きゅーてんはち

 賭けをしようと彼女は言った。

 彼女がこれから行う行為で僕が傷つけば彼女の勝ちで、彼女が勝てば彼女が僕に向ける好意を認めろ、と。

「だいたい賭けって何をするんだよ」

『それはすぐにわかるよ、遅くても明日には。でも君は何もする必要はない、ただ私がしたことの結果を知ってくれれば、それだけでいい。別に何をするのか今ここで話しても構わないんだけど……それで私が賭けに負けたら私の心情的に悲惨すぎるから。そんな絶望を抱えてあれを実行するのも中々あれだしね……それに、実際にやって見ないと勝敗がつかないから』

 問いかけに返ってきた長い答えに辟易とする。

「もういい、好きにしろ」

 投げやりにそういうと、電話の向こう側で彼女が微かに笑った。

『うん。それじゃ始めるよ。バイバイ』

 と言ったくせに向こうから通話は切れない。

 こちらから切ろうとしたところで、妙な音が聞こえてきた。

 風を切るような、奇妙な音。

 そして。

 ――グチャリ。

 と何かが潰れるような音と、続けて何かが砕けるような衝突音が立て続けに響いて。

 ――ツー、ツー。

 通話が切れた。


 その日。

 一人の少女が自宅のあるマンションから投身自殺をした。

 そして。

 僕は賭けに負けた。

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