その夢は異世界の迷宮に何を願う?
唖魔餅
プロローグ
それは決して忘れることができない一瞬の出来事だった。
自分にとってはそれは例え人の道を踏み外しても、生きていた頃の全ての記憶も感情を失っていたとしても決して忘れることができない程にその光景は強烈に頭に焼き付いていた。
それは一人の美しい少女だった。
所謂、「一目惚れ」と言う奴であろう。
その一瞬の出来事は自分にとっては一生の不覚であったであろうと思う。その女性は自分にとっては惚れてはいけない存在であった。
それにも関わらず、自分は一瞬にして、その女性の美貌に心を奪われてしまった。
自分がその少女に惚れてしまうのに一秒もかからなかっただろう。それは
まるで心臓の鼓動が「ドクン」となったと同時に時が止まったかのようなそんな感覚であった。
――ああ、なんて可愛いだろうか
迂闊にも私はそう思ってしまった。
非常に自分勝手な物言いながらも、一人の男に狂気を抱かせた罪なこの女はゆっくりと微笑みながら自分の方にその美しい顔を向いてきた。
――決して忘れるものか
自分はまるで頭をガツンと殴られるような感覚に襲われた。
それも自分でも恐ろしいほど、既に自分は少女を欲しっていたのだ。
自分はその獣の本能に必死に抗いながらも、必死にその美しい少女を見た。
胸が引き裂かれるような感覚に襲われながらも、どこか懐かしさを覚えるその甘くて脳がとろけるような声が自分を優しく呼び掛けた。
「――?」
一本の糸のような深紅の髪は陽の光で美しく輝いており、水晶体を思わせるような美しい青いつぶらな瞳に雪のような白い肌によく似合う白を基調とした赤い刺繍が入った年頃の少女らしいお洒落なローブは彼女によく似合っていた。
「――覚えている?」
これ以降のことは自分には記憶がない。
しかし、自分にとってはこの魂が何度転生したとしてもだ。
その時の光景は自分が例え何者になったとしてもだ。
それを私は決して忘れることができないだろう。
その一瞬の出来事…所謂単なる一目惚れは自分が何者になったとさえ、この「私」という魂には永遠刻まれて続けるだろう。
それは何も根拠もない。
だが、私はそう思う。
しかし、どうしてここまでの感情を抱くことになったのかはわからない。
正直、不思議に思う。
けれど、祈らずにはいられなかった。
この少女の幸福を。
私はこの少女の幸福のためであれば、命さえも投げ出すことも厭わないだろう
もし、自分が生命非ざる者に落ちたとしても、私はこの少女を決して憎まないし、恨むことをしないことを勝手に誓った。
その逆も然り。
もし、この少女が人の道を踏み外しても、私はこの少女ために畜生道を歩んでも良いだろう。
ああ、神よ。
もしいるのであれば、どうかこの少女に恒久の幸福を与えてください。
そのためならば、私はどんなことでもするであろう。
自分はその時自分勝手に心の中でそうつぶやいたことをよく覚えていた。
私が一人の女性に「恋」をしたこの瞬間だけを魂に刻めるように祈った。
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