扉の中の悪夢
扉を開けた先には同じような構造の部屋があった。
部屋の中央のテーブルには黄色いテーブルクロス、お皿、蟇蛙の死体。
前の部屋との違いはテーブルが3つあることと、お皿の上には蟇蛙の死体以外のものが載っていたことだった。
左のテーブルには豚の生首が置かれていて、右のテーブルには人間の親指が10本置かれていた。お皿の上には生々しく血が飛び散っている。テーブルの向こうには扉がある。たぶんその扉を開ければこの夢から覚めるために通らなければならない”左曲がりの廊下”があるのだろう。
扉には真っ赤な血文字で「鍵は食卓にある」と書かれている。扉には鍵がかかっていて、どうやらこの部屋で鍵を見つけなければ、夢からは覚められないらしかった。(ずいぶん現実味のある夢で非常に困るわ。)
「鍵は食卓にあるといっても、鍵らしきものが載せられている形跡は無かったし、一体どうしろっていうのかしら。ねえ”ハコくん”?」
私は脈打つそのハコに話しかけてみた。
「・・・”ハコくん”って誰だよクソ女。」
「あなたよ。で、鍵はどこにあるのかしら?」
「ヒントはあったんだろう?食卓にあるんだから、食卓ですべきことは一つだけだよ。」
まさか・・・。
「ああ。ブタのようにそれを食えってことさ。」
酷い悪夢ね。まさか夢の中とは言え、こんなゲテモノの中に鍵が?人間の指に蟇蛙の死体に、豚の生首・・・想像しただけでも吐き気が・・・。
「まあ、でもこれは夢の中よね・・・もしかしたら、感触はないかもしれないし・・・それによく考えてみると、こんなことは夢の中でしかできないことよね。」
私はまず、次に私は右のテーブルについた。蟇蛙と豚・・・どちらにしようかほんの少し迷ったけれど、豚のほうが気分的にはまだマシだった。(もちろん夢の中でもなければ、カエルもブタも生肉は願い下げだわ)
豚の生首は死んだ目で私を見つめてくる。私は生肉に齧り付く。不思議と不快な気持ちはしない。それどころか、血なまぐさい匂い、生肉の弾力のある感触、すべてが美味に感じる。それは夢の中だからだろうか?それとも私にはもともとそういう変態性でも備わっていたからだろうか。
どれだけ食べても満腹感は無かった。ブタの生首を骨まで平らげて、ただ一つ残念なことは鍵がなかったことだけだった。
次に私は中央のテーブルについた。口についた血をぬぐって、蟇蛙の前に座る。蟇蛙には先ほどの部屋同様、蛆が集っていて、腐敗しているのが明らかだった。・・・だけどわたしにはなんとなく予感があった。この夢の中ではもしかしたら、どんなに不快な”食材”だろうと、快感に変えてくれるのではないだろうか、と。
腐った蟇蛙は齧り付くと、温かい汁が飛び散った。腐敗したことによって熱でも帯びているのだろうか。しかし私の予感は的中した。すさまじい(はずの)腐敗臭も、蟇蛙の体内で踊り狂う蛆も、すべてが美味に感じる。どんな食べ物よりもおいしく感じるなんて・・・。ただ一つ残念なことは鍵がなかったことだけだった。
「私は美食家ではないけれど、これほどの食べ物など無いのでは・・・と思わせる味だわ。」
私は独り言をつぶやきながら、鍵がなかったことに少し感謝すらしていた。夢の中でも、こんなにも幸福感を感じることができるだなんて。私はいそいそと左のテーブルに着いた。人間を食べる禁忌。夢の中でしか味わえない。指をつまんで、口に入れてみる。血なまぐさい匂いと、骨の感触・・・人間の指なんて食べたことないけれど、不思議な納得感があった。そうこれが人間の指。私は一つ・・・また一つと指を口に運んで行った。これがもし親しい人間の指だったら・・・そう思うと私は形容しがたい興奮を覚えているみたいだった。
最後の一つには骨ではないものの感触があった。口から出すと、それは鈍色の鍵だった。私は鍵を開けて廊下に出た。
「もう少し食べたかったな・・・。」
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