第4話
飛んで帰って父に叱られ頭を下げる。
そして狼様が母を助けてくれるのだと必死に説明した。
すると父は難しい顔をする。
二人してとって喰われても可笑しくない。
これは仏様に見守って貰おうか。
早速母に伝えて、明日共に行こうと言った。
苦しそうな母は頷いて笑った。
大丈夫、仏様が見守ってくれているし、狼様が助けてくれる。
母から離れて床に寝転がった。
苦しい。
明日、狼様のところに行くんだ。
頑張らないと。
翌日、母を支えながら山に入った。
霧が濃くなる。
目の前に霧の狼が出てきてそこに座った。
「狼様は?何処なのだ?」
霧の狼が遠吠えをすると向こう、向こうから、そのまた向こうからも遠吠えが聞こえた。
立ち上がった霧の狼は導くように歩き出した。
なんとか辿り着いたのは開けたところで、近くを小さな川が流れている。
「よく来れたな。その体で。」
「狼様!」
その声に振り返ると、口を黒い布で隠した男が腕を組んで立っている。
けれど、声は確かに狼様だ。
「狼様…?もしや、人の姿に…?」
それに応えてはくれなかったが唸った。
その瞳は母を見つめている。
やはりその地を這うような唸り声…狼様に間違いない。
母は狼様を見上げる。
「山の薬草では完治せんな。遅延させるのには向くが。」
母の傍に膝を折り、そう呟いた。
「そんな…!助けてくれると、」
「誰も見捨てるとは言わん。」
懐から竹筒を取り出す。
そして霧を呼び寄せるように手を引くとそこに座っていた霧の狼が手元へと歩いていく。
「人が来たか…。」
「え?」
声も足音も聞こえない。
狼様にはわかるのかもしれない。
どうしよう…。
呼んでもないのに…。
「まったく…命知らずが。」
手元に来た霧の狼は遠吠えをする。
そして走り去っていった。
竹筒の詮を抜いて母にゆっくりと飲ませる。
「その水は…?」
「薬を溶かしたものだ。」
また詮をして母の手に握らせる。
そして此方を見据えた。
そ、そうだ…。
母を助ける代わりに…。
「次は、お前の番だ。」
歩み寄ってきて手を差し出される。
今更、死ぬのが怖くなった。
母が助かるのが嬉しいのに、まだ、死にたくない。
母にはこのことを伝えてないのだ。
「愚か者。震えてないでさっさと手をかせ。」
恐る恐る差し出す手に痺れた方の手を乗せるとぐいと引っ張られる。
包帯をほどかれ、目を細められた。
「え?」
目の前で行われているのはどう見ても治療だった。
開いた口が塞がらずただただ眺めていた。
治療が終わると手の痺れも少し収まっている。
「後でこれ飲んどけ。それと、竹筒の中身はもしもの時にとっておけ。いいな。」
手をすんなり放される。
殺されるものだとばかり思っていた。
いや、だって…。
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