異世界転生した私は愛しい存在と合体して魔王に勝ちます

文屋旅人

異世界転生した私は愛しい存在と合体して魔王に勝ちます

起 愛しき存在と戯れていたら死にました、転生します


「ふふふ、なんという至極……」

 私はしがない研究者です。

 関東の、とある私立大学理学部生物学科で今博士課程をとろうと頑張っています。

 聞いてください。研究者の世界とはブラックなのです。

 成果を求めて何日も寝ないことなど日常茶飯事。さらに研究成果を奪おうとする同僚たち。ただ純粋に、愛しいものの真理を解き明かしたい、そんな乙女のような理由で私はこの研究者の世界に入りました。

 しかしながら、そんなストレスを和らげる方法があるのです。

 それこそが、自分の好きなものに塗れるという方法。


「やはりプラナリア風呂は最高、そう思いますね」


 自宅の水槽に、どっさりと詰め込まれたプラナリア。大体三キロほど、この趣味のために同僚たちに内緒でこっそりと増やしたプラナリア。澄んだ水の中にぶち込んで、その中に入るのです。

 プラナリアが体中を這ってかわいらしい、本当にかわいらしいのです。

「おほぉ」

 ついついプラナリアが体中を這う感覚が気持ち良すぎて、目を閉じ、変な声をあげてしまいました。





「そんなんだから前代未聞の死に方をするんですよ」

 次に目を開いた時、やたらと白い空間にいました。

 「死んだ、ですか」

 とりあえず水槽に入るときに取っていたはずの眼鏡がかかっていたので、なんか状況がおかしいことはわかります。

「はい、死にました」

「死んだのに意識がある……まさか宗教の言う死後の世界は実現する……これを論文にしたら研究者として栄達を邁進できそう……」

 私は立って、周囲をみて、なんとなく現実味がない世界。納得はできる、目の前のギリシア趣味満載の女の人を見て、何とも不思議に受け入れてしまったのです。

「あのー、そろそろ論文の計画などはやめてもらってもよろしいでしょうか?」

 目の前のギリシア風女性は、私の思考を遮ります。探求に対する思考を邪魔するならちょっと死んでくれないかな、なんてことを思いながら女性をじっと見ます。

「あの、死んでくれないかなって思うのやめてもらえます?」

「心を読むのやめてもらえます?」

 せっかく口に出さない優しさを私が出したんだ。黙ってほしい。

「まぁそんなことはどうでもいいとして、どうして私は死んだのですか?」

 とりあえず、聞くのを忘れていたことを問いただしてみる。すると、女性は呆れたように私に言いました。


「心臓発作です、それもプラナリアが体を這ったことによるテクノブレイク」


「あ、テクノブレイクって正式な医学用語ではないどころかただの俗語ではないので訂正した方がいいです。即ち私の死因はプラナリアによって性的に興奮して心臓発作を起こしたんですね」

