第二十話 シンドバットの目的とは!?

 

 夜の学園は静かだ。


 それもそうだろう。住んでいるのは学生が多く、その殆どが寮生活をしている。

 明日が休日ならまだしも、普通に授業があるなら早めに寝るのが基本だから。

 寮にも門限はあるし、こんな夜中に町にいるのは日頃の疲れを癒しに飲み屋に行く教職員とその相手をする店員くらいだ。

 校舎に行けば研究熱心な人達が見回りをしている用務員さんに怒られているでしょうね。


 その魔法学園の中をこそこそと移動する。

 時には身体強化の魔法を使って屋根の上を跳躍してショートカットする。

 シンドバットは魔法が得意じゃないと言っていたけど、その身のこなしは軽い。曲芸師みたいにピョンピョン跳ねる。

 魔法無しだったら私なんか足元にも及ばないでしょうね。

 そしてその側近であるモルジャーナさんも流石の腕前だ。


「そうだシルヴィアちゃん。今夜のこれ、皆んなにはナイショで頼むよ?」


 走りながらこちらに顔を向けてシンドバットが話しかけてくる。


「それは内容次第よ。というか、この学園で一体何をしようっていうのよ」

「探し物かな。うんと昔の忘れ物を」

「シン様。説明は私が」


 頼んだ、とシンドバットが言うとモルジャーナさんが私の横に近づいて自分達の目的を話し出した。


 遥か昔、まだこの国が建国される前の時代。

 悪い闇の神に仕えるJOKERが率いる闇軍勢が暴れていた乱世。

 主神である光の神は闇の軍勢に立ち向かおうとする初代国王にお告げを出した。

 自らの加護を与えた光の巫女と一緒に戦うようにと。


 ただ、いくら加護ありきとはいえ相手の力は強大。闇の神は神々の中でも特に力が強くて手がつけられなかった。

 なので初代国王は聖剣を持つ自分や光の巫女に匹敵する人物に助力を願った。


 その人物達こそ初代ダイヤモンド家当主、初代カリスハート家当主、そして我らがクローバー家当主様。

 この初代様がもっと頑張ってくれたら伯爵家なんて微妙な位置じゃなく、公爵だって狙えただろうにね。


 しかし相手の力は依然として強く、彼らは苦戦していた。

 そんな時だった。一人の若者が嵐で船が難破し、初代様達は若者を介抱してあげた。

 若者は自分の命である初代様達が世界を平和にするために戦う姿に感銘を受け、協力を申し出た。


『我が祖国にある秘宝を使えば戦況を五分五分に出来るかもしれません』


 そう提案した彼は何と海の向こうにあるシンドリアン皇国の皇子だった。

 彼は一度祖国に戻り、国中を説得して回って秘宝を借り受けて戦場に参加した。

 皇子の助力もあり、初代様達は何とか闇の神を封印する事が出来たのだ。


「ただ、その皇子は国に戻ると処刑された」

「えっ!?良い話だったじゃない」

「彼は秘宝を持ち帰って来なかったのだ」


 誰が何を聞こうと彼は自分が秘宝を失くしてしまったとしか言わない。

 国の宝を他所へ持ち出して失くすなんて!と国中から批判を受けて彼は処刑されてしまった。


 彼の死を嘆いた兄である当時のシンドリアン皇帝は彼の最後の願いを聞き受け私達のトランプ王国を責める事はしなかったという。

 シンドリアンでも有名な船乗りで数多の海を制覇した英雄の名はその最期と共に今でも語り継がれている。


「英雄の名はシンドバット。オレっちと同じ名前だね」

「シン様はただの放浪好きですがね」

「余計な事言うなよな。で、オレっちの探し物はその英雄が失くした秘宝さ」


 なんだか凄い話を聞いたわね。

 ただの恋愛ゲームの世界かと思っていたらバリバリのファンタジー戦記な歴史があるなんて。

 それにシンドリアンの皇子のおかげだなんてうちの国じゃ聞いた事が無いわね。


「調べた限りだとこの国の人はシンドリアンの秘宝について知らない。……多分、当時の国家間で秘密のやり取りがあったんだろうな」

「シンドリアンでもこの英雄が国の宝を失くして処刑されたとしかただの民は知りません。が、皇族に近しい者のみ口伝で言い伝えてあります」


 それでシンドバットは英雄の方のシンドバットの話を知っているのね。

 そして彼が失くした国の宝を取り戻そうとしていると。


「だけど、どうして学園に?」

「ここは王都より先に作られた遺跡の集合地帯なんだよ。闇の神が封印されたのもココらしいし、他にも何かあるんじゃないの?」


 それらしき物はいくつかあった。

 遠くを見れる手鏡、変身薬、聖剣、聖杯、闇の宝玉。

 それらはこの魔法学園内に隠されていた。


「そうなるとオレっちの国の秘宝もこの学園の何処かにある。そう目星をつけてやって来たんだ」

「じゃあ、最初に私達と出会ったのは?アレも何か探していたの?」

「いいや。アレはシン様が我々の護衛に囲まれて生活するのが嫌だと言って逃げ出したのだ」


 おい。それでいいのか皇子様?


