第16話

 インディスはかつてはエゼルミアと同じようにエルフであった。


 エルフ族でも極めて粗暴であったものの、高い美貌があったため、同族のエルフからも人気があった女性だったのだ。


 ある日、彼女は狭い森の中にひっそりと暮らすエルフの里に嫌気がさして、里から飛び出して冒険者になった。


 アグレッシブな彼女はエルフ族としては珍しい戦士として冒険者になり、パーティの先陣をきったのだ。


 彼女は『善』の戒律の者であったためが、粗暴な気質でエルフでありながらもドワーフと並ぶ戦闘能力の高さを持っていたのだ。


 冒険者としての刺激に満ちた日々は何よりも彼女にとっては楽しかったのだ。


 しかし、そんなある日事件が起きた。


 アヴァンドラ正教に仕える聖騎士の一人が彼女に美貌に惹かれたのだ。


 その聖騎士は仕事やプライベートを完璧にこなし、多くの貴婦人からも人気があった人格者でもあった。


 彼はそれまで浮いた噂もなければ、何も落ち度がなかったのだ。


 それがある日、彼女を見た瞬間狂気に駆られたのだ。


 あのエルフを自分の物にしたいという衝動に駆られたのだ。


 しかし、冒険者であった彼女は地位や権力がしっかりしている彼には目向きもせず、むしろ色事を嫌う彼女にとっては目障りこの上なかったのだ。


 その態度が聖騎士の狂気に駆られたのだろうか。


 ある日のことだった。


 聖騎士は彼女を階級審査と偽って、人知れない場所に呼び出したのだ。


 そこで『善』であるはずの彼はあまりに彼女を欲するあまりに凶行に走ったのだ。


 聖騎士の凶行に当時のインディスは惨敗した。


 それ以来、彼女は『善』の冒険者を憎み続けた。


 彼女は謝罪として受け取った『盗賊の短刀』と呼ばれるマジックアイテムを使うと、戦闘面では最強と呼ばれる忍者に職業を変えた後、その戦闘能力の高さを買ったステルベンに『黒銀の鉾』のメンバーに入るように促された。


 それを聞いた彼女は最強の武器『手裏剣』と自身をダークエルフにすることを条件に入ったのだ。


 ダークエルフになった彼女は金色だったは銀に染まり、白かった肌は褐色のものとなったのだ。


 それ以降、彼女は『善』の冒険者を心より深く憎むようになったのだ。


「ほらほら、どうしたどうした!」


 流石と言うべきか、インディスは高い戦闘能力で5人を圧倒していた。


「・・・」


 ソウマはインディスの過去を知らない。


 なぜ、ここまでこちらに敵意を向けてくるのかわからなかった。


「さっさと私を倒さないと、先に進めないぜ!」


 インディスはヴォンダルの斧を薙ぎ払うと、そのまま彼の心臓を突き刺そうとした。


 しかし、ガキンっという音ともにアレックスに防がれてしまった。


「ちっ、なかなかやるな!」


 だが、所詮は5対1.


 流石のインディスでも疲弊が見えてきたのだ。


「インディスもう止めろ」


 ソウマがそう言うと、彼女は息切れしつつもこう答えた。


「ああ!やめてやるよ!そこの聖女様をぶっ殺した後にな!」


 そう言って、彼女がルビアに飛び掛かった瞬間だった。


「ホールド!」


 その呪文が利いたのだろうか。


 一瞬でインディスは捕らわれてしまった。


「しまった!」


 その瞬間、アレックスの剣が彼女を切り裂いた。


 かなりのダメージが入ったのだろう。


 彼女の体から血が噴き出した。


「く、くそ!ふざけやがって!」


「ふざけているのは貴女の方です。インディス」


 ルビアは聖女のような口調でインディスを諭した。


 インディスの傷は明らかに重症だった。


 放っておけば死ぬだろう。


「クソが!やっとなんだぞ!やっとアヴァンドラ正教の連中に一泡かかせられるチャンスなんだ!この聖女を消せば、奴らに一泡かかせられるんだ!畜生が!嫌だ、こんなところでまだ死にたくない!助けろ!おい、誰か私を助けろ!」


 インディスはぼろぼろになりつつも、獣のような鋭い目つきでしっかりとルビアを睨みつけていたものの、もう勝敗は明白だった。


「インディス…」


 ソウマが慌ててかけよろうとしたが、その前に拘束されている彼女前にルビアが立った。


「インディスさん」


 彼女の声は優しげであるが、同時に怒りも感じられたのだ。


「どうしてそこまで私が憎いのですか?」


「あ”あ”?」


 その言葉にインディスは獣のような目で彼女を見た。


 解き放った間違いなく彼女を殺すだろう。


 そう思っていた矢先だった。


「グレーター・アイス・トルネード」


 突然氷の大嵐が彼らに襲い掛かったのだ。


「何者だ!」


 その言葉に呼応するように二人の人物が姿を現した。


 その人物は双子の妖精の魔術師だった。


 彼らはひそひそ話をすると、一瞬の隙をついてインディスを回収したのだ。


「ああ、確か…ニーベルリングの小僧だったな。それと名前を覚える価値すらねぇゴミ共。うちの仲間が世話になったな…」


 彼は妖精たちが乱暴にインディスを受け取ると、すぐに近くにいた側近の僧侶の男に傷を癒させた。


「ステルベン…!?」


 ソウマがそう言うと、ステルベンは一瞬だけソウマを見たが、すぐにルビアに目線を移した。


「『黒銀の鉾』の首領ステルベン…!ここで会えるとは運が実によい…!」


 アレックスは剣を構えた。


「待て、アレックス!」


 ソウマが止めている間もなかった。


 アレックスが間合いに入った瞬間だった。


 一瞬のうちにステルベンが手にした斧で真っ二つに斬られたのだ。


「アレックス!」


 アレックスは何が起きた理解できなかった。


 だが、明らかなことがある。


 実力差は明白だと。


「ああ…蜥蜴…。このまま放っておいても死ぬが止めだ」


「止めて!」


 ルビアの悲痛な叫びが木霊した時だった。


 ヴォンダルがその合間に入ったのだ。


 ヴォンダルは胴を真っ二つにされると、そのままにやりと笑いながらこう言った。


「なぁ…アレックス…お前さん…相手が『悪』だからって…実力差を…わきまえたほ…うが…良い…ぞ」


 それだけ言うと、ヴォンダルの体はずるりと半分に赤い血を流しながら滑らかに崩れた。

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