 なるほど、まぁ、自分の研究対象に注いだ愛によって死んだのならば研究者冥利だ。

「あ、訂正ありがとうございます。えっと……ではとりあえず異世界に転生してもらってもいいですか?」

 ギリシア風女性はそんなことを言いました。

「異世界ですか。まぁ行けといいうならどうやら拒否権もなさそうなんで行きます」

 これが死後の世界ならこのギリシア風女性は絶対的な存在なのでしょう。即ち、素直に従った方がいい。学者は研究費のために権力者に尻尾振る生き物ですワン。

「それはありがたいです……ですが……魂を回収するときに少し不手際がありまして……」

「不手際、ですか」

 どんな不手際なのでしょうか?すると、ギリシア風女性は顔を真っ赤にして言うのです。

「尿道や肛門、口腔内部から入り込んだプラナリアの魂とあなたの魂が分離不可能になりまして、あなたの転生後の肉体はプラナリアの能力を併せ持ってます」

 それを聞いて、性的な絶頂を覚えました。

「寧ろ、喜んで」

 その私の反応を見て、ギリシア風女性は顔を真っ青にしてました。

 なるほど、心が読めるのなら私が数多の中に描いているめくるめくるプラナリアとの逢瀬を読んだのか、と納得する。

「えっと、これ以上かかわると私も狂いそうなので早速転生してもらいます。勇者として頑張ってください。えい、そーれっ!」

 そんな間の抜けた声と共に、私の肉体は飛ばされるのだった。











承 とりあえず私を斬ろう、勝てます


 肉体が浮遊したと思ったら、気が付くと何ともゴシック趣味丸出しの場所にいた。

「これが……勇者?」

 目の前にいるのは、筋肉質で精悍な男性だ。その後ろには、何とも偉丈夫な毛むくじゃらの老人がいた。

 精悍な男性は首を傾げる。

「偉く貧相な肉体じゃな」

 そして、偉丈夫な老人は私の肉体を見ていった。まぁ、もともと運動不足の研究員だしなぁ……。

「その……そなたは勇者なのか?」

 男性は私に問いかけました。

「ええ、おそらく勇者かと。女神に頼みし増援だ、見た目がこれでも勇者だろう」

 あのギリシア風女性がそういったので、おそらく私はそうなのだろう。

「では、何ができる」

 男性は、しっかりとした眼で見ます。とりあえず、私はさっき言われたことを思い出します。私はプラナリアができることができるなら……。

「増えます」

「は?」

「私を斬って斬られたものを栄養たっぷりできれいな水に付け込むと増えます」

「は?」

 とりあえず、ぽかんとする男性と老人を背に私は準備します。

 砂糖、といえばいいのだろうか。甘い液体を溶かしてもらった清水が用意されました。樽にたっぷりと入ってます。

「では、そこの男性。私の首をバッサリと切った後この樽の水の中に私を入れてください」

 男性はなんかおびえたような眼で私を見ています。あ、老人に至っては立派な椅子の後ろに隠れてます。

「そ、その……正気か?」

「はい」

 自分自身でプラナリアの追体験ができる、これがうれしくなくて何がうれしいと思うのでしょうか。

「……」

 男性は剣を抜きましたが、手が震えてます。全く……男の風上にも置けないくらい肝っ玉が小さい男です。ペニスはついてるのでしょうか?男性ホルモン不足でしょうか?

「ほっ」

 うじうじしている男にイラっと来たので、思いっきり震えている切っ先に飛び込んでみます。

 奇麗に、頸椎の間に入り込む刃。このまま男が歯を振ると振っ滾れるのですが……

「」

 ダメだ、泡吹いてます。とりあえずまだ意識があるので手から剣を奪い取って、樽の上で自分の首を切り落としました。なるほど、斬首とはこういう感覚ですか。ラボアジエ気分を味わえて、ちょっと新鮮。



「というわけで」

「増えました」

 結局、二時間くらい後に私は増えました。

「……増えたな、息子よ」

「増えましたね、父上……」

 どうやら老人と男性は親子らしいです。増えた私を見てなんか男性の方は戸惑ってます。

「その……勇者よ」

「はい」

 男性は増えた私をじっと見ています。

「その、服くらい来てもらえるか?」

「あ、わかりました」

 この男性の従者が持ってきたであろう服を着こみます。麻に近い繊維ですね。

「なるほど、増える勇者か……」

 男性は私たちをまざまざと見ました。

「ちなみに、減らす方法というのはあるのか?」

 老人――男性の父親――は私に問いかけます。

「それなら簡単です」

 私は横に落ちている、さっき男性からとった剣をすっと取り……

「えいや、っと」

 増えた自分の首を落とします。

「は?」

 男はぽかんとしてます。

「こんな感じで、ただ殺せば普通に死にます。私が増える条件は、清水の中にそれなりに栄養分があるときです。原理などはわからないでしょうが、まぁ、独自の方法で増えると思ってください」

