第43話 うちの球技大会はひと味違う

「えーじゃあ今日の議題は、球技大会についてです」


 6時間目。ホームルームに変更になった教室で、学級委員が黒板の前で言った。


「今年の競技はバレーボールです。細かいルールはプリントに書いてあるんで、見ておいてください」


 ざわざわ。


「具体的なことは、後で決める球技大会委員に主導してもらうことにします」


 ざわざわ。

 あちこちで私語が聞こえるが、学級委員は無視して話を進めていく。

 球技大会なんて、どうせ運動部連中が好きなようにするだろう、という意思の表れ。かくいう俺も、好きにしてくれという感じだ。


「それじゃあ――」


 だが、次の言葉が聞こえた瞬間、教室内は静まりかえった。


「うちのクラスの賞品を決めたいと思います」



『ほしいものは、勝って得よっ!』


 そんな理事長の方針に基づき、私立鐘山高校の球技大会は、ひと味違った。

 ひと言でいえば、各クラスが賞品を決め、優勝したらその賞品を獲得できる、というものだ。


 そして球技大会は学年に関係なく試合が行われるので、優勝クラスは1~3年の中でたったひとつ。1年生のときは「どうせ上級生には勝てないだろう」とクラスの誰ひとりとしてやる気を見せていなかったが、2年生にもなれば話は別だ。3年生は受験勉強に専念する人も出てくるし、優勝のチャンスは十分にあるといえる。


「まずは賞品の案を挙手して提案してもらって、その中から多数決をとりたいと思います」


 学級委員が言った瞬間、ずばばばと手がいくつも挙がる。


「俺は体育館を優先的に使いたい!」

「バカ、そんなの室内競技の運動部しか喜ばねえだろ」

「宝くじとかもらえないかなー」

「それなら私、ジョニーズのライブチケットがいいなあ」


 口々に己の欲望を口にするクラスメイト。収拾がつかないと思ったのか、学級委員はおほん、と大きく咳払せきばらいして、


「皆さん知ってのとおり、賞品は学校が用意するので、現実的なものしか認められません。それと、現金や金券なども許可がおりません」


 と、途端とたんに静けさが戻ってくる。


 賞品、ね……。

 じいちゃんの仕送りに頼らず、少しでも早く自活できるようになりたい俺としては、賞品ではなく賞金がもらえるのが一番うれしい。だけど、学級委員が言うようにそれは認められていない。


 こんなかんじで結局意見がまとまらないから、去年も運動部の希望がなし崩し的に採用された。


 ……ま、俺には縁遠いイベントってことかな。


「はい」


 すると、後ろの方から声と一緒に、席を立つ音。

 首だけちらりと振り向く。立っていたのは、背の低い女の子だった。


 おさげにした黒髪に、幼さの残る丸顔。あまり目立つような容姿ではないので、正直に言って顔と名前が一致しない。まあ、2年生になってまだ1が月ちょっとだし、生徒会のあれこれでそれどころじゃなかったっていうのもあるけど。


 だけど、それはこれまでの話。


 彼女の発言によって、俺と彼女は、そして球技大会は縁遠いものではなく、切っても切れない関係へと変わってしまうのだ。


「私は――うちのクラスだけアルバイトをする権利、がいいと思います」

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