第十九話 王族からの告白(3回目)
……今、なんて言った?
目の前に座るこの異国の皇子は私にとんでもない事を言ったよ。
好きっていうのは好ましいとか気になっているって意味で、LIKEなのかLOVEなのかで大きな違いがある。
こんな場所に呼ばれて、モルジャーナさんもいるけど、その中で好き?
家族になろうよって言って、シンドリアンに嫁に来ないかって?
「なんの冗談よ」
「冗談なんかじゃないよ。オレっちはシルヴィアちゃんが欲しい」
即答だった。
これはもう認めるしかないわね。
どういうわけだか知らないけど、この人は、シンドバット・シンドリアンは私の事が好きなんだって〜。
ーーーどうしてこうなった!?
「えっと、どうして私なんか……」
「私なんかって卑下しないでよ。シルヴィアちゃんってば超強いし、頭良いし、それなのにちょっと抜けてたり食いしん坊だったり良い所いっぱいあるじゃん?」
すっごい褒められてる。
お師匠様なんて私を一度貶してから持ち上げるのに最初からよいしょしてくれてる。
というか、王子様系に好かれ過ぎじゃないの私!?
去年はエースとジャック。今年はシンドバットって。
みんな分かってるの?私は、シルヴィア・クローバーは主人公であるアリアと攻略対象の仲を邪魔する悪役令嬢なのよ?
それなのにどいつもこいつも……。
「はははっ。シルヴィアちゃん照れてるね」
「当たり前でしょ!?告白なんかに慣れてる人の気が知れないわ!」
愛の告白って、簡単そうに見えて実はとても難しい。
誰しもがその一歩を踏み出せる訳じゃない。
私だってお師匠様へ告白しようと決めた時は怖かった。それにエースとジャック、ずっと友達だと思っていた二人をフラなきゃいけないのも怖かったの。
前世ではゲームやドラマの中でしか知らなかった恋愛がこんなに大変だなんてね。
だから、私の答えは決まっている。
「シンドバット。残念だけど、私には婚約者がいるの」
「知ってるよ〜。マーリン先生でしょ?」
「知ってたの!?」
とりわけ大きく公表はしていないし、二人の愛のしるしである指輪も普段は見えないように首にぶら下げている。
「いやね。普段からのシルヴィアちゃんのマーリン先生への熱い視線とか、シルヴィアちゃんに近づこうとした男への態度とかで丸わかりっしょ」
隠せていなかったというの!?
あれ、でもそれなら、
「私とお師匠様の関係を知った上で告白?」
「そうそう。婚約者ってだけでまだ籍は入れてないっしょ?」
それはそうだ。
でも、私が学園を卒業してお師匠様も落ち着いたら正式に結婚する流れで婚約をしている。
「マーリン先生だって心変わりがあるかもしれない。シルヴィアちゃんもそうかもしれない」
「残念だけどそれはないわ」
私とお師匠様の関係はその時の気分で変わるようなものじゃない。
私はお師匠様の過去や生い立ちを全て知っているし、彼も唯一私が転生者である事を知っている。
もうお師匠様と私は運命共同体なんだから。
「……そっか。シンドリアンって一夫多妻制だから正室じゃなくても第二夫人や第三夫人なんてのもあるけどどう?マーリン先生が一緒でも構わないけど」
「もっとお断りしたくなったわよ。私は一夫多妻とか愛人とか嫌いだからね」
どう考えても揉め事の原因になるし、子供が生まれたら可哀想。
再婚はオッケーだとは思うけど同時に複数人の人を愛するのは私のタイプじゃない。
私は、私だけを見ていてほしいから。
「ダメかぁ……どうしてもシルヴィアちゃんが欲しいんだけどね」
「気持ちはありがたいし嬉しいわ。でも、こればっかりは応えられない。私はマーリンが好きなの」
例え誰になんと言われようと。
それが理由でこの学園に居られなくでもなったら、その時は駆け落ちだってしてやる覚悟。
私の思いが伝わったのか、シンドバットは肩を落として項垂れた。
「フラれちゃったよ〜。ナンパ成功率は100%だって自信あったのに」
「だから言ったでしょうシン様。この女はどう頑張っても無理だと」
主人の傷心に壁として気配を消していたモルジャーナさんも口を開く。
少しだけ彼女が嬉しそうな顔をしているように見えた……気のせいかな?