 男性と老人は目を丸くしてます。

「で、私のことを勇者と呼んだからには何か必要なことがあるはずです。何か、教えてもらえると助かるのですが」

 そう問いかけると、呆けていた男と老人ははっと気が付いたように私を見ます。

「あ、ああ……では説明しよう……」



「ふむふむ、成程、そういうことですか」

 とりあえず、長くて要点が取れていない説明が二時間ほど続いたが大体言いたいことは分かりました。

 論文なら失格です。

 どうやら、この世界には魔王がいるそうなのです。その魔王という一つの種族が、部下である魔物を使って人間を荒らしている。簡単に言えばそんな感じだそうです。

 魔物とは、魔王が生み出し魔王のためのみに生きる生物。そう聞くと、真社会生物、即ちアリやハチにそっくりな社会形態をしています。

 ただ、真社会生物と違うところはこの魔物という生き物は、魔王を殺せば消えるということ。

「即ち、私がすべきなのは魔王を殺すということですね」

 この男――実はこの世界の王国の王子だそうです――と、老人――王子の父ということで王様――はうなずきます。

「そうだ。我々は魔王が発生すると、女神さまに勇者の派遣を請願する。慈悲深き女神さまは勇者を派遣してくださって、女神の名代として勇者は魔王を倒すのだ」

「なるほど」

 つまりは世界を維持するための体のいい鉄砲玉、と。一つの種が栄えないために行われるカウンター、恐竜の繁栄を亡ぼした寒冷化みたいなものでしょうか。まさか自分がそういった、一つの種族を絶滅させる自然災害的な存在になるなんて思ってもなかったです。

 こう、生物学者的にクる。

「わかりました、では増えるしか能がない私ですが、君たちを守るために頑張らせてもらいます。その、よろしくお願いします王子様」

 とりあえず、世話になるから礼節は大事です。こうして私は、生物学者から勇者にジョブチェンジしたのです。






転 近代化とは大量生産、大量生産こそ勝利への道


 私の感覚では、大体一年の月日が経ちました。

 とりあえず、この一年で簡単な魔法とある程度の剣術は覚えました。

「ふむ、もともとは学者さんということで筋はいいですね」

「ありがとうございます、賢者さん」

 私に魔法を教えてくれた賢者さんはそう言ってくれました。どうやら、この世界は私がもともといた世界におけるATPを強制的に利用して魔法を放つようです。王国のガラス職人に無理を言って作ってもらった顕微鏡でも、魔法が使えないといわれている生物はミトコンドリアらしき細胞構造物がなかったので間違いないです。

 剣術は王子が直々に教えてくれています。

 最初は根性なしだと思ってましたが、何とも武術はしっかりできてました。

 要するに、ヘタレですね。

 毎日魔法と剣術について、ひたすら午前は基礎の反復と座学、午後は実践を繰り返してました。おかげで、まぁそれなりには強くなりました。

 一年もの間、私がこうやってみっちりと基礎能力を挙げたのにはちゃんとした理由があります。というのも、この世界に来てから一週間で魔王に勝つ方法自体は思いついたのです。

「勇者、少しいいか」

 賢者さんとの授業が終わった私を、王子が呼びます。

「はい。王子、もしかして準備終わったのですか?」

 王子は首を縦に振ります。

「ふむ、ではやらなくては……」

 そういった時でした。

「その、なんだ……本当にやるのか?」

 王子は不安そうな顔で私に問いかけます。

「やりましょうよ、多分この方法なら犠牲は出さずに魔王に勝てますよ?」

 そんな王子に、私はそういいました。

 さて、では問題です。

 戦争に勝つのに必要な手段とはなんでしょうか? 否、言い方が悪かったです。どうして、士気旺盛な日本軍が米国に敗北したのでしょうか?

 答えは簡単です。

 米国の方が正しいからではありません、米国の方が多くの物資を作れたからです。

 そう、いつだって勝利をもたらすのは近代化に伴う大量生産です。

 そして、この世界には都合よく大量生産に即した対魔王兵器、即ち私がいます。ならばやるべきことは必然。私を大量生産すればいい。

「王子、領内の人たちに解体図を布教しましたか?」

「あ、ああ……しっかり罪人の死体を使って練習もさせた……ウップ」

 まず、王と王子に頼み込んで、領内の人々にしたいの解体の仕方を教え込みました。私が再生するのには、ある一定の大きさの肉片が必要であり、そこから二週間ほどの実験によって私は自分自身が質量当たり最速で自分を大量生産する分量を見つけ出しました。

 それに基づいて、自分自身を解体するための教書を作成しました。

 そして、各村に栄養分が多い清水を大量に搬入させています。

 私の作戦としてはこうです。まず、王宮で清水の中の栄養が尽きるまで私を養殖します。養殖されて数がそろえば、転位陣で王国の各自治体に私を転位させます。こうして増やした私を各自治体に備えてある栄養を含んだ清水で私をさらに生産します。

