君に、青

ちこやま

 〇


「食べる?青がミルクで、赤がビター」

 

千尋が袋を差し出し、チョコレートの甘い香りが鼻をくすぐる。


「じゃあミルクで」と青子。

「じゃあ、ビターで」と光。


「ああ、やっぱり」

青子がつまみ上げた青い包みを指差し、千尋はにこりと笑う。


「なにが?」

「青子だけに」

「だけに?」

「やっぱり青色なんだな、と」

「苦いのが苦手なの。それにね、青子だからって青色が好きってこともない」

「ご両親が好きなんでしょう?名前つけたの、お父さんかお母さんじゃないの?」

「どうだろう。聞いたことないけど」


昔から母は「青子はやっぱり青色よね」と言って青や水色の服ばかりを買い与える。父は、今の千尋のように青子と青色を掛けてちょくちょくからかう。


一度、胃腸炎にかかり、猛烈な腹痛と闘う青子に「おいおい、青子だからってそんなに顔を青くしなくたって」とおどけてみせたときは、その一瞬間だけ痛みを忘れるほど腹が立って、一か月近く口をきかなかった。


どちらにしても、好きというのとは違う気がする。


「でもさあ、青子っていいじゃない。奥ゆかしくて」

光が言うと、

「ああ、ね。平安時代のお姫様って感じ」

と、千尋。


「どういう感じよ」

「だから、奥ゆかしいって感じよ」

「私なんてさあ、小学校で、自分の名前の由来を調べてくるっていう宿題が出たのね。それで、帰ってお父さんに聞いてみたのよ。そうしたらさあ、私が生まれた日に、空を見上げたら、何か光のようなものが横切って、だから光にしたんだよ、って」

「どういうことよー」


青子と千尋は噴き出す。


「今なら私も、何それ、って思うんだけど、小学生の時は素直だったのね。言われた通りのことを、教室でみんなの前で自信満々に発表しちゃって。ああ、恥ずかしい」

「でもさ、そんなこと言ったら私だって」


次に渋い顔をしたのは千尋。


「うちの両親、どっちもジブリが好きなのね。だから、ジブリにあやかった名前にしようって。二人はジブリ見る?」

「まあ、そこそこ」

「トトロとかナウシカとか、その辺は知ってるけど」

「あっ、待って。まさか」


はっとした青子が身を乗り出すと、「そう、それよ」と千尋が青子の顔を指差す。遅れて光が手を叩き、


「千と千尋の神隠し!」

「正解」


どこの親も、似たようなものである。



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