第十四話 嬉しい再会

 翌日、昨日と同じようにギルドにやってくると、もう会えないかと思っていた顔に出会えた。それは今日も長いヴィオラさんの列に並んだ時である。


「今日も長いね」

「バラガさんの方に並べばいいのに」

「でも『また明日来ます』って言っちゃったし……」


 なんて会話をしていたら前の二人が振り返る。その二人はアストンさんとエルンさんだった。


「おっ、聞き覚えのある声だと思ったらリューシにオルハじゃねぇか!」

「アストンさん、エルンさんも」

「ん……久しぶり」

「そんなに時間経ってないけれどね」


 姉さんがエルンさんにハグをしているのをアストンさんと見ながらまずは謝罪する。


「すみません、腹骨街では何も言わずに」

「見えてた……っつーか、聞こえてたから大体の事情は分かってるよ。気にすんな」


 列の先の事情・・を親指で指して口角を歪めるアストンさんに乾いた笑いで返す。


「まさかああなるとは思いませんでした」

「何だかんだ言って、俺達はブラックバスを舐めてたってことなのかもな」

「知ってると分かってるは違うと言われました。そういうことなんだと思います」

「なるほど、そりゃ言い得て妙だな」


 列が動いたので少し前に進む。


「アストンさん達も3番街に?」

「あぁ。2番街でも良かったんだが、初心者用のダンジョンは3から5番街にしかないっていうんでな。実際に町の様子を見てみても大して変わりはなかったし、まぁいいかなって」

「なるほど」


 金貨100枚を用意出来るだけの財力がある、と。なかなかやり手のようだ。


「でもまぁ、そのお陰でリューシ達に会えたんだ。ラッキーだったぜ」

「僕も同じ気持ちです」

「嬉しいこと言うねぇ!」


 ガシッと肩を組まれ、されるがままに揺らされる。こうした人との触れ合いは初めてなので対応力に乏しい僕はただただ、揺らされた。


 そうしている間にアストンさん達の番になったので、会話は中断大人しく並ぶ。並んでいると姉さんが耳打ちしてくる。


「エルンちゃんもリューシに会えて嬉しいって言ってたよ」

「僕も嬉しいですよ」

「……っ」


 聞こえていたらしく、振り返ったエルンさんが姉さんの肩を叩いた。


「おいあんまり騒ぐと怒られるぞ」

「あたしはそんなにすぐ怒らねーよ」

「……怒られた」

「怒ってねぇって言ってんだろ! リューシ、邪魔すんな!」

「えっ、すみません……」


 何で僕が謝らなければいけないんだろう……。


 その後もヴィオラさんが怒ったり怒らなかったりしながら手続きは進み、アストンさん達は僕達とは別の初心者用ダンジョンへと行った。


「おら、早くしろ」

「あ、はい」


 不機嫌が継続しているようだ。それ程離れてはいないが、パフォーマンスで小走りで駆け寄る。


「今日もクランクベイトでいいんだな」

「はい。よろしくお願いします」

「おう」


 尋ねてるようで尋ねてない会話だが、慣れた。いや、麻痺した。手早く済ませ、とっととヴィオラさんの前から撤退する。それだけを考えて名前と行先を記入し、立て掛けていたパイド・パイパーを掴み、会釈してカウンターを離れた。