 当然、増殖した私も食事を食べるのでなるべく早く私を魔王にぶつけて消費する。

 理論上、九桁くらいの私が生産できる体制を整えました。

 さらに、王国の精鋭の努力により魔王が設営して居住している陣を突き留めました。

 魔王を物量で追い詰めて、息の根を止める。

 この世界の技術で可能な限り効率化された生産プログラム、大学の学部時代に食糧生産の授業を取っておいてよかったです……農産物の生成ラインを一部参考に、何とか作り上げたこのシステム、魔王程度には負けないと思いたいです。

「その、君の精神とかは大丈夫なのか?」

 王子は何度も私が増殖しているのを見ているはずなのですが、心配性ですね。

「大丈夫ですよ、特に苦痛などはありません。寧ろ……」

 自分がプラナリアになったと考えると、うれしく思えてしまう、と言おうと思いましたがさすがに引かれるなと思いましたので私は口を閉じました。

 すでに、王国中の魔法使いの方々が集まってます。

 私自身、この一年で鍛え上げました。

 それ故に、生半可な敵には負けないほど強くなりました。これもあのギリシア風女性、否、女神とやらの加護なのでしょうか。生来筋肉や力はつきにくい体ですが鍛えてしまえば何とかなるでしょう。

 非力なものであろうと、数がいれば圧倒できます。

「では、王子……作戦を開始しましょう」

 準備ができている魔法陣を前にして、研究者としての血が騒ぎます。

 どれだけ、自分が頭を使って作り上げたシステムが勝てるのか。それが何とも言えぬほど、楽しみなのです。

「ああ、わかった」

 そして、王子はきちんと私が言った通り、しっかりと唐竹割にするのです。

 さぁ、戦争の始まりです。









結 魔王よ、数こそ力だ!


 魔王は慌てているようでした。

 まず、自分が存在している場所に勇者が来たことに慌て、そしてその勇者が一度に十人、全く同じ顔が来たことが驚きだったようです。

 まず自分は第一陣。

 増えて、そして後続のために死ぬ役割です。増えた私たちは、少なくとも情報の蓄積のために増殖させる魔法で紙を増やし、それを各地の自分の生産工場に送ります。

 こうして、学習しながら魔王に何度でも向かっていく千人部隊の完成です。

 人間が学習できること、それはプラナリアにもない利点です。

「ぐおおおっ!」

 あ、魔王は吠えると魔力で人を粉砕する、と。私は体が崩れながら、何とか魔法陣で情報を転送しました。



 私は一万人目くらいでしょうか。

 魔王は次から次へとくる私たちに慌てているようです。私が得た情報は、大量にあります。

 魔王が腋をくすぐられると弱いことから、魔王の弱点は炎であることまで、そろそろ情報がそろってきました。

 あ、氷の塊。頭潰れるな、これは。



 魔王はタフです。

 十万人くらい私を送っても殺し続けてます。

 もう弱点はばれているんだからいい加減くたばってもよさそうだが、まだ魔王はぴんぴんしているのです。

 一応こちらとしてもさらなる情報を送り続けて、徐々に効果的なダメージを蓄積はしているつもりなんですが……うん、自己再生は反則ですね。

 今魔王に下半身をつかまれた状態で情報送りました、私、ガンバ!



 魔王という存在は永久機関に使われるのではないのですか。それくらい魔王はタフです。

 たやすくこちらの想像を上回るタフさを見せつけながら、魔王は君臨します。

 否、真面目にすごいです。

 私の消耗数は、もはや一千万人を越えます。三日三晩、送り続けても魔王はねを上げない。見事なものです。

「燃え盛れっ!」

 魔王の弱点である背後に炎を放ちます。魔王は暑がると同時に、私の腹をぶち抜きました。

 後は頼んだ、私。



「魔王、強い……」

 想定外です。私が想像できる限りの効率化されたシステム、即ち王国の人手をすべて使って私の肉体を最大限まで分割させ、栄養豊富な液体に放り込む方法で、405505937人まで増やした私を、魔王は私一人になるまで粉砕しました。

