第八話 探宮者組合 -パスファインダーギルド-
漸く僕達の番になった。遠目で見ていた限りではそれ程厳しい審査があるようには見えなかったが。
「はい次」
「よろしくお願いします」
アストンさん達が通され、門番の前に立つ。姉さんも珍しく地上に降りてしっかりと2本の足で立った。
「屍術師のリューシといいます。此方は使役してるリッチーのオルハです」
「よろしくお願いいたします」
会釈する僕の隣で姉さんが形式張った優雅な礼をする。様になってるのが何故か悔しかった。
「ふむ……よく使役されているな。蛮行を働いた場合、浄化され、主人であるお前も罰を受けることになる。しっかりな」
「はい」
「では通って良し。ダンジョンに潜るのであればまずは《
「助かります。ありがとうございました」
うん、親切な門番だ。無事に通れたことで僕もブラックバスへと入ることが出来た。
門番の横を通り、大きな門をくぐる。
「大きいね……」
「うん……」
二人して上を見ながら歩いていると、ますます田舎者に見えるが、此処に居る人間なんて殆どが田舎者だ。最初くらい大目に見てほしい。
「おーい、田舎者!」
「む……」
早速田舎者呼ばわりだ。と、顔を下ろすとニヤニヤと笑うアストンさん達が居た。
「あれ、先に行ったのでは?」
「どうせ行先は同じだろ。一緒に行こうぜ。……って、エルンがな」
「ちょっと……」
アストンさんを肘で小突くエルンさん。ちょっと顔が赤いのは照れているのだろう。言葉数は少ないが、表情豊かなので面白い。
「むむ……お姉ちゃんセンサーに反応が……」
「意味不明だよ。ほら、行こう」
大きく手を振るアストンさんと、小さく手招きするエルンさんの元に小走りで向かう。
初めてのブラックバスだが、どうやら幸先は良いらしい。
□ □ □ □
《
「ブラックバスってのは北と南ではっきりと分かれてる。この腹骨街のある『ノースフィッシュボーン』と、南側……あの壁が見えるか? あの壁の向こう、『サウスフィッシュボーン』とは生活レベルがまったく違うんだ」
アストンさんが指差した南側には黒い大きな壁がある。あれが北と南を分ける、文字通り『壁』だ。あれがこの町のカーストの象徴であり、ブラックバスが野蛮と言われる証拠だ。
「俺達みたいな初心者の探宮者はサウスフィッシュボーンから始まる。其処から這い上がれた者だけが、ノースフィッシュボーンへ進めるのさ」
「へぇ……」
流石、外の人間は詳しい。僕とは違って前以て情報を仕入れていたのだろう。まぁ、僕達は情報の仕入れ先がなかったからどうしようもなかったのだが。
「家はギルドが用意してくれるんですか?」
「あぁ、相応の金を用意すればな」
それなら安心だ。お金は姉さんが錬金術師として稼いだお金がある。これは姉さんと相談して使うことを決めたお金だから、こういうことに使っても怒られはしないだろう。
そうこう話してる間に腹骨街へとやってきた。なるほど、魚の腹骨……肋骨が天井のように町を覆っている。その骨の天井の下、一番大きな建物に掲げられた看板には『
両開きのドアを開き、4人でゾロゾロと中へ入ると視線が突き刺さる。4人で並んでいるが、刺さる視線の4割は僕だ。残りの4割は姉さん。更に残りの2割はエルンさんだった。
「視線を感じる……」
「僕達は珍しい見た目だから、しょうがないよ」
「ハハッ、そうか?」
アストンさんは笑うが、見られてないからだ。僕と姉さんとエルンさんは居心地が悪い。
視線を無視し、建物の奥に並べられたカウンターの前に立つ。アストンさんとエルンさんはパーティーを組んでいるので、別のカウンターへと行った。僕と姉さん、初めてのブラックバス二人きりである。僕はギュッとウェポンを握り締め、上ずりそうな声を制御して受付の女性に声を掛けた。
「すみません、探宮者になりたいのですが」
「……」
「……」
聞こえなかったのか、ボーっと真っ赤な爪を弄っている。
「あの、」
「っせーな、聞こえてるよ……其処の書類に名前と職業書いて寄越せよ」
「……あっ、はい」
あまりの態度に一瞬、声が出なかった。なるほど、これがブラックバスか。
僕は指差された『其処の書類』に名前と職業を書いて女性に差し出す。
「よろしくお願いします」
「……」
無言で引っ手繰られた。
「態度悪いね……」
「聞こえるよ」
「聞こえてるっつーの」
「わっ……」
姉さんは僕の耳元で囁いたのに女性にはしっかり聞こえていたみただ。なら最初に声を掛けた時に返事してほしい。
「一々な、相手すんの面倒くせーんだよ。分かるか?」
「すみません……」
「チッ……あんだよ。あたしが悪者みてーだろうがよぉ? ぇえ?」
どう考えても僕達に落ち度はないのだが、仕事というのは大変なのかもしれない。僕はまだちゃんと働いたことがないから分からないが、分からない部分で大変なのかもしれない。
「すみませんでした。いつもお疲れ様です」
「……チッ」
舌打ち一つ、もう何も反応しなくなってしまった。聞こえてはいるだろうけれど、これ以上作業の邪魔をするのは良くないだろう。
暫く立ち尽くしながら作業を見守る。口と態度は過去最悪だが、妙に手際が良いのは仕事慣れしてるからだろう。まるで錬金作業中の姉さんのようだ。何が何処に当て嵌まるか、次に何をするべきか、そんな工程が頭の中に完全に染み付いている動きだ。なるほど、これは所謂職人技というやつだ。
「……いつまでも見てんじゃねーよクソが……」
「……」
下を向いて書類に書き込んでるのに文句を言われた。見えてないはずなのに。気配か? 気配なのか?
「あっち行ってようよ……」
「でもほら、見てる限りでは書き込む部分はあと少しだよ」
「でもさ……」
「今離れたらまた怒られるかもしれないよ。呼ぶ手間増やすなって」
「うわ、ありそうー……」
「だからほら、大人しく待ってよう。でも見続けたら駄目だよ。さっきみたいに怒られるから」
「うん……チラッと見よう。チラッと」
「あぁぁぁぁもぉぉぉうぅぅぅるっっっせぇぇぇぇなぁぁぁぁぁあああ!!!!」
聞いたことないような大声に驚いてウェポンを手放してしまった。カランカランと音が鳴るが、それ以上に受付さんの声が大きかった。しかもその大声でギルド内の人達の視線がこれでもかというくらいに集まり、刺さった。
「黙って待てねぇのかよ!?」
「す、すみません……」
「其処のアンデッド! てめぇも死んでんのにべらべら喋りやがって!」
「ご、ごめんなさい……」
「クソが!!!」
バン! とカウンターの机が叩かれる。その手はすぐに引っ込む。そしてその手の下には小さなプレートがあった。緑色だが、光に反射している様子を見ると金属のようだ。表面には僕の名前が刻まれている。
「それ持ってとっとと失せろ!!!」
「えっ、あの、家……」
「っるせぇ!!!」
住む家がないので見繕いたいのだが、何を言っても聞いてくれない雰囲気だ。どうしよう。失せたくても失せられない。失せる先がない。
と、困っていると受付さんの背後に大きな女性……男性? 恐らく……女……男性、が現れ、ギュッと拳を握った。
「あっ……」
「後ろ……」
「ぁあ!?」
「フンッッッ!!」
「あ゛ぁ゛っ!?」
握られた拳は振り上げられ、受付さんの頭に振り下ろされた。
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