第22話 金栗四三住家へいこう。玉名温泉経由で

 ロケ地から帰ってみると先ほどのラーメン屋に10人以上の行列ができていた。

 ここだけではなく、ほかのラーメン屋も同様である。

 思った以上に人気のある店だったようだ。

 少し早めに食べておいて良かったと胸をなで下ろす。

 ドラマ館に着くと同時にサイレンが鳴った。12時になったらしい。

「さて、ここから二つバスが出てるんだけど」と朝美ちゃんがシャトルバスの時刻表を指さす。

 一つは一日4本だけ出ている金栗氏の生家がある和水町行き。

 もう一つは金栗さんが死ぬまで住んでいた金栗四三の住家である。こちらは距離が近いためか本数が多い。

 和水行きは13時に出発らしいので、一時間も待つことになるようだ。

「うーん。住家を一時間くらいで見終わって最後に和水町に行ってみようか?」と朝美ちゃんが言う。

「いざとなれば和水町に泊まればいいよ」

 宿の予約をしていない無計画旅行の利点だね。とふざけた事を横の無計画者は言う。


 昨日それで死ぬほど苦労したじゃないか。


 今考えると、本数の少ない方こそ、時間に余裕のある先に行くべきだったのだが、現地の状態をよく知らなかった我々は選択を誤ったといえるだろう。

 だが、バスがくるまで一時間待ちだったので、先に到着した住家行きバスに心引かれたのも仕方ない話である。

 

「あれ、お嬢さん方、これから住家にいくのかい?」

 バスに乗ると、そう聞かれた。

 最初に乗ったバスの運転手さんだったのだ。

「ええ、ロケ地にも行ったし、和水行きのバスは一時間後らしいので」と答える。

 運転手さんは少し考えて「ごめんやけど、このバス遠回りしてから目的地に行くんや」と言う。

 この旅を終えてから地図とにらめっこしていると『遠回り』といった意味がよくわかる。

 目的地とは全く逆方向に2kmほど進んでいるのだ。

 ドラマ館から住家の直線ルートは北西3km程度だ。

 だが周遊バスは、ここを通らずに西へまず進む。

 そしてY字路を引き返して玉名温泉前にいくので3kmは余計な距離を行くルートらしい。

 ものすごい遠回りである。

 下手したら和水には間に合わない、と地元民だから分かったのだろう。

 ただ当時の我々は、遠回りと言われてもどんなものかわからないし、一時間以上かかるわけではないだろうと判断し、結局行くことにした。


 我々は運転手さんにドラマで観光客は増えたのか?とか美川さんという友人がいたそうだけど何か知りませんか?と質問攻めをしていた。


 幹線道路をUターンすると、坂道を下って玉名温泉で5分乗客待ちするという。

 ここの入湯料は500円くらいするらしい。

「えー、別府だったら100円で入れる温泉がありますよー」と言おうとして朝美ちゃんが口を閉じる。


 でかい。


 別府の公民館的な規模の温泉を予想していたのだが、玉名温泉は立派な町の施設のようなたたずまいである。

 町には落書きもなく、落ち着いた雰囲気でとてもきれいだった。

「別府温泉よりも大きいね」

 ぼそりと私が言うと朝美ちゃんは

「別府は湯料と温泉の数が多いから、ピンからキリまであるし…」

 キリしか行ってない人間が言ってもあまり説得力ないよ。


 まあでも、こんな高級な感じの温泉街にくることはないだろうねーと笑い合う我々。それが4ヶ月後に来ることになるのだから人生というのは分からないものである。


 結局だれも乗車しないままバスが出る。

「遅くなってすいませんね」と運転手さんが謝るが、無料で乗せてもらっているのだ。こちらの方が謝りたい気分である。

 風情ある町並みを進むと開けた場所に出た。

 見渡す限りの平野と田圃。地平線の先にぽつりぽつりと民家が見える。

「熊本平野…いや玉名平野だね」と自然と口からでた。

 ここまで広い平野は大分にはない。

 しいて言えば宇佐平野が近いが、ここまで遠くに山が見えたりはしない。

 

 270度が視界を遮るもののない平野。


 言葉にすれば簡単だが、その舞台を用意するのは難しい。

 大分だとかならずどこかに山かビルがあるのだ。

「世界って広いんだねー」

 県外に出ただけで世界を語るのもどうだと思うが、これは大分では見れない光景である。


 バスは新幹線が到着する真玉名駅でさらに客待ちをし、やっと住家に向かった。

 玉名の周遊バスは、こんな感じだ。のんびりしたものである。

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