第15話
真っ暗闇のダークゾーンを抜けると、開け切った場所に着いた。
そこは先程とは異なり、あんまり整備されておらず、松明の位置も疎らであり、壁には殺された魔物や人々の血糊で汚れていた。
地面や壁からは悪臭とも言える独特な匂いが充満しており、おそらくこの場所にはあまり冒険者が来ていないようであった。
現にこのあたりにいる冒険者は先程とは異なり、少なくなっていたのだ。
すぐそこのダークゾーンの存在に皆嫌煙しているだろう。
ダークゾーンは複雑な迷路のようになっており、光魔法ライトがなければすぐに迷うどころか、永遠の暗闇を彷徨うことになるからだろう。
幸いにもルビアがこの魔法を覚えていてくれたおかげで迷うことなく、ダークゾーンを抜けることができたのだ。
途中で白骨死体を目撃したトラブルがあったものの、おそらく先行した冒険者が全て解除済みであったためか、罠にも引っかからずに来れたのだ。
「こんな場所があったとはな…」
ようやく迷宮らしさをもったこの開けた場所に来たアレックスは驚きつつも、辺りを見渡した。
「ああ、この場所は極一部の冒険者しか来たことないからな。その割にはここにいる魔物はさっきと変わりない。オークにゴブリン、スケルトンとか言った弱い魔物しかいないからまだ安心できるな。さらに地下に潜れば、冒険者殺しと名高いキラーラビット【首切りウサギ】とかいるんだけどな」
「へぇー詳しいね」
「一応、行ったことあるからね。後、何かカピバラとかもいたな…あれも魔物なのか?」
そう言いながら、ソウマは先行しながら案内を続けた。
確かにこの辺りはまだ一層だけはあり、弱い魔物しかおらず、そこまで腐臭さえ我慢すればまだ大丈夫であろう。
途中でマッスルズゴーストと言う明らかに強そうな二人の筋肉男がいたが、彼らは他の冒険者と戦っていたため、ソウマたちは戦うことはなかった。
余談であるが、彼らは冒険者を鍛えるのが趣味で日々倒されることに快感を覚えるらしいのだ。
運よくこの場所を発見した駆け出しの冒険者は深層に潜るためにここで鍛えるのだ。
ソウマも冒険者に成りたての頃はここでレベル上げたものだった。
第一層に関して特筆すべき点はこれくらいだろう。
少し歩くと、地面の一か所が青いの渦になっている場所に来た。
ワープゾーンだ。
「これは?」
ルビアは不思議そうにソウマに尋ねた。
「ワープゾーン。ここから第四層まで行ける」
ソウマの言葉にヴォンダルは驚いた。
「何と!じゃあ、あそこにある階段は何なのだ!?」
「たぶん、迷宮の創始者が作った悪戯だろうな。さっきも言ったけど、あそこからじゃあ第四層までしかいけない。そこに待っているのは魔物とちょっとした財宝だけさ」
「なるほーど、じゃああれは罠だと言うわけね」
ルビアの言葉にソウマは頷いた。
「まぁ、そうだろう。よくて異世界から来たと言われる魔物カピバラが…」
「カピバラはもういい」
ルビアの残酷な一言でその会話は打ち切られた。
ソウマがしょげていた時だった。
3頭の魔物の新手が現れたのだ。
スケルトンだ。
だが、彼らに戦意はまったくなくソウマたちを見るや、敵意も関心も示さずどこかへ去ろうとし始めた。
俗にいう友好的な魔物である。
「一応、奇襲はかけられそうだけどどうする?」
ソウマは皆にそう聞くと、アレックスが答えた。
「然り。彼らは邪悪と言えども、我らに対する敵意はない。戦闘を避けるべきだろう」
これにはルビアもエゼルミアも同意見だった。
『善』の者は敵意ないものには攻撃をしないのだ。
「じゃあ、ワープゾーンに入るか」
ソウマがそう言った瞬間だった。
「ハハハハハッ!やはり、のこのこ来やがったか!このボンクラ共が!」
その言葉に皆が反応した。
昨日聞いた声だ。
その者は正体を現す前に先程のスケルトンを仕留めると、姿を現した。
銀色の髪を持った褐色の肌を持つダークエルフの忍者インディスだ。
「インディス!」
「昨日ぶりじゃねぇか、ニーベルリング。新しいパーティはどうだい?ん?最高か?」
インディスは豪快に笑いつつも、軽快な動作でワープゾーンの前に立ち塞がった。
「昨日のダークエルフね…道開けなさい!」
ルビアが強い口調でインディスにそう言った。
当然、インディスは退かなかった。
「はぁ?誰に命令しやがっているんだ?聖女様よぉ!?むしろ、消えんのはてめぇらの方だ!『善』の羽虫ども!」
「!!?」
その言葉に一斉に身構えた。
このダークエルフは明らかにこちらに敵意を向けているのだ。
「…インディスさん、冒険者同士の戦闘は禁じられているのをご損じかしら?」
同じエルフ族であるエゼルミアがそう厳しい表情で言うと、インディスはこう答えた。
「ハハハハハ!冒険者同士の戦闘は禁じられてますだって?とんだ世間知らず共だな!教えてやるよ、迷宮内でこう人にあんまり知られない場所つーのは殺しあって問題ねぇんだよ!何故なら、殺しても適当に魔物のせいにいいんだからよ!そうだろう?ニーベルリング?」
「!何したの、ニー君!!」
その言葉にソウマは無言のままだった。
インディスは調子に乗ったまま、こう続けた。
「5か月前に半人前だったてめぇがうちの親分と殺りあった時、衛兵はそれを咎めたか?咎めてねぇよな!?それと同じだ。私はな…こいつらみてぇな【神のご意志】とか奴で自分が正義とか思っている奴が嫌いなんだよ!だから、ここで殺す!」
「…随分と明確な敵意だな!どうして、そこまでするのだ!?答えよ、ダークエルフ!」
アレックスの言葉にインディスは少しの沈黙の後にこう答えた。
「単に気に入らねぇだけだよ、そこの聖女様が。ちょっとばっかし、力を得たばかりに小娘がイキりやがって!私たちは迷宮を攻略するのは私たちだ。なーにが世界のためにそこをどけだ!見ててむかつ」
「インディス」
そこでソウマが言葉を遮った。
「黙れ」
普段見せたことない低い声でそう言うと、インディスは少しの沈黙の後に笑いながらこう言った。
「ああそうかよ。じゃあ、てめぇも殺す。ちょっと前の情もいらねぇよ。てめぇら如き私一人で十分だ!そこに屍を晒しやがれ!羽虫ども!」
そう言うと、インディスは手裏剣を引き抜いた。
明らかに明確な殺意と敵意をこちらに向けていた。
彼女はその辺の魔物とは異なり、歴戦の冒険者なのだ。
彼らは3人がかりで彼女に挑んでほぼ互角の戦いをしたのだ。
「…!!戦闘開始!明らかに強敵だぞ、お主ら!」
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