「ちぇっ。本気だったんだけどなオレっち」
「本気なのは雰囲気で分かったわよ。前に同じような事を言ってくれた人達がいたから」
彼らの告白があって考えたからこそ私は自分の気持ちに気づけた。
初めて誰かに私が奪われるかもしれないと思ったからこそお師匠様は焦った。
思えばあの修羅場がきっかけだったわね。
「シルヴィアちゃんってばモテモテじゃん」
「そうみたいね。私が一番驚いてるわ」
こんな悪役顔で大した美人じゃないのにどこが好きなのかしらね?
見た目だけならアリアやエリスさんの方がおすすめだし、中身ならソフィアが一番いい子よ。
「そうだ。私からも話があるのよ」
シンドバットの話が衝撃的だったおかげで頭の中から抜け落ちかけていた事を思い出した。
「んー、なに?今ならなんでも答えちゃうよ」
投げやりな態度のシンドバットに対して私は質問をした。
「シンドリアン皇国とJOKERが通じていたって話になっているんだけど、本当なの?」
遠回しな言い方も思いつかなかったので私は直球な言葉で聞いた。
それに対してシンドバットは実にあっさりと、
「JOKERって誰?」
そう言った。
「JOKERっていうのは去年この魔法学園を襲った犯罪者でトムリドルって名前の奴なの。その手下が逃げる予定だった場所がシンドリアンって調べがついているのよ」
これはエースやジャックも知っている事実。
諜報を受け持つカリスハート家が掴んでいる情報なのだ。
「そんな名前の人知らねーけど、モルジャーナは何か知ってるか?」
「トムリドルなる人物は知りませんが、JOKERというのは古い物語に出てくる悪の魔法使いですよ。水神様のお話にあったじゃないですか」
「あー、アレね。お伽話だと思ってたぜ」
モルジャーナさんとシンドバットが会話する。
だけど、話を聞く限りだと二人ともトムリドルの事を知らないし、JOKERとして起こした事件も知らないの?
「もしかしてオレっち達が魔法学園に来てから王子達やクラブから疑いの目で見られてたのってそれが理由だったりする?」
シンドバットの反応は本物みたいだし、これで演技だったら主演男優賞をプレゼントしたいくらいだ。
「私達はシンドバット達がその後始末か、何かこの国とってよからぬ事を計画してるんじゃないかって心配していたのよ」
杞憂だったのかしらね。
普通に魔法の修行と花嫁探しで留学だなんて、ある意味シンドバットにお似合いの理由だったかもしれないわ。
タイミングが悪かっただけみたいね。
「あー、あー、えっとね……」
「シン様。それは言ってはなりません」
「ゆーてさ、シルヴィアちゃんなら大丈夫っしょ。むしろ助けてもらわないと」
これにて一件落着ね。
そう私が決めつけようとしていると、シンドバットの歯切れが悪くなり、モルジャーナさんが慌て出した。
ん?どうかした?
「実はさシルヴィアちゃん。よからぬ計画については当たってんだよね。つーか、それが一番の目的でココに来てる」
「……はい?」
今日何度目かの耳を疑う言葉が飛び出した。
「何が目的か見てもらった方が手っ取り早いから、今からちょっとついて来てくれねぇ?夜中だから時間もちょうど良いし」
片手で頭の後ろをポリポリと掻くシンドバットの姿は、まるで悪戯を親に見つかってしまった子供のようだった。
そして私は後悔する。
面倒事に巻き込まないようにと、シンドバットとモルジャーナさんに一人っきりで付いて行った事を。
『姉さん。危ないよ木登りなんて』
『これくらい平気よ。貴方も早く登りなさいよ』
『また姉さんがお母さんに怒られてる』
『お母様ったらまた私の頭にげんこつを落としたのよ!?酷いと思わない?』
『凄い魔法の才能ね。流石私の弟よ!』
『ちょ、抱きつかないでよ姉さん!』
『はぁはぁ。行っちゃうの姉さん?』
『別に一緒会えないわけじゃないから。いつか戻ってくるわよ。だから任せたわよ』
『……うん。屋敷の事も僕がきちんと対応しておくから』
『僕は姉さんの弟で幸せだよ。これ以上は何も望まない。姉さんの事が大好きだ』
『やっと言ってくれたわね。素直じゃないんだから』
『だから約束してよ。必ずまたーーー』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます