断章〜ずいぶんと昔の走り書き?
物語の主人公にはなれない。そんなの分かってるよ。私は特別じゃないもの。
王子様もいないし、お姫様でもない。勇者でもない。魔法使いでもない。ただの一般庶民だよ。でも夢を見ても良いではない?
私はなれなくてもさ、周りの人皆が物語の主人公になれたら素敵じゃない?
私は魔法が使えない。使える人もいるけど。私はそこらにいる子と同じの凡人。でも夢はあるんだ。だから歩くの。
主人公でなくたって。
「村を、出る?」
よく晴れた春の日。空には真っ白くて大きな雲が浮かんでいる。風が優しく吹き、花の匂いを運んで来ていた。
村の一角にある三角屋根の小さな家。いかにも童話に出て来そうな可愛らしい家。小さな庭が家の正面にあり、色とりどりの花々で溢れている。
家の中の南向きの一部屋では、春の陽気にそぐわない、まるで頭から冷水をかけられたような顔をした女性が、自分の真向いに座り呑気に茶をすすっている少女の顔を凝視していた。
女性の手は机についたまま動かない。ただ、指先が細かく震えている。
「だって、あなた、まだ、十五よ?」
「それが。」
淡々と変えされた言葉に、女性はだって、とかそりゃあんた、とかいう言葉を口の中で繰り返している。
少女は慌てる女性とはまるで正反対で、落ち着き払って皿の焼き菓子を一つ摘んで口の中にほうりこんだ。
「村を出て、どうする気なの!?」
「旅。」
「お金は!?」
「雑用するけど。」
世の中はそんなに甘っちょろいもんじゃないわという言葉は少女に黙殺された。カーテンがはためいて甘い風が入って来る。
「私の小さい頃の夢なら覚えているでしょう。テリカ姉。」
テリカと呼ばれた女性は、まだ動揺を抑えきれてはいなかったが、なんとか小さく頷いた。
「村のばばが言っていた。それは予知夢だと。」
「あなた、信じてるの? あんなもの。」
「分からないわ。」
ほうっと溜息をもらす。
「でも、チャンスだと思う。姉さんは魔女で、力を持ってる。物知りだし、仕事もある。やることをもってるのよ。」
私にはない。少女は小さく呟いた。
「メイズ、でも、でも、外に出て、一体何が出来るの?」
メイズは小さく微笑んだ。控え目だったが、自信に満ちた笑顔だった。
「世界が見たいの。」
窓から一枚、花びらが舞い込んだ。
うららかな春の日だった。
外は凍りつきそうな寒さだ。雪は止んだが代わりに強い北風が吹いていた。一人の旅人が雪の上を小走りに走って一軒の宿屋の中に入っていった。必死で手をこすり合わせるがなかなか手の感覚がもどってこない。一刻も早く湯につかりたかった。
「主人! 部屋は空いていないか!?」
宿の主人が厨房から出て来て大声で戸口へ向かって叫んだ。
「悪いが個室は空いてねえんだ。ザコ寝になっちまうがかまわないかい!?」
「充分だ。早く湯につかりたいんだ。使えるか!?」
「これも悪いんだが今丁度ぶっ壊れててな。ストーブの側で我慢してくれるか。スープ持ってくからよ。」
ついてない。こんな日に限って一つくらいいいことがあってもいいじゃないか。そう思いながら仕方なく早足でストーブの側まで寄る。
テーブルには先客がいた。背は座っているのでよく分からないがおそらく自分よりずいぶん低いだろう。細身な身体にだぼだぼの上着をはおっている。髪の色はすけるような薄い茶色。さほど多くもない髪を後ろで一つにしばっている。透明な玉飾りのついたひもで結んであるのが印象的だった。
「悪いね、一緒にさしてもらってもいいか。」
***
こんばんは。
ちょっと探し物があって部屋の中を引っ掻き回していたら、昔のノートが出てきました。
ぱらっとめくると、お話が書いてあるんですね。
先に載せたのは、字体とノートから中学生の時じゃないかな、と思います。感嘆符が多すぎる。あと誤字もちょっと。しかし旅好きだな。そして先を考えていたのかどうかすら謎。ここまでしかないのです。
というか、家から出てくるいろんなノートにお話が途中まで書いてあるんです。
昔は思いつくままに書いてたのでしょう。書き上がってないのですよ。書き上げなさいって苦笑
本当に、下手だけれど絵を描くのが好きで、お話を作るのが好きで、紙とペンさえあればよかったのだな、と思います。
どこか行く宛がないのでここに置いておきます。備忘録。
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