれは解消された。


ユウも魔法を覚えたいところだが、その目的はあくまで戦闘補助の為であり優先度が低く、今はレベリングと剣術の腕を上げる事に力を注いだ。


ー ガキィイイン! ー


ユウは左腕の盾で、犬人型モンスターである『コボルト』のサーベルを防ぎ、右手の片手剣で防御の薄い下半身を薙ぐ。


ー ギャンッ! ー


コボルトは悲鳴を上げ、そのHPバーを5分の1程減らす。


(やっぱり初期武器だと厳しいな!)


大きくダメージを与えられる部位を攻撃しても、対してダメージを与えられないという矛盾を抱えながらユウはコボルトと刃を交える。


彼がいる場所は第2の街から少しだけ離れた草原。


始まりの街と繋がる草原とは異なり、この先遠くに見えるは山々が連なる山脈地帯である。

掲示板によれば草原を越えた辺りが国境になっており、山脈の麓には他国の街が広がっているらしい。


ー キャゥ ー


何度目かのユウの斬撃を受けたコボルトは、小さな悲鳴と共に光の粒子となって消え去った。


「ふう・・・やっと終わった。」


レベルアップの通知がきたが、ユウは喜びよりも疲れた表情でため息をつく。

ちなみにPAOでは【疲労】が存在しない為、動作によって疲れる事はない。


「そろそろ限界かな。」


ユウの疲労は精神的なものであった。

第2の街から進み、モンスターが強くなるにつれ、今の初期武器ではダメージを与えにくくなってきたのだ。


つまり、モンスター1体あたりとの戦闘時間が長くなり、その分集中力が必要となる。


剣術の鍛練としては様々な型を試せるので有意義だが、レベル上げからすれば非効率であった。


基礎の型とはいえ一通り身体で覚える事ができたユウは、レベリングに切り替える事にした。


その為には、もう少しまともな武器を使用しなければいけない。


そう考えたユウは第2の街へと戻る事に決めた。


現状より強い武器を手にするには2パターンあり、1つ目は新しい武器を手に入れる、2つ目は既存の武器を加工強化する方法である。


前者は武器屋での購入、討伐ドロップでの獲得など幅広く、特に武器屋では手軽に強い武器を入手できる。

その分、武器によっては形状や性質がガラリと変わり、手に馴染むのに時間がかかってしまう。


後者の場合、加工強化の前後で武器の形状には大きな変化がなく、今まで通りの戦闘スタイルを引き継げる事が強みであった。

しかし、加工強化するには素材が必要となり、また失敗する可能性もある。


その他にもあるメリット・デメリットを踏まえ、最終的にユウが選択したのは、既存武器の加工強化であった。


失敗する可能性はあるが、やはり手に馴染んだ愛剣を振るい続ける事ができるのは魅力的である。

それに、最近になってようやくユウの戦闘スタイルが確立したのも理由の1つだ。


ユウは加工強化の限界がくるまで、今の片手剣を使い続けるつもりであった。


モンスターと戦闘を行いながら第2の街へ戻ったユウはさっそく加治屋へと向かう。

混雑を防ぐ為に第2の街には加治屋が2つある。

双子が経営しているという設定で、両店の間に店の規模、加工強化の質に違いはなく、狙い通りプレイヤーを分散させる事ができている。

ただ、それでも混雑する時はするのだが、ユウが訪れた際には運良く数人しか待っていなかった。


しばらくしてユウの番となり、無口な店主に片手剣を見せて武器強化の依頼を伝えると、頷きと共に加工強化専用のメニュー画面が現れる。


メニュー欄には、『初心者片手剣Lv2』や『一般兵の片手剣』など、加工強化先のリストが複数載っていた。


「ん・・・?」


概ねネットの掲示板で見た強化先であったが、1つだけ見知らぬ強化先があり、それがユウの目を引く。


『初心者片手剣オーバーコート』


説明を見ると、どうやら先のイベントの報酬である玉鋼を素材とする新しい強化先であり、日本刀の原料となる玉鋼を鍛えて刀身に定着コーティングさせる事により、刃の耐久と切れ味が格段に向上するらしい。


ゲームならではの日本刀と西洋剣の技術コラボと、オーバーコートという言葉の響きがユウの少年心をくすぐる。


(初心者武器なのにオーバーコートっていう矛盾がたまらない。)


矛盾かどうかはさておき、ユウはこの強化先のネーミングセンスが気に入った。

それにイベント報酬を素材にしているので特別感もある。


見た目は初心者片手剣そのものだが、それがまた良い味を出している。


言うなれば、量産機の中の特別改良ワンオフ機、もしくは隊長機といったところか。


名前、性能、見た目ともユウのドストライクゾーンであった為、早速オーバーコート強化を選択する。


店主に初心者片手剣、玉鋼、お金を渡して待つ事数十分。

無事に強化が成功した『初心者片手剣オーバーコート』をユウは受け取った。


武器重量が若干増えたが問題ない範囲であり、その他、性能以外は初心者片手剣そのものである為、手にも馴染んでいる。


「早く試してみたいな。」


ユウはまるで新しいオモチャを買ってもらった子どものように、ウキウキしながら再び草原へと向かったのであった。

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