僕らの声。

紫雨

1.私とみんな

「みんなぁー! 今日は来てくれたて本当にありがとぉー! これからもよろしくねー!」


都内某所。小さなライブハウスで、私達6人は幸せだった。

 視界一杯のペンライト、開場に響き渡る歓声、仲間の顔、疲労感。私、今生きてる。きっと、四年前の私はこんな日がくるなんて思ってもいなかっただろう。

今までにこんなに充実した1日があっただろうか?

今までに、1つの事を成し得るまでに、仲間と本気で泣いて、笑って、本気でぶつかりあった経験はあっただろうか。


ありがとう。その言葉しかでてこない。




****************************************


 一ノ瀬京華。それが私の名前だ。でも学校では京華って呼ばれたことはない。声が低いから。背が高いから。運動ができるから。そういう理由で女子には避けられていた。まあ、それでも仲の良い友達はいた。部活の先輩とも仲良かったし、学校生活に困るほどではなかった。だから気づいたら男子と仲良くなっていたし、そもそも女子に興味がなくなった。だけど、違うクラスや学年と仲がよくてもクラスという団体に属している以上はクラスのでなかのいい人はいないと駄目だ。きにしていないように見えて、実はそんなこともないのだ。いっその事、漫画とかドラマみたいにいじめてくれたらいいのに。孤立って一番たち悪いじゃん。

 そんな私に、救いの手が差し伸べられたのは中学生最後の夏休み前だった。雨宮琥珀、頭はちょっとお世辞にもいいとはいえないが明るくてクラスでも可愛いほうである。

「一ノ瀬さん、今日暇?」

「えっ、うん…まあ暇だけど…」

「遊びに行こう!」

?? なんで? 今までだって、何回話した?

「駅前の新しくできた輸入雑貨の店いかない?」

「行く!」

 そう、何を隠そう私は雑貨が大好物なのだ。輸入雑貨の店をひととおり回って隣のカフェで話そう、となった。しかし、なんで琥珀は私を誘ったのか。しかも二人きりで。琥珀はいつもクラスのリーダー格と一緒にいるのに。とりあえず案内された席に座り、私はキャラメルラテ、琥珀はカフェオレをたのんだ。ひとしきり他愛ない話をしたところで一ノ瀬さんにお願いがあるんだけど、と話はじめた。

「中学はいって、スマホ買ってもらったからネット始めたんだ。で、出会った人とうちは歌が好きで意気投合してメンバー集めて活動しよう、ってなったんだけど、集まらなくってさ。5人しかいないんだ。男3人、女2人なんだけど。そこで! 一ノ瀬さんにお願いしたんだ!」

 …? 急過ぎて何がしたいんだか解んない。とりあえず、メンバーになって欲しいってことだよね?まあ、楽しそうだけど。

「えっと、つまりメンバーになって欲しいってことだよね?ありがたいけど私声低いから、」

「だ、か、ら!」

 琥珀の目かキラキラしてる。や、ヤバイことなんかいったかな?

「だから誘ったの! うち、声たかいでしょ? 残りの男子も高いのと低いのだから、ちょうどいいかなって思ったの!」

 はい、確かに耳がキンキンするくらい高いっすね。ここまで言われたら返事はひとつだ。

「いいよ。私がはいってちょうどいいならはいるよ」

 声が低いのを売りにできるってことだし、みんなで何かするのって楽しそうだし。

「えっ、いいの? ありがとー! 一ノ瀬さん断ると思った!じゃあ、早速…」

「と、とりあえず帰ろ?」

 閉店間際で、店員がチラチラみてくるし、この調子じゃ何時終わるかわからない。キャラメルラテを飲み干し、不服そうな彼女にうちきていいから、とひきずりながら店を後にした。

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僕らの声。 紫雨 @shigure_SPTZ

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