 もう、私の肉片をプラナリアのように増殖させるための環境すら尽きた状態です。

「ぐっ……」

 だけど、魔王の疲労も大きいです。しかしながら、私の負けになってしまいました。

「くっ……見事です魔王……貴方は……強い」

 そういった時です。

「うっ」

 魔王がうめきます。

 そして、魔王の体がさらさらと砂のように砕け散りました。

「え?」

 思わぬ展開。なるほど、魔力切れですか。そういえば、細胞も特殊な処理をしなければテロメアがなくなって死にますね。それと同じだろう、なんていう風に私は納得しました。

 約一か月、不眠不休で405505937人の私と戦い続けたら、そりゃ力尽きもします。私は、消えゆく魔王を見てぐっと手を挙げました。

 あまりにも魔王が強いので、王子に頼んで王国の全兵力をこちらに向かわせていたのです。計算が甘かった、最悪あんな強い存在をこの国の人たちに戦わせるところでした。

 自分自身の計算の甘さを少し悔いるとともに、勝ったことに安堵しました。

「おーい!」

 すると、砕けた魔王と405505936人の私の死体しかない場所に王子が走り寄ってきます。

「大丈夫か、勇者!」

 王子はそこらあたりに散らばっている私の肉片をかき分けながら来ました。うん、いくら魔王が蒸発させたって言っても405505936人分の死体なんてそりゃ海のようになりますね。

 あ、王子。さすがに人の死体の首を蹴るのは人としてどうかと思うのです。でも仕方がないですね、生きて手を振ってるのはここにいる私かいませんし。

「ええ、大丈夫です。しかしながら、国庫を傾けて作った私が全部消えてしまいました」

 私じゃとりあえず謝罪します。すると、王子は涙を流しながら言うのです。

「いや、別にそれはいい。寧ろ、生きていてくれたことに安堵した」

 そんなことを言いながら、王子はへタレこみました。

 あーあ、甲冑が私の血でぐっしょりだ。王子は、涙を拭きとり、私の方をじっと見ました。

「えっと、とりあえず帰りましょうか」

 私がそういった時でした。


「勇者、結婚してくれ」


「へ!?」

 いきなり、王子がそういいました。……もしかしなくてもプロポーズ?向こうの世界で二八年、こっちの世界で一年半、生きてきて初めてのプロポーズされるという経験。

「あの、正気ですか?」

 世間一般的には喪女といわれるであろう私に、告白してくる雄という生き物がいるとは思わなかったです。

「正気だ。その真摯に国を救った姿勢、惚れたのだ」

「は、はぁ……」

 危篤な、否、奇特な人間がいるものです。

 まさかこんな研究にしか興味がないAAカップに恋をする男がいるなどと……。しかも冷静に考えれば、王子は私の増殖実験のために何度か私を斬ってるはず。

 内臓まで見て惚れた? それだったら、変態ですね。

「えっと、かなり本気なんですか?」

「本気じゃなかったら、そんなことは言わんよ」

 王子は私の眼を見て言いました。さすがに、男女の感情というものに疎い私でもわかります、あ、これ本気だ、と。

 まさか、プロポーズされるとも、そのプロポーズされる場所が自分の死体であふれている場所だとも、全く思ったことはなかったです。

 ですが、まぁ真摯な気持ちだから、馬鹿にはできないんですよね。

「えっと、いいですよ」

 私がそういうと、王子の顔が明るくなりました。

「ほ、本当か!」

「まぁ、こんな私でよければ」

 何というか、ここで結婚してあげないとこの王子変な人に騙され吸って思ったのは内緒です。

「そうか、では……」

 王子はすっくと立ちあがりました。しかしながら、そこで私はふっと思ったことを言ったのです。


「では、初めにやることは国のために私を増やすことですね」

「なんでだ!?」

「王統の維持の為、私が妊娠している間に次の子供を孕む私が必要ですよね?」

「……その、何だ……うん、もう慣れたよ」

 なんか、王子は肩を落としました。

 さて、どうやら私はこの異世界に骨を埋めるらしいです。

 研究ができないことが心残りですが、まぁ自分が守り切ったものに囲まれて死ぬのも悪くはありません。

 魔王を倒した私が、これからどうなるかはきっと私次第なのだから。



















 後に吟遊詩人は語る。魔王を倒した勇者は15人に増えて王子様に嫁ぎ、30人の子供たちに囲まれて幸せにその生涯を終えました。

 と。



HappyEnd!

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