第4話 学校
ケイゴ・タナカは日本人の祖父を持つ日系三世の高校二年生だ。
見事な黒髪を短く刈り込み、鋭い一重の瞳と薄い唇、すらりと通った鼻筋がミステリアスな魅力を持っている。
高校へ向かう道中、爽やかな朝日を浴びながら大きくあくびをすると背後から何者かにドンと背中を叩かれた。
「グッモーニン! 今日もしけた面してるわねケイゴ!」
快活な少女の声。
こんな朝っぱらからハイテンションな挨拶をしてくる女性の知り合いは一人しか思い浮かばない。
「・・・おはようキャサリン。お前は朝から元気だな」
ケイゴの言葉にニッコリと満面の笑みを浮かべる少女の名はキャサリン。
艶やかな茶髪をツインテールにしてまとめ、勝ち気な表情の浮かぶその顔にはキュートなそばかすがポツポツと浮かんでいる。
彼女はケイゴの幼なじみなのだ。
「元気なのは当たり前だよ? だってこんな良い天気なのにケイゴみたいにしかめっ面してたら勿体ないじゃない。何、ジャパニーズの血を引いている人は皆陰気なの?」
「おいキャサリン、流れるように日本人をディスるのはやめるんだ。ボクは別に構わないけど色々問題になりかねない」
とは行ったモノの、日本人が皆陰気なのかどうかケイゴにも分からなかった。
日本の血を引いてはいるものの生まれてから一度も日本には行ったことがないのだから。唯一知っている日本人は祖父くらいのものだが、あの変わり者の祖父は明らかに日本人を知る上で参考にはならないだろう(最もアレが日本人のスタンダードだと言うのなら日本という国の認識を改める必要がありそうだが)。
二人で他愛の無い話をしながらダラダラと歩いていると、突然背後から女性の悲鳴が聞こえた。
驚いて振り返ると、道に倒れている老年の女性とその場所からこちらに向かって猛然と駆けてくるガタイの良い男性が一人。倒れた女性の「引ったくり!」という声を聞いて状況を把握する。
「そこをどけぇ!」
目をギラギラと光らせながら二人を怒鳴りつける男性。
その左手には女性から奪ったであろう女物のハンドバックと、反対の手には掌サイズのナイフが朝日を反射してギラリと光った。
その姿に驚いて後ずさるキャサリン。
しかし隣を歩いていたケイゴは面倒くさそうな目で男性を見ると、なんと道を空けるどころかナイフを持った男性に向かって歩き出した。
一瞬虚を突かれたようにキョトンと立ち止まる男性。しかし次第に怒りの表情に変化するとナイフを振りかざしてケイゴに襲いかかってきた。
襲い来る暴漢に、ケイゴはしかし余裕の表情を崩さずに静かに距離を詰めると駆け寄ってきた男性に強烈な足払いをしかけた。
流れるようなその動きに頭に血の上った男性が反応できる筈も無く無様に地面に転がった。痛みにうめく男性の背中に馬乗りになると右腕を取り、そのまま腕関節をキメて男性を完全に制圧する。
「ぅわお! 流石ねケイゴ」
戦闘の様子を見ていたキャサリンがヒュウと口笛を吹いた。
◇
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