第2話 緊張の一瞬!クラス替え!

「う、うそー……」


 学校に到着。そして生徒玄関に新しいクラス分けが書かれた張り紙を見て、さっきまでとは比べ物にならないくらいみゆきが消え入りそうな声をらした。


「どうした?」


 俺が聞くと、カクカクしながらこちらを向く。その目には涙がまっていた。


「カズくんと別のクラスになっちゃった……今まで違うクラスになったことないのに……」

「あー……」


 俺も見上げて、張り紙を確認する。

 確かに。俺は1組でみゆきは3組だった。


「秋ちゃんも1組だし、私だけ仲間ハズレ……?」


 みゆきはショックで灰色になっている。息を吹きかけたらサラサラとくずれていきそうだ。

 おい、燃え尽きんな。


「まあまあみーちゃん、学校行くときは一緒になるから」


 秋人あきとがなだめる。まったく、こういうところがあるから子どもっぽいといわれるんだよな。


「うん……そうだけど……」


 とりあえず落ち着いたようだ。秋人、グッジョブ。


「みゆき―――っ!」

「ほぶふぇ!?」


 突如とつじょみゆきが奇声きせいを上げた。クラス替えの結果が嫌でおかしくなったのかと思ったが、どうやら違ったようだ。すぐ後ろに女の子が抱きついていた。


「今年は同じクラスだねっ! よろしくー」

「ゆ、由夏ゆかちゃん?」


 名前を知っている、ってことは知り合いか。背は高くもなく、低くもなく、丁度ちょうど俺とみゆきの真ん中くらいだ。ツインテールにまとめられた髪が彼女のうれしさを表すように、ぴょこぴょこと揺れている。みゆきと同じクラスになれたのがうれしいようで、ヒマワリのようなまぶしい笑顔を浮かべている。


「んん? こちらの殿方とのがたたちは?」


 由夏、と呼ばれた女の子は「?」の視線をこちらに向けてくる。


「あ、ええと。この二人はカズくんに秋ちゃん。ほら、いつも話してるでしょ?」

「おおー」


 そう言ってようやくみゆきから離れる。


「どもどもー。アタシは明石あかし由夏。みゆきと同じ放送部員っす」


 自己紹介して、再び笑顔をかべる。


「どうも」

「お、おはよう」

「ほほーう、この人たちが普段みゆきをお世話しまくってる方々っすね?」

「ちょっと由夏ちゃん!」


 ニヤニヤしながら俺たち二人を見る明石さん。


「でも由夏ちゃんとはクラスなんだね。よかったあ」


 ほっ、と安堵あんどの息を吐くみゆき。つい先ほどとは全く表情が違い、ほおゆるんでいる。

 やれやれ。


「よかったじゃん。これでさみしくないだろ?」


 俺はみゆきの頭をぽんぽんとたたく。


「カズくん……うんっ!」


 元気よく返し、顔をほころばせる。

 昔からこうするとコイツは元気になるんだよな。


「ほほー、仲がいいっすなあ……」


 かたわらには、さっきよりも2割増しくらいでニヤニヤして俺とみゆきを見てくる明石さん。

 しまった。つい人前でいつものように頭ぽんぽんをしてしまった。


「あ、ええと由夏ちゃんこれはね……」

「いいっすいいっす。愛を深めてるってやつっすよね……」

「えええっ!?」


 顔を赤くしてあたふたし出すみゆき。何か言おうとしても、明石さんはうんうんとうなずくだけだ。……だめだ。完全に勘違かんちがいされてる。


「やっぱ結婚式には呼んでほしいっすね。新婦友人を代表してスピーチやるっす!」

「もおお、そんなんじゃないってばああー」


 周りが驚くくらい、みゆきの慌てふためいた声が生徒玄関に響き渡る。

 明石さんのおかげで、みゆきはクラス替えのショックをすっかり忘れたみたいで、俺は内心ほっとしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る