一方、そんな異世界勇者を見ている街の人の声は…

ちびまるフォイ

活躍を見ていた人の声は…

「ゴギャアアアアーー!!」


「出たなドラゴン! お前に殺された村の人々の怒り!

 俺がこの剣で討ち果たしてみせる!!!」


聖剣でドラゴンは見事両断されて世界に平和が訪れた。



ーーそれではここで街の人の声を聞いてみましょう。


『ドラゴン? かわいそうに、人里に入っただけでしょう? (30代主婦)』

『なんでもかんでも殺処分ってのはねぇ……(50代男性)』

『もっと上手な解決策があるはずだと思う(20代男性)』

『ドラゴンを殺す力って、人にとっても脅威じゃない? 危険だよ(30代男性)』



「え!? これ俺が褒められる感じじゃないの!?」


勇者が街に凱旋するや蜘蛛の子を散らすように人々は逃げた。

死角からひそひそとうわさ話をする声が聞こえる。


「ちょっと聞いてくれよ! 俺は依頼されたから倒しただけだって!

 なのになんで俺が悪い感じになってるの!? 人助けだよ!」



ーー一方、ここで異世界勇者の入り口調査を見てみましょう。



賛成;30%

反対:60%

どちらとも言えないことはない:10%


という結果になりました。


コメンテーター

「やはり、別世界からやってきたよそものがドヤ顔で

 "世界救ってやったぞおら感謝しろ"というのはね……」


異世界評論家

「とりあえずもう一度死んで現実世界に転生してきてほしい」




「なんだよ入り口調査って!!」


"あなたが異世界転生する際になんか聞かれました"


「はっ! この声は神様!」


"世間の声など気にせず旅を続けるのです。

 あなたには世界を救う大きな役割があるはずです"


「そうだ、俺は世界を救わなくっちゃいけない。もっと先を見なくちゃ。

 仮に嫌われ者のままになったとしても平和を取り戻したい!」


勇者は粉々に崩れかけていた豆腐メンタルをふたたび取り戻した。

いつか自分のことをわかってくれる日が来ると信じて。


ストイックに冒険を続けていたとき、いっときの油断から勇者は重症を受けてしまった。


「くそ……街の人の評価が低すぎて仲間が来てくれないから、回復もできない……早く宿屋に……」


這いずりながら宿屋にたどり着くと、露骨に店主は嫌な顔をした。


「頼む……死にそうなんだ……休ませてくれ……」


「ええ……それは困るよ、あんた自分の評価知ってるのかい?

 いまじゃ汚物よりも低い存在価値なんだよ」


「俺の評価なんてどうでもいい!

 今、俺を救わないと世界を救うチャンスがなくなるんだぞ!」


「何年後かに世界を救うことよりも、

 ここにいわくつきの男を泊めて客足が遠のく明日のほうが怖いよ!」


店主は入り口のシャッターをぴしゃりと下ろしてしまった。

手切れ金とばかりに外には申し訳程度の薬草がぶん投げられた。


牛のように薬草をかじって回復すると勇者の怒りはマックスに。


「どいつもこいつも噂を真に受けやがって!

 俺がどれだけこの世界に貢献したいと思ってるかわかってるのか!!」



ーー一方、街の人は……。


『なんか自分が一番えらいみたいな感じで話してますよね(20代男性)』

『よくわからないけど、死ねばいいと思う(10代女性)』

『人として足りてないものが多すぎますよね、あの勇者(30代男性)』

『あんな奴に武器は売りませんよ(40代鍛冶屋)』

『うちは村の入口に勇者お断りって書いてます(80代村長)』


天界では勇者総辞職案を提出するとのことです。


コメンテーター

「ぼく思うんですけど、勇者って本当に必要なんですかね。

 村の人を武装させてみんなで攻めたほうがよくないっすか?」




「誰も犠牲にしたくないから俺ひとりで体張ってるだよぉぉぉい!!!」


勇者は激怒したがついに勇者総辞職が決まってしまった。

勇者は勇者ではなくなり、勝手に人の家のタンスを開けることもできなくなった。


「仮に勇者という肩書きがなくなったとしても俺のやるべきことは変わらない!」


勇者は手にした聖剣を空高く掲げた。


「この聖剣がある限り!! 俺はひとりでも世界を救ってみせる!!」


などとやっていると、元勇者が聖剣で逆襲するかと誤解した村の人により投獄された。

鉄格子に囲まれた元勇者は悔しさで地面に拳を打ち付けた。


「ちくしょう! 今こうしている間も魔王は世界を討ち滅ぼさんとしているのに!

 世界を救えるはずの俺はなんでこんなところにいるんだ!!」


世界を救うためのストイックな冒険には能力以上にメンタルが必要というのに

心も体もストレスでボロボロにされた勇者はとても立ち直れそうにない。



ーー一方、街の人の声は。


『勇者? ああ、いましたねそんな人(40代男性)』

『今何しているんですか? 知らないけど(30代女性)』

『最近見てないから死んだんじゃないですか(20代女性)』




「くそ! さんざんこき下ろしておいて、すぐに興味失いやがって!」


仮にここから外に出たとしても害獣のように扱われるのは目に見えている。

世間の評価よりも世界を救うことはできないのか。


「は! そうだ!」


元勇者は自分の魔力のすべてをつぎこんで空に向けて魔法を放った。

空にゲートが開かれて、イケメンJrがグループで異世界に勇者としてやってきた。


「さて、世間の評価は!?」


今度は元勇者側から確認した。



『新しい人めっちゃかっこいいんですけど!(10代女性)』

『礼儀もしっかりしているし真面目で好感が持てる(20代男性)』

『やっぱりああいうちゃんとした人が勇者になってもらわないと(50代女性)』

『友だちの間でも話題ですよ。みんなイケメンですからね(30代女性)』


元勇者の狙い通りだった。


新しくやってきた異世界Jrたちは持ち前のルックスとダンスパフォーマンスで

またたくまに異世界の人たちから高い支持率を得た。


今では箸を落としただけでも話題になるほどの注目度。

元勇者が脱獄しようが誰も気づかれやしない。


「やったぞ! これでもう街の声を気にせず冒険ができる!

 世界を救えば俺の評価も見直されるはずだ!!」


ふたたび冒険の旅に出た元勇者を批判する人はもう誰もいなかった。

これからは評価を気にせずに冒険ができる!




ーー最後に、天の声を聞いてみましょう。


『勝手に新しい人を転生させるとかありえないし困る(20代女神)』

『新しい人がいるのにどうして元勇者が出張るの?(30代女神)』

『正直、転生したときから魅力ないなって思ってた(30代神様)』

『顔が嫌い。清潔感がない(40代女神)』

『誰も見てないスキに世界を救うってどうなの?(30代神様)』


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勇者は体調を崩し、ついに冒険に戻ることはもうなかった。

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