第四十語話 スピナーベイト探索
お腹いっぱいになったカディは『歩きたくない』と一言呟き、子狐に変化して僕の頭で寝息をたて始めた。こうはなりたくないなと思ったが、元々モンスターなのだから参考にならなかった。逆にモンスターだけど妙に人懐っこいし、急に暴れたりするような凶暴さはないから感心するべきか。
そんな事を考えながら3番街へと戻ってきた。姉さんは後をつけられてないかずっと警戒していたが、何事もなかったようだ。
家に帰ってからはさっさと寝てしまい、気付けば朝だった。ある程度は回復していたが、結構疲れていたみたいだ。
「スピナーベイト行く?」
「行きたくないけれど、行く」
あの階段を思うと憂鬱で仕方ないが、ニルンパレスの事も調べたいし、ユニークウェポンの有無は確認しておきたい。
そうそう。僕達はニルンパレス関連の品を《ユニークウェポン》と呼ぶことにした。もしかしたらただのアイテムで特殊な力はないかもしれないが、一括りにまとめた方が分かりやすい。
スピナーベイトにも多分、あるだろう。もしあったなら、ほぼ全てのダンジョンにユニークウェポンが存在していると考えていいと僕は思っている。
ギルドで手早く手続きを済ませた僕達は、少し急ぎ気味に大通りを歩く。
「今日は私が抱きかかえて登ろうよ。怖くなったら階段に降りればいいし」
「そうだね……うん、そうしよう」
垂直に上るのを頭の中で想像しながら、これなら大丈夫そうだと判断する。危なくなったら手摺を掴んで階段にしがみつこう。
昨夜は食べ過ぎでぐったりしていたカディも、翌日には復活したようで自分の足で3番街の石畳を歩いている。頭の後ろで手を組んで、気分良さそうに笑みを浮かべながら。
「リューシリューシ、今日も終わったらあの食堂に行こう?」
「え、やだ。カディが居たらどれだけお金があっても足りないよ」
「ケチ」
「ケチで結構」
思い返せば結構な金額だっただろう。何の文句も言わず、お礼だなんて言って支払ってくれたアストンさん達には必ずお返しをしなければならない。何か良いウェポンが出たら譲ろう。
3番街を抜け、4番街に入る。何処となく違う空気を感じながら、路地を進み、住宅街の中心に出来た小さな広場へとやってきた。
「おぅ、白いの。足はちゃんとついてるみたいだな」
「おはようございます。もう少しで取れそうでした」
「はは、なら新しい足を注文しておくんだな」
そんな軽い冗談を挟みながらの挨拶。僕も中々、人との交流が上手くなったものだ。扉を開けてくれた門番さんに会釈をし、横を通り抜ける。扉の先はすぐにあの螺旋階段だ。昨夜は二度と見たくないと思っていたが、目的達成の為にはこれを下りるしかなかった。
□ □ □ □
「下りるのは楽なんだよな……」
僕の後ろでカディがぼやく。まぁ脚を上げるという行為が疲れるのだから、下りるのは確かに楽だ。
「でも転んだら下まで止まらないよ」
「……それは嫌だなぁ」
「お互い、気を付けようね」
自分で言っておきながらグルグル転がりながら螺旋階段を落ちる様を想像してぶるりと震える。無駄口は止めて、足元に集中することにした。
視界の端でスピナーベイトの天井の切れ目が見えた。ダンジョン内に入ったようだ。であればあと少しで地上である。地上は落ちることがないので素晴らしいと思う。
「ふぅ……」
数分後、無事に地に足を付けた僕はそっと胸を撫で下ろした。
「無事に到着したな。満足した。さぁ帰ろう」
「馬鹿言ってないで、探索するよ」
回れ右をするカディの服を掴んで引っ張る。下りただけで満足だなんて、そんな訳あるか。帰るなら少し休憩してからにしよう。
そう言いたいのをグッと堪え、昨日進んだ方向とは違う方へ歩き出した。
□ □ □ □
岩トカゲの相手は特に苦戦することもなくなった。あの分厚い肌も、魔法の前には手も足も出ない。僕達3人は皆、闇魔法が得意というとんでもない偏りだが、この岩トカゲに関しては正解だった。
逆に困ったのはコウモリだ。奴等は目に見えない超音波で僕達の位置を把握し、音の出ない翼で死角である上空から毒の爪と牙で襲ってくる。上から来るからと上ばかり見て歩いている訳にもいかないから困ったものである。
今現在はカディに頼りっぱなしである。
「上から来るぞ、気を付けろ!」
カディの声に、またかと半ばうんざりしながらパイド・パイパーを振るう。散弾状となった黒炎がコウモリ達を撃ち抜く。的が大きいだけにこの方法が一番安定することに気付いた。
羽根が薄いからか一瞬で燃え上がり、魔石となって落ちてくる。中には燃えながら落ちてくる者も居るが、そういうのは姉さんがササッと爪を切り落としてバッグに仕舞っていた。
「うふふふ……」
その様子は不審者そのものだったが、毒もまた薬になるので、貴重な材料だった。
「岩トカゲの鱗は素材にならないのか?」
「うーん……土系の付属効果は見込めるかも」
鱗だったのか……言われてみればそうかも。
「ハンマー系のウェポンに付属させれば面白いかも」
「振り下ろす瞬間とかなら威力倍増だね!」
僕には振り上げるのも難しいが、筋力のある人ならきっと上手く使いこなしてくれるだろう。そんな事を考え、自分が筋肉多めの人間になったのを想像してみる。
……うーん、今のままで良いかな。
「あ、宝箱」
「ほんと? どこ?」
「あっち。他の探宮者は……居ないみたいだな」
くだらない事を考えていると、カディが宝箱を見つけたようで、姉さんがその場所まで飛んでいった。先に見つけて所有権を主張してしまえばこっちの物だ。
こういう時、空を飛べる姉さんが真っ先に飛んでいくのが最近は常套手段となっている。そして悠々と僕とカディがやってくるのである。僕とカディというのが大事で、僕だけだと『なんだガキか』と侮られるが、カディが居ることで威圧感が出てくる。
まぁ今回は他の人が居ないということで、意味はなかったが。
「今日は私が開けていいか?」
「うん、いいよ」
どうぞと手で促すと、嬉しそうに笑みを浮かべたカディが蓋を開ける。そのまま中を覗き込み、手を突っ込んだ。
「んー?」
「何が入ってたの?」
「これ」
カディが宝箱から取り出したのは小さな2つの耳飾りだ。
「姉さん」
「ちょーっと待ってね……ふむふむ……えっと、それはウェポンだね。『雷雲の耳飾り』だって。中位までの雷魔法が使えて、雷属性の耐性も出来るみたいだよ」
「それは……結構凄い?」
「うん、割と」
中位魔法と言えばある程度の評価を得られる。カディはあまりピンと来てないようだが、結構な掘り出し物だ。魔法が使えるようになるだけでなく、耐性まで得られるのは凄い。
「こんな良い物が無造作に置かれてるなんてね……」
「うん……ダンジョンって凄いね」
これを売却すれば暫くは生活に困ることはなさそうだ。今日の成果としては上々ではないだろうか。
「そろそろ戻ろうよ」
「そうだねー。魔石も素材も十分手に入ったし、良いウェポンも見つけたし!」
「モンスターともいっぱい戦えて楽しかったしな」
その楽しみ方をするのはカディくらいだとは思うが、満足出来たのであれば、それに越したことはない。
僕達はホクホク顔で螺旋階段へと戻るのだった。
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