「愛と呼べない夜を越えたい」おまけ(数年後)
(本編:https://kakuyomu.jp/works/1177354054935484273 のおまけです)
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「あれっ。それ、昔のショコラのブリュレ」
響子の声に、匠はバーナーを止めて振り返る。ショコラ作りのために作り変えた、匠の家のキッチンだ。
「そう。整理してたらレシピ出てきたから、どんな味だったかなと思って。よく覚えてるな」
「覚えてるよー。そりゃ、ね。忘れられないもん」
くすくす笑いながら響子はキッチンに入ってきて、匠の横に並んだ。匠からバーナーを受け取って引き出しにしまうと、きちんと整頓された棚から自分と匠のコーヒーカップを取り出し、とん、と台の上に置く。
「忘れられないって、そりゃまたなんで」
「ショコラティエになるって初めて聞いたときだよ。覚えてない? あのとき、お菓子とたくちゃんなんてびっくりしたもの〜」
ココットの周りを飾り付ける匠の手元を見ながら、楽しそうに続ける。
「あの頃のたくちゃん、ぜんっぜん笑わなくて、玉ねぎ木っ端微塵ならともかくスイーツなんかと結びつかなかったんだよ。あんま話さないし素っ気なくって」
「悪かったな」
「だってそうだったもん。そのたくちゃんが今じゃハートのプラリネとか作ってるんだもの」
「……いいだろ別に」
「ふふっ、たくちゃんとハートだって。あ、でも今でもお客さんの相手は苦手だよね。相変わらずクールで女の子の好きな甘いことなんかとは無頓着そうな顔し……」
響子の言葉の続きは、匠に封じられた。
数秒のあと、唇を離して額を軽く突き放す。
「食べたかったら、ちょっと黙っとけ」
「……はぁぁーい……」
専門学校を卒業して、知り合いのパティシェに勤めてからもうかなり経つ。そして長く学んだその店も、先頃辞めた。
ピアノの音色を伴って、匠の店の扉が開くまで、あともうほんの数日。
♡♡end of this episode, and... to be continued♡
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