「結果オーライだから大丈夫っしょ。それにシルヴィアちゃん達に会えて嬉しかったし」

「最悪の出会いだったけどね!」


 全裸の変態かと思っていたわよ。

 まさかそんな人物が異国の偉い人だなんて考えもしなかったし。第一印象って大事。


「で、まだ一つ疑問があるの」

「何かな?」


 シンドバット達がご先祖様の失くした物を探しに来たのは分かった。

 それが学園内にありそうだから留学生として潜り込んで、今もこうしてこそこそと探している。

 だけど何百年も前の物をどうして今更に求めているのか。闇の軍勢に対抗できるような代物を誰にも何も言わずに誤解されるような行動をしているのか。


「どうしてそんなに必死なの?私の手まで借りて」


 真っ直ぐにシンドバットの目を見る。

 走っていた足が止まり、異国の皇子は私に向かい合った。

 飄々としている彼らしくない。国からの命令だとしても面倒くさいだとか言いそうなのに。


「前にシルヴィアちゃんに何を目的に強くなりたいかって聞かれたじゃん」

「えぇ、そんな話したわね」

「オレっちは認められたいからって答えた」


 彼が口にしたその言葉には普段の様子から想像がつかないような重みがあった。

 意外だったので私も覚えている。


「オレっちは秘宝を手にして国に戻って認められたい。そんでもって皇帝になる。そう姉貴に誓ったんだ」

「お姉さん?」

「あぁ。姉貴はオレっちみたいな側室の子じゃなくて正室の長女。女帝もありだからいずれは貴族の男と結婚する。……でも、姉貴が惚れてるのはどこにでもいそうなただの船乗りの人だ」


 貴族、それも皇族ともなれば自由な恋愛は無い。

 平民と皇族なんてそんなの乙女ゲームくらじゃないと成立しない。


「オレっちもモルジャーナも姉貴には世話になった。だからその借りを返してーじゃん?やってる事はデッカいけど、まぁ……一番根っこの部分は家族愛ってね。恥ずいから他の人には内緒にしといてね」


 照れ隠しに笑うシンドバット。

 ちょっとだけ耳が赤くなっていて、モルジャーナさんも微笑ましそうにしていた。


 なんだか心配して損したわね。

 てっきり戦争の為とか、ご先祖様の名誉挽回の為なんて疑ったりもしたけど拍子抜け。

 お姉ちゃんのために我儘言って最悪のタイミングで身を張っているなんて。

 魔法もお師匠様式の鍛え方でボロボロになりながらも必死に食らいついて来た。


「シスコンなのねシンドバットは」

「あはははっ。そうだね。オレっちはシスコンだ。姉貴の為に惚れた女の子に頼み込んで手伝って貰おうとするくらい重度のシスコンだな」


 家族愛。嫌いじゃないわ。

 私だって家族のためにお師匠様との旅に出たし。


「でもそういうの私はカッコよくて素敵だと思うわよ。……お姉ちゃん冥利に尽きるわね」


 もし私が同じ立場でクラブがこんなに思っていてくれたらとっても嬉しいだろう。

 いつの間にかこんなにも大きくなってと感動しながら。


「よーし。そういう事情なら私も全力で手伝うわよ。どんな物でもぶっ壊してあげるわ!」

「お手柔らかにね……」

「シン様。やはりこの女に頼るのは危険だったのでは……」


 ん?よく聞こえないけれど、何か言った?


 気持ちは十分に私達は目的地へと向かうのだった。

 目指すはシンドリアンの秘宝が眠っていそうな場所。

 この魔法学園に隣接する大きな湖へと。



















「どうかしましたシン様?」

「いや、やっぱズリィな〜と思って」

「あの女、良く似ていますね」

「姉貴が言いそうな事言ってさ。……あーあ、フラれたのが益々残念だ」

「その割には嬉しそうですが?」

「だって、あんなにも一途に好きな人がいて愛し合ってて。姉貴にもあれくらい自由になって欲しいよ」

「その為にも我々は頑張りましょう」

「モチのロンでしょ!」






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