第20話 抑えきれない主夫の本能

『頼みたいことがあるのだよ――』


 部長の着替えを見てしまったお詫びとして、彼女が俺に頼んできたのは、


「さて、早速とりかかるとしようか」


 生徒会室の掃除だった。


「私から頼んでおいて何だが、わざわざ休みの日に来てもらってすまないな」

「いいよ、頼みを聞くのを承諾したのは俺だし」


 日曜日の学校は平日とはやっぱり違って、静かだ。グラウンドの方からは運動部のかけ声が聞こえてくるけど、どこか遠くに感じる。


「……それに、俺もここで調べたいことがあったしな」


 明石あかしさんから聞いた、みゆきの――放送部の全国大会行きの件。

 彼女たちが、部費が足りずに大会に行けないかもしれないということ。


 あの時答えたとおり、俺が会計として『鍵』を渡すことはできない。だけど、それ以外になにかみゆきの力になれる方法があるんじゃないか、そして生徒会室なら、昔に似たようなことがあった記録が保管されているかもしれない。


「ていうか掃除くらい、みんなでやろうって言えばいいんじゃないのか?」


 生徒会室の散らかり具合は、最初に来たときからほとんど変わっていない。これだけの散らかり具合だと、みんなでやった方がはかどると思うんだが。


「そうはいかんよ」

「なんでだ?」

「これは私が前会長からの引継ぎをうまく処理できていないことに起因するからな。皆に迷惑をかけるわけにはいかんよ」

「……頑固だな、会長も」

「む? どうかしたか?」

「いや、なんでもないよ」


 散らかったままの生徒会室は、なにも会長のせいだけじゃない。片づけをそっちのけにしてしまった俺たち――他のメンバーにだって責任の一端はあるというのに。

 着替えを見てしまった、なんてことがなければ頼めないなんて、ちょっと不器用な気もするけど。


 でもそういう頑固なのは、嫌いじゃない。

 自分のことは自分で、それできるやつはそう多くはいない。


「ま、お詫びに関係なく、俺を掃除に呼んでくれたのはありがたいかな」

「それはどういうことだ?」

「いやなに、俺もずっと掃除、したかったってことだよ」


 山積みのプリント。無造作に置かれたダンボールにファイル。埃が雪みたいに積もっていそうな部屋の隅。

 ひとり暮らしを始めて1年。その間で培い、もはや俺の身体の一部となった主婦スキルが、まるで本能のように心を震わせてくる。


 ウズウズしていたのだ。初めて生徒会室に入った日からずっと。


 この散らかった部屋を片づけたいってな!

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