第20話 オフラインその2
第二の街に着いた翌日から現実世界でユウこと大和は、以前より1時間早く起きるようになった。
早起きする理由はもちろんPAOだが、ログインする訳ではない。
「ふっ!はっ!」
大和が今いる場所は独り暮らししているアパート付近にある河川敷である。
そこで彼は息を吐き、声を発しながら奇妙な踊りを舞っていた。
否。
踊りというには無骨な動きであり、右手には傘を握って左腕は胸の前に構えている。
それはまるで、剣と盾を持っているような動きーー
そう、大和は古本屋で買った西洋剣術の漫画本を参考にして、毎朝立ち回りのシミュレーションをしていたのである。
まだ基本の動きしか手を付けていないが、朝で何度も反復して身体で覚え、夜にはPAO内でモンスター相手に実戦訓練している為、1週間経った現在の姿は少しだけだが様になっていた。
「ふう・・・今日はこれくらいにして、大学に行く準備をしよう」
今朝も朝稽古を終えた大和は軽く汗を拭い、登校中の小学生達に挨拶しつつ河川敷を後にする。
『晴れているのに傘を持ち歩き、河川敷で振り回している怪しいのに爽やかなお兄さん』と、彼らの中で噂になっている事も知らずに。
大学の新入生達も入学してから数週間も経つと、浮わついた雰囲気も次第に落ち着き始める。
また、人間関係も一歩進み、以前からの友達や同じ高校出身で集まる者もいれば、新しくできた仲の良いグループで固まる者達もいた。
ちなみに大和は後者である。
大和の地元から遠く離れたこの大学に入学した高校の同級生は少なく、いたとしても名前も知らないような間柄の為、必然的に入学してから数日はぼっちとなり、そして、同じ講義を受けていた他のぼっち2人と仲良くなった。
ちなみに『ニカ』こと
「なあ、結崎はPAOでどこまでいった?」
昼休みの食堂にて、仲良くなったきっかけであるPAOの話題を、ぼっち友人の1人である
「今は2番目の街で武者修行中だ。レベルは10になった」
「おー、頑張ってるなー」
もう1人の友人、
なお、その後に続く言葉はカレーは辛え《かれ》ー。
おそろしくマイペースな友人である。
「田原本と三宅はどこまでいったんだ?」
「俺も今は第2の街でレベリング中。今のレベルは12」
「僕はレベル30ー。所属する国を考え中だよー」
田原本は大和と変わらない時期からPAOを始めたのでほぼ同じ、三宅は発売当初から始めている為、3人の中では一番レベルが高い。
「国選びか・・・羨ましいな」
「三宅は国軍に所属するのか?それともどこかのクランに所属して、
「それも考え中ー」
PAOではレベル30を超えると、国に所属する事ができる。
所属するとその国の軍かギルド(に加入しているクラン)に入る事ができ、それぞれ特有の恩恵を受ける事ができるのだ。
また、逆にどの国にも所属せず、傭兵や
「まー、気長に考えるよー」
悩むのも楽しみのうちとでも言うように、三宅はのんびりとカレーを口に運びながら微笑んだ。
「俺も早くレベル30になりてえな。っと、もうこんな時間か」
田原本が時刻を確認すると、そろそろ午後の講義の為、教室へ移動する時間となっていた。
「じゃあ、俺は講義だから行くわ。結崎と三宅は?」
「俺もだ。そろそろ移動しないと」
「僕は休みー」
「羨ましいな!またレベル差が開いちまうのか」
「はっはっはー。2人ともファイトー」
余裕こきやがって!すぐに追い付いてやる!
などと軽口を叩き合いながら3人は別れ、それぞれの場所へ向かう。
PAO内では、3人とも別々の街からスタートした為、今のところ遭遇はしていない。
レベル30になった三宅は他の始まりの街への移動権を有するが、まだ移動する気はないらしい。
また、ゲーム内での自分の容姿およびスキルについても話さない事が暗黙の了解となっていた。
3人は友達でありライバルなのだ。
PAO内では他のプレイヤーと全力で競い、楽しみたいから、たとえ友達であっても手の内は明かさない。
その気持ちは大和にも理解できる。(ニカという例外がいるが。)
それは彼が初心者から一端のプレイヤーとなった証拠でもあった。
講義が終了し、帰宅した大和は今日もPAOにログインする。
強くなってPAOの世界を楽しむ為に。
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