「またね、ヴィオラちゃん」

「うるせぇ!」


 最善を尽くしても姉さんがヴィオラさんの神経を逆撫でし、早速僕は帰ってきた時の事を考えて頭を抱えた。



  □   □   □   □



 少し早足気味になってしまうのは前回、何だかんだ言ってウェポンを取り損ねたのを気にしているからだろう。


「そんなに急いだら転ぶよ」

「急いでないよ、姉さん」

「いや、どう見ても早足だよ」


 意識して歩速を緩めるが、体が前に前にと傾いていく。それに釣られてまた歩く速度が上がっていく。


「もう、リューシ」

「ごめん姉さん、これはもう仕方ないんだ」


 きっと悔しかったんだろう。初めて、純粋に汚い感情でない悔しさを感じてしまったんだ。あのウェポンを手に入れたかった。宝箱を一番に開けたかったのだ。


「これが男の子……」

「そういうことみたいだね」

「仕方ないね、こればっかりは。よし、急ごっか」


 飛べる姉さんは気持ち次第で速度が上がる。僕も気持ち次第ではあるが体力という大きな代償があるので、姉さんを見失わないよう、覚えたばかりの道を走った。



  □   □   □   □



 昨日見たばかりではあるがまだまだ新鮮味のあるダンジョンを進む。


「今日は姉さんが斥候ね」

「ふふん、昨日思い付いた私にしか出来ない斥候の仕方、披露してあげるよ」


 そう言うと姉さんはふわりと浮き上がり、天井スレスレの位置で曲がり角を覗き込む。なるほど、普通に地面に立って覗き込めば同じくらいの背丈のモンスターの不意打ちを食らう危険性があるが、ああして天井付近から見下ろすのであれば奇襲の危険はない。


 モンスター達は奇襲するのに必死で上なんて見ないだろうし、これは早くも正解を見つけてしまったかもしれない。


「大丈夫だよ」

「うん」


 安全に曲がり角を曲がった僕は其処でとあるものを見つけた。


「彼処に部屋があるみたい」

「あっ、本当だね。宝箱、あるかな?」


 昨日は残念ながら先を越されたが、今日はどうだろう。人の気配は全くしない。


 逸る気持ちを抑え、そっと覗き込む。広い部屋のようだ。モンスターも人間も居ない。あるのは、宝箱だけだった。


「やった……まだ開いてないよ、姉さん」

「お姉ちゃんが見張っててあげるから、開けといで」

「うん、ありがとう」


 なかなか無いくらいには興奮している自分が居る。宝箱に近寄り、ペタペタと触ってみるが、特に何かあるようには感じられない。開けたら罠だったとか、そういう危険性はあるかもしれないが、それは開けてみないと分からない。


「……よし」


 意を決して蓋に手を掛ける。そしてグッと力を入れて持ち上げた。


「わぁっ……!」


 中に入っていたのは、剣の形をしたウェポンだった。過度な装飾の無い機能性だけを追求したウェポンだ。刃は鞘の形状から片刃で反りはない。柄の部分にはナックルガードがある。完全に近接専用のウェポンだ。


「どうだった?」

「剣だよ姉さん、ほら」

「わぁ、格好良いね」

「でも僕には使えないみたいだ」


 あまりにも重かった。これを振り回して戦えなんて僕には無理だろう。憧れはあるが。


 鞘から抜いてみると、やはり刃は片刃だった。材質は何だろう?


「普通の鉄製だね。銘は『アイアンソード』。ウェポンとしての特性は……錆びにくい。普通よりは長持ちするみたい」

「そういえば姉さんは《鑑定》が使えるんだったね」

「錬金術師だからね。鑑定のウェポンは必須よ」


 姉さんは姉さんの遺体からウェポンを回収し、身に付けている。リッチーというアンデッドはスケルトンやゾンビのように、実体のあるアンデッドだ。だから服やウェポンを身に着けられる。


「姉さんが居てくれて助かるよ」

「ふふん、お姉ちゃんに任せなさいな」


 回収したウェポンを背負っているリュックに引っ掛け、立ち上がる。っとと、やっぱり重いな……バランスを取るのが難しい。


「今日はもう帰る?」

「そうだね。重いし……」

「これからは荷物になっても大丈夫なようにしないとね」


 大きな課題だ。これからウェポンを手に入れる機会も増えてくるだろう。こうして剣一本で音を上げていては何時まで経っても上にはいけない。つまりそれはより深度の深いダンジョンに潜れないということだ。姉さんを完全蘇生なんて夢のまた夢となってしまう。


 早急に解決しなければいけない問題だった。

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