第3話、外国人作家の本って、絵本しか読んだことないんだよね……。

 時とは恐ろしいもので、気がついたら何も思い付かないまま、数ヶ月が過ぎてしまっていた。


「--そこで、主人公はズババと、敵に切りかかった! 敵は、その場にグワワと言って倒れこむ! うごごご、とその時、大地が揺れるのを主人公は感じた!」


 私、頭を悩ませながらも文化祭に向けての作品を真面目に、書いていた。


「……先輩、やっぱり小説書くのやめません? 明らかに、先輩には向いてないですよ」

「なんでよ?」


 私の手元にある小説は、裏紙で5ページ。当初の予定では、もっと後半の方で今の敵とのバトルのはずだった……どうして、こうなった?


「たしかに、書いたページは短いけどさー。物語を盛大にしようとして、私だって頑張ってるだよ?」

「いや、枚数の問題じゃなくてですね」


 後輩が、困った顔をしている。私、何か間違えたんだろうか?


「……表現が擬音語で多過ぎます。なんですか、さっきの敵の現れる前に言ってたドバババンって?」

「敵が、現れた音だよ? どうしてわからないの?」

「わかりません! 敵の登場シーンに効果音必要ありますか?」

「必要だよ! 迫力がないじゃん!」

「先輩は、特撮でも撮ってるんですか? 要りませんよ、そんなもの小説に!」


 後輩が、久しぶりに意見を言ってきたかと思ったら、ちょーダメ出しをくらった。なら、自分で書いてみろって言うんだ!


「しかも、なんでジャンルをファンタジーにしたんですか……もっと、無難なジャンルがあったでしょ? 現代ドラマ系とか」

「いいもん! いいもん! 私はファンタジーものが好きなの! 純文学とか読んだことないって言ってるじゃん!」

「はぁ先輩はすぐに、僕がああいったらこういう……もっと、素直に聞けないですか?」

「聞けない! 誰が、後輩くんの話なんか聞いてやるもんか! ふん!」

「また、そうやっていじけて……」


 いじけてないやい! 後輩が、意地悪なだけだい!


 そんな私の様子を見た後輩は、さらに困った顔になった。


 意地悪な後輩も最初は、ここまで意地悪ではなかった。

 元々、人見知りな私は初めてできる後輩に緊張しまくりだった。

 去年、卒業してしまった先輩たちのように、楽しくお話できるだろうかとか。お互いの好きな本についてどこまで語れるだろうかとか、いろいろだ。

 今思うと、バカらしい。後輩はこんな意地悪なやつだとは、一瞬たりとも私は思っていなかった。


 後輩と仲良くなったきっかけは、一冊の本だった。


 その本を見るまで、後輩は難しい系の本(純文学とか)が好きなのだと、私は勝手に思い込んでいた。だから、ずっとニュースとかで聞きかじった、知ったか知識を披露していた。だが、成果としては何も得られず、「そうですか」「僕はわからないです」と後輩には、叩いても響かない状態が続いていた。


 これは一体、何の苦行だ?


 私は、その時そう思った。共通の話題がないというものは辛すぎる。何か一つ、何か一つ共通の話題があれば……と、藁にもすがる思いだった。


 そんな時だった、後輩の読んでいる本は知っている。てか、私はその本を持っていて最新刊まで読んでいた。

 アニメの書いてある表紙に、本の中は挿し絵が入っている本だ。後輩は、それを部室で読み始めた。


 これは、好機と思った。


「わ、私もその本持ってるだよね!」

「……そうなんですか?」


 やったぁ、後輩に反応があった。


「うんうん! それ今出てるとこまで全部読んでるよ!」

「そうですか。実は、僕はアニメが好きなんですけどね。原作も、面白いらしいから最初から読んでて----」


 あの時の私が、ちゃんと後輩の話を聞いていれば今の後輩の態度はなかっただろう。私は、何か言おうとしてるのを遮ってしまった。


「でね! 最新刊では、その本に出てくるヒロインが死んじゃうだけど! すぐに復活して、実はアンドロイドでしたってオチ! 私とても好きなんだ!」


 私のその言葉を聞いた、後輩の表情が変わった。


「……僕、まだそこまで読んでないですけど?」






「……え?」


 やってしまった……後輩の表情は、ワルイ方向に変わってしまった。


「……チッ」

「舌打ち!? 私、先輩だよ!?」

「……じゃあ、その前に展開はどうなったんですかね? せ、ん、ぱ、い?」


 後輩の態度が、あからさまに変わった気がした。私の情報を、疑っているようだ。


 そこからだ。そこから、後輩は私に対して意地悪になった。あとおまけとして、お互いの文句を言えるぐらい、仲良くなった。


「そ、それは実はこうあって……こうで」


 私は、なるべく丁寧に説明した。後輩は、私の話を本の中と比べながら判断して聞いていた。


  ……あっていたもんだから、後輩はもう一度聞こえるくらい大きさ舌打ちを私にした。


 友好度って、こうやって上がる時……こんな音がするんだと、私は初めて知った。

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